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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十五章 選択

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正反対な奴等

 次の日、必要な買い物を済ませた俺達は、アルベルトとマリーナを連れて宿場町を出発した。
 そして時間の無駄を少しでも省く為に、グルジオフが生息する山の麓に拠点を作った。
 拠点と言っても、俺達の馬車を中心に町で買ってきた布や板で簡易的な小屋を建て、男性と女性が分けられるようにした簡単なものだ。

「すまんな、皆にはしばらく苦労をかけると思う」
「私はシリウス様の傍にいられるのなら、苦労なんて微塵も思いません」
「姉ちゃんと同じだな。俺も兄貴の傍なら何も問題ねえよ」
「私達にとって、この馬車が家みたいなものだよね」
「そもそも贅沢過ぎよ。これで文句言っていたら、アホな貴族と一緒よ」

 まあ、少し離れた場所に綺麗な川が流れているし、俺達の馬車には調理場もあるし風呂も用意できるからな。
 周囲の警戒に関してはホクトがいるし、下手な宿より遥かに設備が充実しているだろう。
 ちなみにホクトを初めて見た兄妹は、家の姉弟程ではないがホクトを上位の存在であると認識し、敬語を使いながら敬っている。わかりやすく言えば遥か格上の上司と言ったところだろうか? 

「私達よりシリウス様の方が気になるのでは? パラードに行くのを楽しみにしていましたよね?」
「まあ、楽しみにしていたのは否定しない。未知なる食材は確かに気になるが、町は逃げるわけじゃないからな。全て終わったら、兄妹に町を案内してもらおうと思っている」
「ふふ、それはいいわね。出身地なら色々詳しいだろうしね」

 弟子達は賛同してくれたので、これで俺も心置きなくアルベルトを鍛える事が出来る。


 そしてアルベルトが言った期限まで残り半月……。
 拠点の準備が整ったところで、本格的な訓練が始まった。

「先日戦ってアルベルトの実力は把握したので、今度は体力の限界を知ろうと思う。今から倒れるまで走ってもらうぞ」
「お手柔らかにお願いします師匠」

 弟子になったと言う事で、アルベルトは俺の事を師匠と呼ぶようになった。
 先日戦ってボコボコにされたせいか、色々心配そうにしているアルベルトの肩をレウスは元気よく叩いていた。

「おいおい、そんな弱気じゃ駄目だろ。どうせ倒れるんだから、前のめりに倒れる気分で行こうぜ!」
「……ああ、そうだな。恐れていては強くなれないよな」
「そういうわけだ。じゃあ俺は先に行くぜ!」

 そんなやりとりを交わし、先に飛び出したレウスに笑みを向けながらアルベルトも走り出した。
 俺も二人を追いかけようとしたところで、少し離れた場所から兄を心配そうに見つめるマリーナの姿が確認できた。

「兄上……」
「駄目ですよマリーナ。お兄さんが自分で決めた事なんですから、私達は静かに見守るべきです」
「でも、この間は気絶させられていたし、何かの拍子で兄上が……」
「そっか。私達はレウスを見て慣れたけど、傍から見れば心配で堪らないよね」
「だけど強くなる為に必要な事なのよ。それにシリウスは人の限界をよく理解しているから、アルベルトの心が折れない限りは心配いらないわ。信じて待つのも良い女の秘訣よ」

 俺の訓練を体験しているせいもあって家の女性陣は理解してくれているが、わからない人からすれば拷問にしか見えないのでマリーナが心配するのも仕方あるまい。
 そんなマリーナをエミリア達が笑顔で説得してくれているので、少しだけ落ち着きを見せていた。

「それよりお兄さんは必死に頑張っているのに、マリーナは見ているだけなの?」
「どうせなら、貴方も強くなってお兄さんを驚かせたらどう? 私達と魔法の練習でもしない?」
「……そうだ。ただ見ているなんて、私らしくないな」
「ではマリーナの適性属性からですね」
「えーと、私の適性は火属性でー……」

