挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十九章 有翼人

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

163/179

決意

 遅くなりましたが……皆さん、あけましておめでとうございます。

 相変わらず不定期な更新ですが、今年も『ワールド・ティーチャー』をよろしくお願いします。

 俺たちが有翼人の集落を訪れてから、早くも半月が経過していた。

 この地に住まう者たちの暮らしぶりを知り、訓練をしながらカレンを鍛え、希望してきた竜族や有翼人に料理教室を開いたりと中々多忙な毎日を送っている。
 そして今日もまた、俺はエミリアを連れて人の姿になった竜族と有翼人たちに料理を教えていた。
 最初はトンコツラーメンだけだったが、今ではコロッケも含め、この集落で作れそうな料理も教えているのである。

「このように、左右の手を使って肉をお手玉してください」
「ハンバーグはこの作業を怠ると中の空気が抜けず美味く焼き上がりません。彼女の見本を基準に、何度も挑戦して体で覚えてください」
「うーむ……これは我々の力では難しいな」
「こういう作業は私たち有翼人の出番でしょう。竜族の皆さんは鍋の方と火の調整を主にするべきかと」
「だが、お主たちに頼ってばかりではな。とにかく何度もやって慣れるしかあるまい」

 竜族の力では、ハンバーグのタネの空気を抜く作業が厳しいようだ。力が強過ぎて、反対の手で受け止めると完全に潰れてしまうからである。
 それでも挑戦していく竜族たちと、教えた手順通りに作っていく有翼人たちを眺めながら俺は静かに頷いていた。

「ここまで出来るなら、もう俺がいなくても大丈夫そうですね」
「はい。シリウス君みたいには出来ませんが、何とかなりそうです」
「ここまで作れるようになれば、長も文句は言うまい。感謝するぞ」

 料理を教え始めた頃は緊張して固い表情ばかりだったが、今では自然な笑みを向けてくれるようになった。
 有翼人は人族に似ているから気にならないのだが、竜の特徴が残る竜族が肉をお手玉したり、鍋の灰汁を取っている光景は実にシュールだ。
 そして今日で最後となった料理教室が終わってカレンの家に戻ると、カレンが弟子たちとフレンダに見守られながら訓練している最中だった。

「やっ! はっ!」
「その調子よカレン。立ち止まらないようにね」
「頑張って、カレンちゃん!」
「カレン、もう少しよ!」

 あれから毎日訓練を重ねてきた御蔭もあり、カレンは遂に『エアステップ』が使えるようになっていた。
 しかしカレンの体内魔力量がそこまで多くないので、現時点では数歩が限界である。
 動きもぎこちなく何度もバランスを崩しそうになっていたが、しっかりと五歩分だけ宙を蹴って飛んだカレンは、その先に立っていたフレンダの胸元へ飛び込んでいた。
 前へ飛ぶ勢いを殺さずに突っ込んだので、フレンダが支えきれずに背中から倒れそうになっていたが、ホクトが前足を出してクッションになってくれたので大事には至らなかった。相変わらず良い仕事をしてくれる。

「はぁ……はぁ……見た、おかーさん?」
「ええ、凄かったわカレン。今日は五歩も進めたわね!」

 抱きしめられたまま頭を撫でられているカレンだけでなく、フレンダも心から嬉しそうに笑っていた。
 カレンが何か成功する度にきっちりと褒めるフレンダを見ていると、実に仲睦まじい親子だと思う。ちょっと褒め方が過剰に見えなくもないが、フレンダは父親の分も含めて娘を可愛がっているのかもしれない。
 そんな親子を眺めながら近づけば、カレンが俺が戻って来ているのに気付いて駆け寄ってきた。

「ねえねえ、お兄さんも見てた?」
「ああ、しっかり見せてもらったぞ。上手くなったな、カレン」

 近づいてきたカレンの頭を撫でてやれば、カレンは翼を羽ばたかせながら嬉しそうに笑っていた。
 昔の姉弟を彷彿させる姿に懐かしさを覚えながらカレンの体調を確認してみれば、少しばかり魔力枯渇の前兆が見られた。