 俺はアルベルトとレウスに集中するので気になっていたが、あれなら問題はなさそうだ。
 後は任せてと頷くエミリア達に手を振り、先に走る二人を追いかけるのだった。



 数時間後……。

「がふっ!」
「兄上!?」

 ひたすら山の麓を走り、時折全力疾走を繰り返し、ようやく拠点に戻ってくると同時にアルベルトは崩れ落ちた。
 すぐさまマリーナが駆け寄ってくるが、それより早くリースが間に入ってアルベルトの容体を確認し始めた。

「リースさん、兄上が!」
「うん、ちょっと静かにしてね。怪我は……無し。呼吸も……荒いけど許容範囲内だね。まずは水分をー……」
「リース、水よ」
「ありがとう。アルベルト君、飲めるかな?」
「はぁ……はぁ……だ、大丈夫ー……」
「無理して喋らなくてもいいからね。シリウスさんの方ではどうですか?」
「……大丈夫だ。後遺症はない」

 俺はアルベルトに触れて『スキャン』で確認したが、目立った後遺症は確認できず、程良く限界を超えた疲労度だ。
 エミリアも冷たいのではなく温めの水を持ってきているので、このまましばらく休めば問題ないだろう。

 兄を酷い目に遭わせた俺をマリーナは睨んでいたが、手際良く看病する俺達を見ている内に、何もできていない自分に気付いて口を噤んでいた。
 それからアルベルトに問題はないと判明したリースとエミリアが離れた頃、一人だけ遠くを走っていたレウスが戻ってきたが、倒れているアルベルトを見て苦笑していた。

「だから俺に合わせたら駄目だって言ったじゃねえか。大丈夫か、アル?」
「はは……確かに……失敗だった。レウスが強い理由……よくわかったよ」
「ちょ、ちょっと! あんたと違って兄上は初めてなのよ。兄上の調子を狂わせないで!」
「どっちにしろ倒れるのは変わらねえよ。ふう……」
「あんたは慣れてるからー……えっ!?」

 休む時にはしっかり休むように言い聞かせてあるので、レウスは身に着けていた腕や足の重りを外していた。
 そんなレウスにマリーナはやり場のない怒りをぶつけていたが、レウスが外した重りが地面にめり込んでいるのを見て言葉が詰まっていた。

「ん、どうした?」
「……何よそれ?」
「何って、重りだよ。兄貴だって着けているぜ?」
「俺はレウス程じゃないけどな。状況次第でアルベルトにも着ける予定だ」

 残り半月でそこまで行けるかわからないが、個人的には到達できそうな気がする。
 何せ贔屓目なしでアルベルトは優秀だ。基礎体力は足りないが、相手の武器を確実に狙える技量は見事だった。なにより精神力はレウスに迫るものだと思うので、中々に鍛えがいがある。
 そしていずれ重りを着けると口にした瞬間、マリーナは水分補給をしているアルベルトに慌てて迫っていた。

「兄上、これ以上は止めましょう! もうボロボロじゃないですか!」
「すまない。幾らお前の頼みだろうとそれは出来ない。鍛えてほしいと私から口にした以上、簡単に諦めるなんて出来ないんだ」
「ですが、このままでは本当に死んでしまいます!」
「心配するな、私は彼女と結婚するまで死なないよ。それに私は悟ったんだ。今までの私は本当に甘かったんだって。まさしく身を以って教えられたよ」
「それがわかれば十分だろ。昼からも訓練だから、アルはしっかり休んでいろよ」
「……ああ、どちらにしろ全く動けないが」

 アルベルトの様子はレウスとマリーナに任せ、俺は調理場で料理を作っていた女性陣に声を掛けた。

「昼食の用意はどうだ?」
「完成しているわよ。すぐ食事にする?」
「俺達はいいが、アルベルトは少し休ませてからだな。俺はあいつを見ているから、準備を頼むよ」
「お任せ下さい!」

 おそらく今のアルベルトは胃が何も受け付けないと思うので、再生活性を施しながら休憩させて食事が摂れる程度まで回復させるのだ。
 なのでアルベルトの背中に触れて再生活性を行っていると、俺達の横で座って休んでいるレウスは隣に立つマリーナを見て首を傾げていた。

「なあ、マリーナは何してんだよ? アルなら大丈夫だから、姉ちゃん達を手伝ってくればいいんじゃないか?」
「なっ!? わ、私は兄上が心配で……」
「心配してくれるのは嬉しいが、私は大丈夫だよ。それより、向こうへ行って何か手伝ってきなさい」
「……わかりました」

 渋々と言った様子でマリーナは離れたが、エミリア達と一緒に昼食の支度を手伝っている内に初めて見るであろう料理に目を輝かせていた。

「はんばーぐ? 肉を一度バラバラにして固めるだけでこんなにも変わるんだ。それにこのスープ、時間が掛かった割に具も何も入っていないわ」
「それはアルベルトの食事よ」
「こ、これが兄上の食事!?」
「今は疲れて碌に食べられないからね。でもこれだけでも結構お腹に溜まるのよ。何なら少し味見してみる?」

 女性陣が手間暇かけて作っていたのを思い出したのだろう、フィアが渡してくれたスープを飲んだマリーナは見た目とは違う味に目を見開いていた。

「薄い……けど何だろう? 凄く優しい」
「でしょ? 私の時はシリウスが作ってくれたんだけど、何度もお世話になったわ」
「ですがまだまだです。シリウス様から教わった通りに作っているのに、やはり何か違います」
「経験の差かな? 微妙な煮込み時間とか、灰汁の取り方に秘密があるのかも」
「これもシリウスさんが?」
「当然です。私達のご主人様ですから!」
「オン!」

 まるで自分の事のように、エミリアと山から帰ってきたホクトが胸を張っていた。
 ちなみにホクトは俺達の代わりに食材調達を頼んでいるのだが、魔物の肉だけではなく山菜まで確保してくる万能ぶりを見せている。

 それから昼食となったが、疲労で碌に動けないアルベルトはスープを飲む事でさえ辛そうだった。
 こんな時は従者のプロであるエミリアの出番だろうが……。

「大丈夫ですか兄上?」
「ちゃんと食えよ。じゃないと昼から保たねえぞ」

 レウスとマリーナが構っているので必要はなさそうだ。

「はは……面目ない。何とも情けない姿だ」
「兄貴の弟子になれば誰だってそうなるさ。ほら、スプーン寄越せ。俺が食べさせてやるよ」
「なっ!? 兄上の世話は私がやるから、あんたは黙ってて!」
「別に誰がやったって問題ないだろ?」
「すまないが、気持ちだけ受け取っておくよ。彼女が嫉妬するような事はなるべく避けておきたいからな」

 妙な会話であるが、アルベルトはかなり身持ちが固い男というのがよくわかる。
 まあ、リースの看病を受けても微動だにしていなかったし、一途でもなければここまで来るわけもないか。

「しかし困ったな。このままでは昼から動ける自信がない」
「心配いらねえって。理由はまあ……実際に体験してみればわかるか」
「辛いと思うが、なるべく食べておくんだぞ。食事が終わったら仮眠だ」
「「仮眠?」」

 兄妹揃って首を傾げる光景が昔の姉弟にそっくりだな。
 内心でほくそ笑みながら、騒がしくも和やかな昼食を食べ終えた。余ったスープはレウスとリースが美味しくいただいたのは言うまでもない。



 食後……疲労もあってすぐに寝入ったアルベルトに触れようとしたが、マリーナが警戒を露わに睨みつけてきた。

「兄上に変な事をしたら……許さないから」
「心配なら見ているといい。ほら、触れるだけだ」

 何とか肩に手を置くのは許されたので、苦笑しながらも再生活性を施してアルベルトの回復力を高めた。
 一時間もあれば十分だと思うので、回復した後は再び全力で鍛えて体を苛め、同じ手段で回復の繰り返しである。
 この御蔭で一般的に知られる訓練より二倍、三倍の効率を得られるので、半月もあれば十分な結果を出せる筈だ。問題は途中で心が折れない精神力だが、アルベルトなら大丈夫だろう。
 そしてレウスも休もうと俺の隣に寝転がったが、マリーナはアルベルトの傍から離れようとしなかった。

「なあ、アルはただ疲れて眠ってるだけだぜ? どうしてそんなに心配してんだよ?」
「……あんたには関係ないわ」
「関係ないけどさ、何か昔の俺みたいで嫌なんだよ。心配し過ぎっていうかさ……」