「だけどそろそろ休んだ方がいいぞ。俺の方も終わったから、一緒に休憩しようか」
「うん! じゃあね……」
「ああ、もちろんわかっているさ。持っておいで」
「すぐに持ってくるね!」

 疲れている筈なのに、駆け足で家から一冊の本を持ってきたカレンは、近くの木を背もたれにして座っていた俺の膝の上に乗ってきた。
 最近のカレンはこうして本を読むのがお気に入りなのだが、その理由はカレンが持ってきた本にある。

「ねえねえ、この大きな湖には魚が沢山いたの?」
「沢山いるだけじゃなく、不思議な魚も多かったぞ。全身が柔らかくて足が八本もある生き物だったり、ホクトよりも大きい魚もいたしな」
「ホクトよりも!? アスじいでもお腹一杯になれそう!」

 カレンが開いたページには、俺たちが以前立ち寄った事があるパラードとロマニオの町を支える巨大な湖、ディーネ湖について書かれていた。
 この本はカレンの父親であるビートが書き残した物で、彼が世界を旅して体験した不思議な出来事や噂、そして行く先々で印象に残った事が書かれているのである。
 父親の遺品で、カレンの宝物でもある本を初めて読ませてもらった時、著者は好奇心が非常に旺盛で、旅が本当に好きなのだというのがはっきり伝わって来た。
 カレンの好奇心が旺盛なのは、きっとこの本の影響なんだろう。この子は父親の血をしっかりと受け継いでいるようだな。

 本は数冊残されており、内容の大半が知らない事ばかりだったが、読み進めている内に俺たちが実際に行った場所が幾つか載っている事に気づいたのである。
 なのでそれを教えてみれば、カレンは目を輝かせながら現地について詳しく聞いてきた。
 それ以来、この本を読む時は俺との場合が増え、今では休憩の合間でもこうして一緒に読むようになっていた。

「じゃあ、これは見た事がある?」
「ふむ……すまないが、これはないな」
「私は知っているわよ。シリウスと出会う前に行った事がある場所だけど、聞きたい?」
「聞きたい!」
「あ、ここは母様から聞いた事がある場所だ。一度でもいいから行ってみたいな」
「カレンも行ってみたい!」

 俺たちから聞いた話を想像したり、新しい知識を得ているカレンはとても楽しそうである。
 だから俺も楽しく教えられるのだが……一つだけ困った事があった。

「カレン。もう少し……翼を大人しく……だな」
「ねえねえ、これは?」

 ……聞いちゃいないな。
 感情が高ぶった時のカレンは自然と翼が動いてしまうので、さっきから俺の顔に翼が何度も当たるのである。翼は柔らかいので痛くはないのだが、とにかく鼻がムズムズして仕方がない。
 しかし水を差すのもあれなので、我慢して読み進めていると、レウスが笑みを浮かべながら頷いていた。

「兄貴がカレンの父ちゃんみたいだよな」
「駄目よレウス」
「あ……ごめん」

 産まれる前から父親を亡くしているカレンの前でそういう話題は避けるべきだろう。
 リースから指摘されたレウスはすぐに口を閉じたが、幸いな事にカレンは本に夢中だったのか聞こえていなかったようだ。
 皆の安堵する息が漏れる中、俺は振り返って屈託のない笑みを浮かべるカレンの頭を撫でるのだった。





 それからカレンの訓練が終わった後、俺は初めてアスラードと出会った洞窟にやってきた。
 本来ならゼノドラや代表の竜族と一緒でなければ入ってはいけない場所らしいが、俺は竜族の長であるアスラードから許可は貰っているので問題はない。
 光る鉱石で照らされる洞窟内をしばらく進めば、竜の姿のアスラードが広間で岩を削っている姿があった。

『む、お主か。今日で料理教室とやらが最後だと聞いたが、皆の様子はどうだ?』
「良い調子ですよ。基礎は十分に理解しましたので、後は皆さんの頑張り次第ですね。それより、今日お願いしてもよろしいですか?」
『うむ、いつもの所に置いてあるー……と、言いたいところだが、珍しいな。今日はお主一人なのか?』
「ちょっと理由がありましてね。さてと……」