 おそらくレウスは兄に依存し過ぎだと言いたいのだろう。
 それこそ、過去に姉のエミリアに依存していた自分のようにだ。

「あんたと一緒にしないでよね」
「いや、俺も昔はマリーナみたいに姉ちゃんが近くにいないと駄目だったんだ。でも今は違うから、見ていろよ」
「シリウス様。どうぞお口を」

 その時レウスの反対側に座ったエミリアが、満面の笑みを浮かべながら一口サイズに切った果物を差し出してきた。

「姉ちゃん。俺にもくれよ」
「ここにあるから、自分で食べなさい」
「な?」
「……ごめん。よくわからないわ」
「昔なら貰えるまで駄々こねてたけど、今は姉ちゃんが幸せだから別にいいやって思うんだよ。とにかくマリーナは心配し過ぎなんだ」
「心配し過ぎなのはわかっているし、私だって……兄上の幸せを願っているわ」

 図星を突かれたマリーナは、穏やかに眠る兄の顔を見ながら自嘲するように笑っていた。

「だって私はずっと兄上に守ってもらえたから生きてこれたの。だから、兄上の為に何でもしてあげないと駄目なの」
「それ、アルが望んでいるのか?」
「望んでるとか関係ない。兄上があの人と結婚したいなら、私は全力で応援するだけよ」
「なら兄貴の行動を止めるなよ。今は強くならなきゃ駄目なんだからさ」
「それで死んだら意味がないじゃない! 兄上は偶に抜けている時があるから私が守らないと」

 どうやら予想以上に兄に依存しているようだ。
 子供の頃から守られていたようなので、ある意味当然かもしれないな。
 本当ならアルベルトにも話を聞き、彼も交えて話すべき事だろうが……今はあまり深入りはすまい。

「何かあれだな。アルだけじゃなくマリーナも強くならなきゃ駄目だな」
「あいにくだけど、私だって火の魔法なら自信あるんだからね。あんたなんかその内黒焦げにしてやるんだから」
「そうじゃねえよ。だからー……いや、何か変な事を言いそうだから止めとくよ」

 また口を滑らしそうになっていたが、レウスは堪えたようだ。
 別に話してもいいかもしれないが、今は考えて口を閉じられたレウスを褒めようと思う。

「何よ! そこまで言って引っ込まないでよ」
「こら! アルベルトが起きちゃうだろ」
「あ!」
「う……パメラ……」

 大きな声にアルベルトに反応が見られたが、寝言を口にしているので起きてはないようだ。
 寝言で女性の名前を口にしているが、おそらくその名前の子が婚約者なのだろう。

 それからアルベルトを起こす時間まで、レウスとマリーナは微妙な空気のまま過ごすのだった。



 レウスと仮眠を終えたアルベルトを連れ、俺達は拠点から少し離れた広場へとやってきていた。

「凄い……師匠とレウスの言う通りだ。体が嘘のように軽い」
「さて、これで昼からの訓練に問題はないな?」
「は、はい!」
「今日から今のように、訓練しては回復を何度も繰り返す事になる。とにかく回数をこなして強くなっていくわけだが、お前の心が折れた時点で終わりだ。肝に命じておけ」
「わかりました!」

 アルベルトは僅かな仮眠で回復した体に驚いているが、訓練の本番はここからである。周囲への被害を考え、拠点から離れたのはその為だ。
 俺は隣に立つレウスの分も含め、用意した木剣を二人に握らせた。

「お、模擬戦だな兄貴。どっちからやるんだ?」
「両方だ。二人同時に、本気で掛かってこい」
「「へっ?」」

 俺は二人から一定の距離をとって木剣を構えた。
 揃ってどうするか迷っているようだが、俺が殺気を放てば反射的に剣を構えたのは及第点だな。

「他にも訓練はあるが、今日から毎日、二人同時に俺と模擬戦をしてもらう。勿論本気だぞ。それとアルベルト」
「な、何でしょうか?」
「模擬戦で俺に一撃を与えるまではグルジオフに挑むのは許さん。例え期限が迫ろうと、山に入ることは許さないからな」
「えっ!? それでは……」
「そのくらいの覚悟は持ってもらう。それに一撃当てるだけだし、レウスも一緒なんだ。無理な話じゃないだろう?」
「た、確かに。何とか一撃でも当ててー……レウス?」