 あれ以来、カレンを救った事や、集落に新たな食材や料理をもたらしてくれたお礼という事で、この洞窟を掘った時に出て来た鉱石や宝石を分けてもらえるようになっていた。
 かなり大きい宝石もあって実に魅力的な話であるが、俺が一番嬉しかったのは魔石もあった事だ。
 ほんの一欠片でも金貨数枚はする魔石でも、それを利用する必要のない竜族にとっては大した価値はないらしく、洞窟内には相当な量が残っていたのである。
 好きに使っても良いと許可は貰っているので、俺はここぞとばかりに新たな魔道具の作成や、実験等に使わせてもらっていた。

 いつもなら持ってきた袋に魔石を詰めたらすぐに帰るのだが、他にも欲しい物があった俺はアスラードに声を掛けていた。

「アスラード様。今日はこっちの宝石も幾つか貰っていきますよ」
『む、急にどうした? お主は今までそれに興味を持っていなかっただろう?』
「実はこれで作りたい物があるんですよ」
『ほう、何を作る気だ?』

 先程から岩を削る作業を止めなかったアスラードであるが、俺の言葉を聞いて手を止めていた。
 この洞窟内にある石像や装飾品を作ったように、アスラードは工作が趣味だからだろう。
 興味津々と言わんばかりに顔を近づけてきたので、周囲に誰もいない事を確認して理由を教えれば……。

『……なるほど、そういうわけか。一人で来るわけだな』
「では、こちらの原石を幾つか貰って行きー……」
『否! 知ったからには簡単に渡せんぞ!』
「……ここは快く渡す場面だと思うのですが?」
『確かにそうかもしれんが、結果を思うと素直に渡す気になれんのだ。欲しければ力づくで手に入れてみせろ!』
「面倒くさい上に大人気ないな!」

 その後、洞窟を出た俺は、人の姿になったアスラードと殴り合いの喧嘩をする羽目になった。
 後に判明したが、どうやらアスラードは嫉妬を含め、メジアと戦った俺と一度戦ってみたかったらしい。
 というわけで本気ではなく半分冗談交じりの喧嘩となったのだが、相手は仮にも竜族を束ねる長なので、集落に住む竜族と有翼人たちが集まる大騒ぎになるのだった。





 結果、右アッパーが決まってアスラードに勝利し、目的の宝石を手に入れてから数日後。
 遂に目的の物を作る事が出来た俺は、その日の夜にエミリア、リース、フィアの三人を誘って夜の散歩に出かけていた。

「はぁ……星が綺麗だね」
「はい、空がとても近い気がします」
「色んな場所を巡って来たけど、この辺りは特に綺麗よね」
「標高が高い場所で空気も澄んでいるからな。星を見るには最適だろう」

 満天の星の下、楽しそうに笑う彼女たちと共に俺は集落を当てもなく歩き続けていた。
 そして集落から少し離れた小高い丘まで来たところで、前を歩いていたフィアが穏やかな表情で振り返って来たのである。

「それで、一体どうしたの? 夜の散歩に誘ってくれたのは嬉しいけど、私たちに何か話があるのよね?」
「やっぱりわかるか?」
「わかるよ。だって散歩ならレウスとホクトが付いてきそうなのに、ここにいるのは私たちだけだもの」
「もしかして、何か悩みがあるのでしょうか?」

 確かに散歩となればホクトが黙っていないだろうが、別に仲間外れにしているわけじゃない。
 事前にレウスとホクトには説明しており、今夜だけはカレンの家で待っているように伝えてある。
 何か深刻な話だと勘違いされて心配するような目を向けられるが、俺は違うとばかりに笑いかけた。

「悩み……という程でもないんだ。これからについて相談したい事があってな」
「相談なら皆一緒の方がー……あ、もしかしてレウスに関わる事なの?」
「またあの子が何か仕出かしたのかしら?」
「その辺りの事情も含めて、まずは俺の話を聞いてほしい」