 希望が見えた表情で木剣を構えるアルベルトだが、レウスは汗を流しながら集中力を極限まで高めていた。

「アルベルト……知り合いだからって手心は一切加えるんじゃねえぞ」
「あ、ああ。ボコボコにされたからよくわかっている。本気で……戦うさ」
「違う! もっと本気に……殺す気で戦え! 大型の竜に挑むくらいにだ!」
「だ、だが師匠は……」
「本気になった兄貴は殺そうと思っても無理なんだよぉ! いいから構えろ! 舐めた動きしてると……折られるぞ!」
「う、うおおっ!?」

「さて……行くぞ」





 数時間後……拠点に戻った俺は、抱えていた二人を地面に降ろした。

「「ごふっ!」」
「兄上!? って、あんたも!?」

 全身打撲に加え、全ての体力を消耗して……いや、無理矢理絞らせたので疲れ果てているだけである。少し経てば回復するであろう。
 一人増えたが、昼食前と変わらない状況の中、地面に転がる屍二つの前に全員が集まっていた。

「う……ああ……竜じゃない……竜じゃないぞ……」
「竜!? もしかしてグルジオフと戦ったわけじゃ……兄上!」
「うう……リース姉ぇ……」
「よしよし。今治療してあげるからね」
「流石に模擬戦になるとレウスでも耐え切れないようねぇ」

 リースによる打撲や外面の治療が終わり次第、俺の再生活性を行う予定だ。夕食にはまだ時間があるので、今度は個別の模擬戦をする為に復活してもらわないとな。
 魔法の水に包まれて治療が進む中、エミリアが薬箱を手に俺の隣へやってきた。

「シリウス様はお怪我をされていませんか?」
「ああ、俺は問題ない」

 二人同時に相手をすれば苦戦するかと思われるが、実はそうでもなかったのである。
 実際、もし二人が本気を出して攻めてくれば、俺は一撃くらい食らってもおかしくない筈だ。それだけの実力を、二人は持っている。
 だがそれは連携が上手くいけばの話だ。
 お互いの動きをある程度知っていても、いきなり連携して戦うのは不可能だと思う。実際、二人の行動はバラバラだった。

 いつも行っている俺との模擬戦のように突撃してくるレウスに、若干迷いながら隙を窺って一定の距離から攻めてこないアルベルト。
 なのでほぼ一対一の状態となり、レウスを倒してからアルベルトを仕留めて終わる結果ばかりなので、俺は無傷どころか少し疲れた程度である。
 そんな模擬戦だったと全員に伝えると、エミリアとフィアが疑問を浮かべた表情をしていた。

「二人同時に? どうしてそんな模擬戦しているのよ?」
「そうですよ。シリウス様も大変ですし、レウスには可哀想ですがアルベルトを鍛えるべきでは?」
「実は二人の戦い方を見て気になった点があってな。実はー……」

 レウスとアルベルト。
 見たところ気が合う二人だが、戦い方は見事に正反対なのだ。

 まずレウスだが、剛破一刀流とライオルの爺さんの影響もあり、特に理由がなければ正面から攻めたがる。
 それが悪いとは思わないし、俺との模擬戦で他の攻めや技術を教えたりしているが、レウスは元から備わっている鋭い動体視力と本能による第六感があるので、それに頼った動きをする癖がある。
 そして鍛えぬいた筋肉によって相手の攻撃を正面から受け止め、力で押し切って突破する戦法が多い。

 対してアルベルトだが、基礎体力が劣っているが、小手先の技術と先を読む能力が非常に高い。
 実際その能力を発揮し、闘武祭では明らかに力で負けているレウスの一撃を一度とはいえ逸らしたのだから。
 アルベルトは婚約者を守る為に強くなろうとしているので、とにかく守りに特化した戦士なのだ。どこぞの宗教に入った弟子の一人ではないが、アルベルトは聖騎士パラディンと呼ぶに相応しい男だろう。
 そのせいもあり、彼はとにかく受けに徹して自発的に攻める事がほとんどないのだ。
 闘武祭の時も攻めるより待ちの戦法ばかりで、先程の模擬戦もどうやって攻めるか迷っていたからな。

「先程の模擬戦で俺を倒すのは個人じゃ無理だと知った筈だ。つまり二人は連携するようになり、動きを合わせようと相方を観察し合うわけだ」

 この後で個人の模擬戦を行うのはその為だ。
 攻撃と防御……二人はお互いに足りない部分を持っているので、観察して自分に足りないものを気付いてほしいというわけだ。
 数日経って変化がなければ口を出すつもりだが、自発的に行ってくれる事を期待している。

「基礎体力の向上を主にして、後はとにかく模擬戦を繰り返して経験を積ませるくらいだな」

 どうもアルベルトは知識にない攻撃がくると若干戸惑うようなのだ。ちなみにレウスの場合は本能や勘で強引に避ける。
 なので俺は毎回戦法を変えながら模擬戦をして、何が起きようと臨機応変に対処し、咄嗟に動ける判断力を培うわけだ。
 戦いとは暗記問題ではないのだから。

「へぇ……そういうわけね」
「ついでに、というより一番気になっている事だが、アルベルトがレウスにとって対等の友達……相棒と呼べるような存在になってほしいと思っている」
「ああ……申し訳ありません。私の弟が変なせいで……」
「レウスは俺にとっても弟のようなものだからな。これくらいどうって事はない」

 エミリアが恋人である以上、レウスはいつか本当に俺の弟になるだろうしな。

「シリウス様……」
「何度も言ってる気がするけど、兄より保護者よね。ねえお母さん。今夜はビーフシチューが食べたいなぁ……」
「せめて父親に……って、どんな甘え方だ。フィアはもっと堂々と甘える方が似合っているよ」
「じゃあ……今日はビーフシチュー食べたいわ。食べさせてくれたら……夜はサービスしてあげるわね」
「積極的過ぎるな」

 俺は胸元に指を這わせてくるフィアとじゃれ合いながら、二人が復活するのをのんびりと待つのだった。

「うふふ……正式な弟になったレウスに祝福されて、シリウス様との愛の結晶が生まれて……ああ……」
「そろそろ正気に戻りなさい」
「戻りたくないです! 今、二人目を授かったところですから!」
「断った!?」

 本日もエミリアは絶好調である。





 次の日……今日も朝からの走り込みで倒れたアルベルトだが、前回より少しだけ早く回復していた。
 なので昼食まで自由時間を与えていたのだが……。

「俺が正面から兄貴に斬りかかって、アルは側面からだろ?」
「いや、レウスの大剣は範囲が広いから私も巻き込まれそうな気がするぞ」

 休憩するのかと思えば、模擬戦について話し合っていたのである。
 俺は内心でほくそ笑み、料理を作りながら二人の会話に聞き耳を立て続けた。

「それにまだ師匠の動きに全く付いていけないのだ。もう少し経験を重ねたい」
「でもあんまり時間がねえんだろ? 思い切って二人同時に正面からぶつかるのはどうだ?」
「だが私の剣は正面から攻めるのに向いてー……」

 二人の議論は続き、次第に白熱を増していく。
 互いの声が徐々に荒くなっていくが、二人はそれだけ真剣なのだ。軽い殴り合いまでなら大人しく見守ろうと思う。
 そんな二人の間に入りにくいのか、マリーナは心配そうに……そして若干寂しそうに見つめていた。

「だから正面から向かっても無駄だと言っているだろう! 同時に側面から攻めてみるべきだ!」
「兄貴に俺達が考えるような小細工は通じねえよ! だったら大人しく正面から行こうぜ!」
「ええい……埒があかん! ならば模擬戦で両方試してみようではないか!」
「ああいいぜ! 上手く行った方が晩御飯のおかず一品もらうからな!」

 模擬戦は二人が倒れるまで何度も行うのだから、両方試すのは悪くない。そんな試行錯誤も糧となるだろう。
 そしてお互いに遠慮が無くなり始めているので、俺の理想通りの関係になってきているようで嬉しい。