 そこで一旦彼女たちの前に出た俺は、カレンの家がある方角を向いてから語り始めた。

「実は、そろそろこの集落を発とうと思っている」
「そうね……」
「遂に……ですか」

 料理教室はもう十分だし、フレンダの体調も健康そのものだ。
 そしてカレンには魔法の基礎的なものは教えられたので、これからも自主訓練を続けていれば有翼人の中でトップクラスの強さとなるだろう。
 ここの暮らしぶりも十分知れたし、正直に言って俺たちがここにいる意味はほとんどないのだが……。

「もうちょっと……いてもいいんじゃないかな?」
「そうしたいところだが、大陸間会合レジェンディアが行われる時期も迫っているようだしな。余裕がないわけじゃないが、予期せぬ出来事に備えて早目に向かっておきたいんだよ」

 数ヵ月後にサンドール国で行われる大陸間会合レジェンディアは、各大陸の主要都市の王や重鎮が集まり、互いの情報を交換し合う世界会議みたいなものだ。
 そんな時期に行けば面倒な事もありそうだが、サンドール国はこの世界で一番大きい国とも言われている場所なので、前々から一度は行ってみたいと思っていた。
 それに大陸間会合レジェンディアに合わせて行けば、エリュシオンのリーフェル姫やカーディアス王も来る筈だから、リースも久しぶりに家族と会えるしな。
 俺の言葉に彼女たちは納得はしているようだが、やはり気になる事があるようだ。

「もうカレンちゃんとお別れ……なのですね」
「せっかく可愛い妹が出来たのにな……」
「あ、そうだ。カレンって外の世界に興味を持っていたわよね? いっそ私たちの旅に誘ってみる?」

 フィアの言葉は冗談だと思うが、俺が頷けば本気で誘いそうだな。
 一度は共に旅をしたせいか、皆カレンに愛着がわいているようである。少し独特な性格だが、どこか放っておけない不思議な魅力があるからな。
 正直に言わせてもらえば無属性同士という事もあり、もっと色々と教えてみたかったが、こればかりは仕方があるまい。

「その気持ちはわからなくもないが、カレンと母親を引き離すわけにはいかないだろう」
「はい。やはり子供は親と一緒なのが一番ですよね」
「うん。わかっているけど、何だか凄く複雑だよ」

 カレンと別れるのは寂しいが、大陸間会合レジェンディアで家族と会えるかもしれないリースは悩ましい表情をしている。
 慰めようと頭を軽く撫でてあげれば少し表情は柔らかくなったが、それでも辛そうである。

「私……笑って別れられるかな?」
「カレンちゃんが泣いたら、心が凄く痛みそうです」
「同感だけど、そこは大人の私たちが我慢しないとね。せめて笑顔だけは忘れないようにしなさい」
「フィアの言う通りだ。その気になればまた来られるんだし、せめて笑って別れたいところだな」

 すでにこの件はレウスとホクトにも説明して納得済みである。
 これで惜しみながらも全員納得してくれたので、明日にでもフレンダやアスラード辺りに切り出すとしよう。
 後は……。

「実はもう一つ大事な話がある。まだ先の話だけど、サンドールで大陸間会合レジェンディアが終わったら……一度メリフェスト大陸に戻ろうと思っているんだ」
「それは良いですね。久しぶりにお姉ちゃんたちと会えそうです」
「あれから一年は経っているし、もう二人目の子供が生まれている筈だよね?」
「あら、それなら赤ちゃんが見られそうね。私はまだその人たちに会った事がないから、挨拶しにいかないと」

 今後の状況次第で変わる可能性もあるが、メリフェスト大陸へ戻る事に反対はないようで一安心だ。
 しかし、本当に大事なのはここからである。
 俺は気を引き締めながらゆっくりと振り返り、彼女たちと正面から向き合っていた。

「それでメリフェスト大陸に戻って、ノエルたちと会って、母さんの墓参りを済ませた後は……エリュシオンで結婚式を挙げようと思っているんだ」
「……え?」
「それって、もしかして……」
「結婚……式? え、えーと……姉様とメルトさんはまだー……」
「俺たちの結婚式だよ」