「ところであんた気づいてる? 兄上の食事、今はスープだけよ」
「あっ!? けど、それでもいいや。今日は兄貴が作るやつだし」
「兄上の分が無くなっちゃうでしょ! 兄上のを取るくらいなら私のを取りなさいよね!」
「本当か!? ありがとな!」
「え!? あ……うん。や、約束はしてあげるけど、兄上が勝つに決まっているんだから!」

 ついでにアルベルトだけじゃなく、マリーナとの遠慮もなくなってきているようだ。

 貴族以外に不明な点は多いが、兄妹に出会えて本当に良かった。
 この出会いがレウスにとって非常に良い刺激になっていると、俺は満足気に笑いながら鍋の灰汁を取り続けていた。



 ちなみに結果だが……。

「どっちも駄目だな。そもそも攻め方以前に連携が下手過ぎる。やり直し」
「「……はい」」

 頭にたんこぶを二つ作った二人は、仲良く地面に倒れるのだった。





 ――― レウス ―――





 模擬戦を終えた後、アルより先に回復した俺は軽く体を動かして調子を確認していた。

「うん……問題ないな」

 兄貴やリース姉の治療もあるけど、俺も大分慣れたのかもしれない。
 剣を振るなら問題ない程度に回復していた。

「アルベルトは……まだ時間がかかりそうだな」
「当たり前よ! 何度も言うけど、あんたと兄上を一緒にしないで!」

 アルが回復するまで夕ご飯にならないし、回復にもまだ時間が掛かりそうだ。
 つまり時間があるので、俺は何度も怒ってくるマリーナに頼みごとをしてみた。

「なあマリーナ。お前さ、適性は火属性だったよな?」
「……そうよ」
「だったらさ、俺に魔法使ってくれよ」
「はぁ!?」



「全く、何で私がこんな事を……」

 拠点から少し離れた場所に俺とマリーナはやってきていた。
 本当ならもっと離れたいのだが、アルが見える位置じゃないと納得しないので、拠点から見える位置だ。
 ぶつぶつと呟きながらも俺の頼みを聞いてくれたので、やっぱりマリーナは良い奴なんだろうな。

「いいじゃねえか。俺を黒焦げにするって言ってただろ?」
「あれはついって言うか、別に本気じゃ……」
「とにかく頼むぜ。遠慮なくこいよ!」
「ああもう……知らないからね!」

 俺が頼んだのは、マリーナに火魔法を放ってもらってそれを斬り払う練習だ。
 風と水は姉ちゃん達に頼めるし、土とか岩はその辺の物で何とかなる。
 だけど火は俺だけしかいなかったから、あまり経験出来なかったのだ。だからマリーナがいるのはありがたい。

 そしてマリーナが放つ火球を、俺は順調に斬り払っていた。

「……相変わらず変な奴ね。熱くないの?」
「別に? 気を付けて斬れば問題ねえよ。それよりもっと増やしても構わないぜ!」
「そう、じゃあ望み通りやってあげるわ!」
「望むところだー……ありゃ!?」

 言葉通り火球が増えたけど、俺にはまだ物足りない数だった。
 だから問題なく斬り払っていたんだけど、一つだけ剣で斬っても素通りするどころか、俺の体さえも素通りしていた。
 不思議な炎に驚いていると、俺の頭に小石がぶつかったところで騙されたのだと気付いた。

「ふふん、騙されたわね。さっきの自信は何だったのかしら?」
「……もしかして、幻を見せる能力か?」
「そういうわけよ。これが戦いならあんたは終わっているんだから、もっと反省ー……」
「すげえな! 幻って火まで作れるのかよ」
「してー……うえ!?」

 他の火球もあって熱さがわかりにくいし、魔力の塊だから斬るまでわからなかったぞ。
 使い方によっては凄い切り札になると褒めていると、マリーナは顔を真っ赤にしながら慌てていた。

「どうしたんだよ? ほら、もっと使ってくれよ。今度こそ見極めてやるからな!」
「ああもう。あんたは一体……何なのよーっ!」
「おお! その調子だぜ!」

 何かマリーナがやけくそな感じだけど、俺また変な事を言っちゃったのかな?
 でも遠くで見ている兄貴や姉ちゃんは笑っているし……問題ないって事か?
 っと、いけね。気になるけど今は火球に集中しなきゃな。