 俺たちは恋人の関係であり、将来を約束した仲であるが、旅をしている事情もあって結婚についてはあまり口にしてこなかった。
 この世界の人たちにとって結婚式とは、お披露目というより貴族同士が繋がりを得る政治的手段の一つして考えるので、必ずしも行うものではないからである。
 実際、過去にレウスの友の結婚式に招かれた時は羨ましがっていたが、彼女たちが結婚式をしたいと口にしてきた事はほとんどない。お互いに一緒にいられるだけで満足しているし、フィアに至ってはまず子供を欲しがっているしな。

 傍から見れば俺たちはもう夫婦みたいなものだが、だからといって何もしないのは彼女たちに失礼だ。
 もう俺も結婚するには十分な年齢だし、この際だから知り合いを集めて盛大に結婚式を行い、夫婦というのを明確な形にしようと決意したわけだ。

「エミリア。リース。フィア。左手を……出してくれないか?」

 結婚と聞かされて呆然する彼女たちの前で、この数日間で作った指輪を懐から取り出していた。
 そして銀、青、緑の小さな宝石が付いた指輪を彼女たちの薬指に通してから、俺は一人一人の目を見ながらはっきりと告げた。

「エミリア。いつも俺を支えてくれて、本当に感謝しているよ」
「シリウス様……」
「だからこれからも隣で俺を支えてほしい。従者としてではなく、俺の妻としてさ」
「あ……あぁ……」

 俺のプロポーズを聞いたエミリアは感極まったかのように泣き出しているが、返事は聞くまでもないだろう。
 涙は零れていても、こんなにも幸せそうに笑いかけてくれたのだから。

「ほ、本当に私でいいの? 私は……そう! 凄く食べるよ!? それにシリウスさんや皆と違って戦うのが苦手だから、迷惑かけちゃうし……」
「俺はリースが食べている姿を見るのも好きだし、戦いが苦手だって事は十分知っているよ。好きなところも苦手な部分も全部知った上でリースを好きになって、俺は一緒にいたいと思っているんだ」
「私も……同じだよ。いつも私たちを優しく見守ってくれるシリウスさんが……その、大好きだから」
「ありがとう。リース、こんな俺だけど、結婚してくれるかい?」
「……はい、喜んで」

 顔を真っ赤に染めているリースだが、俺が嵌めた指輪を擦りながらもしっかりと頷いてくれた。
 後はフィアだけだが、彼女だけは若干だが苦笑しているようだ。まあ、それも当然だろうな。

「まさか、全員一緒にプロポーズしてくるなんて思わなかったわ」
「すまない。本当なら一人一人呼んでからするべきかもしれないが……」

 だがそうなると彼女たちに順番を付けているような気がして、俺はどこか嫌だったのだ。まあ、彼女たちの仲の良さを知らなければ、こんな風にプロポーズなんてしなかっただろう。
 そんなわけで少し後ろめたかったのだが、苦笑していたフィアは目を細めながら笑ってくれた。

「それ以上の言葉は必要ないわ。貴方の気持ち、私たちはきちんと理解しているから」
「……ありがとうな。少し後になって悪かったけど、改めて言わせてもらうよ。フィア……俺の妻になってくれ」
「ええ、その言葉……ずっと待っていたわ。これからもよろしくね、シリウス」

 ほんの少しだけ目を潤ませながらも頷いてくれたフィアは俺の腕に抱きついてきたが、一言補足するように俺の目を見ながら告げてきた。

「何だか色々と気にしているみたいだけど、私たちは満足しているから大丈夫よ。だって貴方は私たちを平等に愛して、きちんと応えてくれるもの」
「私もフィアさんと同じです。従者である私を、恋人どころか妻にしてくださるのですから、これ以上の喜びはありません!」
「これで私たちは本当の家族だね!」

 全員へのプロポーズが終わると同時に、エミリアとリースも俺の胸に飛び込んできたので、俺は包み込むように抱きしめながら、彼女たちだけでなく自分への誓いを口にしていた。

「旅ばかりで色々苦労をかけているけどさ、これからも俺は君たちを守り続けるよ。だから、ずっと俺と一緒にいてくれ」
「もう……大変な事は確かにあったけど、貴方と一緒で後悔なんてした覚えはないわ。貴方はそのままでいて」
「そうだよ。それに私たちは守られるだけの、お……奥さんになるつもりはないからね!」
「これからもずっと、私たちはシリウス様を支え続けます」

 実に頼もしい言葉と共に恋人……いや、俺の妻たちは笑いかけてくれるのだった。





 お互いの想いを確かめ合い、色々と緊張したプロポーズから次の日……俺はカレンの家で、テーブルを挟んでフレンダと向かい合っていた。
 弟子たちは外でカレンの訓練を見守り、デボラはちょっとした所用で出掛けているので、現在この家にいるのは俺とフレンダだけである。

「シリウス君。話があるって言っていたけど、何かしら?」
「実は、そろそろ旅に戻ろうと思っているんです」
「そう……遂に来たのね」

 何となく予想はしていたのだろう。フレンダは残念そうに息を吐きながら窓へ視線を向けていた。
 俺も釣られて振り向けば、窓から見える外では弟子たちと一緒に訓練をしているカレンの姿が見えた。大変そうであるが充実した表情をしている愛娘を、フレンダは優しく見守っていた。

「貴方から見て、カレンの魔法の腕前はどうかしら?」
「正直言わせていただくなら、将来がとても楽しみな子だと思っています。努力家ですし、何より探究心が強いせいかイメージするのが上手く、魔法に関する才能は非常に高いです」
「うふふ……良かったわ」

 俺たちと出会う前は、カレンの適性属性が無属性と知らず、魔法の才能がないと思っていたからだろう、フレンダは本当に嬉しそうにしていた。

「今のカレンに使えそうな魔法はほとんど教えました。更に魔法のコツもほとんど理解しましたし、後は自ずと強くなっていくと思います」
「まだ教えられる魔法があるの?」
「ありますが、カレンにはまだ早い魔法ばかりです。旅をしている以上、軽々とは使えない強力な魔法がありますので」

 カレンには前世の武器をイメージした魔法の類は教えてはいない。あれは人の命でさえ軽々と奪えるものだからな。
 ちなみにメジアへ散々放った『マグナム』は、遠目なせいもあって『インパクト』の強力なものだとカレンは捉えているようだ。
 しかしどのような魔法であれ、結局は使い手次第である。
 それに魔物相手には強力な自衛手段にもなるので、『マグナム』だけでもメモに残し、カレンが大きくなったらゼノドラからそれを渡すように頼むつもりだと説明しておいた。

「……ありがとう。そこまであの子の事を考えてくれているのね」
「カレンは実に教え甲斐のある子でしたから。そんなあの子が求めてきたから俺は応えた……それだけですよ」

 出会いは偶然とはいえ、俺は自分のやりたい事をやってきただけだ。
 それよりも、夫を亡くしてもカレンを立派に育ててきたフレンダの方が立派だと俺は思う。
 俺のその言葉にフレンダは苦笑していたが、やがて真剣な表情で俺を見ていた。

「ねえ、シリウス君。私たちの命を救ってくれただけじゃなく、今も娘の為に色々尽くしてくれる貴方たちには本当に感謝しているわ」
「気にしないでください。俺たちもこの家に住ませていただいてとても助かっていますから」
「そんなのじゃ全然足りないわよ。もうどうやって恩を返せばいいのかわからないのに、私は……シリウス君にお願いしたい事があるの」
「……聞きましょう」

 短い付き合いだが、フレンダは誠実で、恩は返さないと気が済まない性格なのは理解している。
 それでもこんなにも真剣に何かを頼んで来るという事は、それだけ重要な話なのだろう。
 一度言葉を切ったフレンダだが、俺が頷いたのを確認すると、決意を込めた表情で告げてきた。