 結局真っ赤になった理由はわからなかったけど、マリーナと訓練するのは結構楽しかった。




おまけ 没ネタ。


「何度も言ってる気がするけど、兄より保護者よね。ねえお母さん。今夜はビーフシチューが食べたいなぁ……」
「せめて父親に……って、どんな甘え方だよ。俺より年上なくせに」
「そんな失礼な事を言う恋人はこうよ!」
「効かんな」


※フィアがシリウスの腹へ軽いパンチを食らわせてじゃれあっている感じでした。
 変えた理由は……シリウスなら女性の年齢について口にしないと思いまして。




 没ネタその2


 今回の話での没タイトル。

『攻めのレウス、受けのアルベルト』

 もう完全にあれな方向しか浮かばなかったので没に。







 今日のホクト


 ホクト君は山の中を歩いていました。
 何故ここにいるかと言うと、ホクト君はご主人様に食材調達を頼まれたからです。
 例え自分だけしか頼まれなくても、ご主人様の頼みなら一発返事で承ります。
 それがホクト君の正義なのです。

 魔物の肉や食べられそうな物と言われたホクト君は、特注で作ってもらった籠を背に山を散策します。

「オン!」

 肉はどうとでもなるので、ホクト君はまず山菜を中心に探し回りました。
 知っている食用の果物や茸を採取し、時には地面を掘って根菜も狙います。
 そして凄まじい勢いで地面を掘り、芋の様な根菜をゲットしたところで、ホクト君は木々が開けた場所で美味しそうな魔物を見つけました。

 大きな兎の魔物ですが、町の人が話していた情報では美味しい肉のようです。
 ホクト君は籠の中身が盗まれないように隠してから、その魔物を狩ろうと近寄ったのですが……。

「……オン?」

 突如上空から降ってきた飛竜が鋭い鍵爪で魔物を掴み、獲物を空へ持って行ってしまいました。
 一瞬呆気にとられたホクト君ですが、ご主人様に食べさせる美味しい肉の為に諦めるわけにはいきません。

「オン!」

 それは私のだ! と言わんばかりにホクト君は高くジャンプします。
 あっという間に飛竜の下まで迫ったホクト君ですが、空を自在に飛べる飛竜とホクト君では空中戦には無理があります。
 実際、ホクト君が迫ってくるのに気づいた飛竜は飛ぶ方向を変え、真っ直ぐジャンプしてきたホクト君の軌道上から外れました。
 しかし……。

「オン!」

 気合一発。
 ホクト君は大きく吠えながら口から魔力を吐き出し、その反動によって空中での軌道を変えました。
 そんな方法で来るとは露知らず、飛竜はロケットの如く突撃してくるホクト君に対処できず、ホクト君は飛竜に体ごとぶつかりながら捕まえました。
 そのあまりの衝撃に飛竜は気絶し、ホクト君は飛竜と共に落下し始めますが、地面に落ちる寸前で飛竜を足場にジャンプして落下の衝撃から逃げました。

 それでも飛竜は生きていましたが、すでに虫の息でしたので、ホクト君は止めを刺してから先程の兎を確認したのですが……。

「……クゥーン」

 丸飲みして食べられたのか、兎は確認できませんでした。
 仕方ないので、ホクト君は比較的無事だった飛竜の尻尾を剥ぎ取って帰りました。


 そして夕食……その肉を使った料理をご主人様と後輩達は満足そうに食べていました。
 ちなみにアルベルト君は早々に食べ終え、疲れたので馬車に戻って休んでいます。マリーナちゃんもその付き添いでいません。

「この肉美味しかったな! ホクトさん、何の肉を取ってきたんだ?」
「オン!」
「……頭に角が生えた大きな飛竜? なあ兄貴。それってアルが倒そうとしたー……」
「しっ! 黙っていなさい!」

 知らぬが仏。
 ホクト君はご主人様の為に良い肉を確保するだけで、アルベルト君の事情なんか知ったこっちゃないのです。

 時と場合によりますが、あまり他を考えない時もあるホクト君でした。






 活動報告にて、書籍についての情報を挙げています。
 書籍の特設サイトについて載っていて、サイトへ行けばキャラクター達の絵も見れますので、気になる人はぜひご覧ください。



 次の更新は六日後……の予定です。
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