「娘を……カレンを、貴方たちの旅に連れて行ってあげてほしいの」




 おまけ カベドン


「別に皆一緒でも構わなかったけど、一人一人呼んでプロポーズもされたかったわね」
「私は……これで良かったかも。だって二人きりだと、恥ずかしくて何も言えなさそうだし……」
「はい、凄く悩ましいです」
「なあ……姉ちゃん。何で俺はここにいるんだ?」
「貴方は女性に関して少し疎いですからね。私たちの話を聞いて、少しでも勉強しなさい」
「おう、わかった。ところでプロポーズで思い出したんだけどさ、兄貴の師匠から『カベドン』されると女性は惚れやすいって聞いた事があるぜ」
「カベドン?」
「カベは……壁の事でしょうか?」
「それでドン……だよね? 石の壁を破壊出来る力を、女性に見せつけるって事なのかな?」
「違うぜ姉ちゃん。ドンと付いて兄貴なら……料理に決まっているだろ?」
「あ!? かつ丼と同じような料理だね!」
「なるほど。女性をも軽々と落とす丼料理……というわけですか」
「これは見過ごせないわね」


「というわけで兄貴。カベドンが食べたいぜ!」
「……は?」






 ホクトは見た



 真っ暗な部屋の中、唯一明かりが置かれた円卓のテーブルには五人の男たちが座っていた。

「では、会議を始める」

 厳格な雰囲気の中、初めに声を出したのは、とあるエリュシオン国の王、カーディアスだった。
 真剣な表情をした王は、テーブルに座る面々を見渡しながら会議を取り仕切る。

「異論がなければ、私が進行役をさせていただくが……如何かな?」
「それは問題はないのだが……」
「ああ。これは一体何の会議なのだ?」

 銀狼族姉弟のお爺さんと、エルフ姉さんの父親が首を傾げながら質問すれば、エリュシオン王がテーブルに拳を叩きつけながら答えていた。

「当然、我が娘を娶ったという、あの男の事に決まっておるだろうが!」
「わしの可愛い孫を奪いおって。絶対に許せんのじゃ!」
「そうだ! 馬鹿野郎が!」
「いや、エミリアは私の孫なんだが……」

 肉親ではないが、エミリアにメロメロなどこぞの剛剣爺と、エリュシオンで鍛冶屋をやっているおっさんが交ざっているが、気にしない事にする。

「オン!」

 そして関係のないホクトも交ざっているけど……気にしない。
 未だに状況を理解出来ない姉弟のお爺さんとエルフ父に、エリュシオン王は説明する。

「つまりだな、本当にあの男が我が娘に相応しいか、改めて試す必要があるのだよ」
「私は別に彼でも構わないのだがな」
「ああ。それに私は娘の意志を尊重したい」
「そんな甘っちょろい事を言っている場合か! 自分の娘や孫が別の男のものになるのだぞ!」
「そうじゃそうじゃ! エミリアはわしの孫なんじゃ!」
「理屈じゃねえんだ、馬鹿野郎が!」
「だからエミリアは私の孫……」
「というわけで、これから奴の下へ押しかけ、実力行使をもって試す事にする! 皆の者、私に続けぇ!」
「ぬおおおぉぉぉ――っ!」
「馬鹿野郎がああぁぁ――っ!」

「……オン」




 次回予告

 シリウスに迫る、暴走するオヤジーズ(内二人は巻き込まれ型)。
 娘や孫を想う父親の理不尽な独占欲は凄まじく、さすがのシリウスも苦戦を免れないだろう。

 次回……とある白い狼に密告され、娘や孫の前で正座するオヤジーズ…………お楽しみに!


※続きません。



 余談

 最初はホクトが誰にも気付かれずに始末するオチもありましたが、剛剣爺がいると難しそうなのでこのオチに。

 ちなみに、最後のホクトの言葉を翻訳すると……。
 お巡りさん、こいつ等です……になります。




 今回はシリウスのプロポーズ話で異様に悩む事になりました。
 なにせ三人同時にプロポーズですから、言葉や表現にとにかく迷いまして……表現力の腕が足りず申し訳ないです。
 何だかんだでフィアと再会して一年以上は一緒ですし、その間にプロポーズは済ませていて、結婚話はもっと簡単に流そう……とも考えていました。

 一人一人でも良かったかもしれませんが、文書量が多くなって話が先に進みませんし、色々と悩みましたが……キリがないので、結局どんとこいとばかりに仕上げてみました。

 これからは、ハイエナの如くシリウスの子を孕もうとする妻たちの活躍をご期待ください(かなり誇張あり)。


 次回の更新は、二週間以内……となります。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