第87話 ヨランとエミリの子供について 実の子という重すぎる愛の結晶をそう簡単に捨てて良いものか
走り出した馬車、
いよいよ大森林に向けてだが、
昼過ぎまでは平和な地域なので自然と雑談が始まる。
「十二年ぶりの王都で新しい店も増えたなエミリ」
「ええヨラン、知らないアクセサリーショップが出来ていて……」
今朝のフォローという訳ではないが、
馬車では俺の左右に旧ハーレムのヨランとエミリ、
後ろの席はロズリとナタリが大人しくしている、うん、挟まれた俺はたまに話を振られて困る。
「そういえばラスロの好きな色は何だ」
「いや別に俺は、勇者たるもの白だの金だの言われた事はあるが」
「ねえラスロ、一緒にデートする相手によって変えるってどうかしら」
すっかりデートの話になっているな、
火を付けたのは今朝の俺だが、って勝手にエミリが燃えただけだ、
今、この時間を十二年前に戻す気分でも無いし、ここは……話題を変えよう。
「そういえばエミリ、子供とのコーディネートがどうこう言っていたが」
「ええ、ラスロとの子は男の子、女の子、色はどうしたい? 男の子の色っていうと……」
「いや、エミリの子供は王都で大丈夫なのか、半分エルフなら心身的負担も大きいだろう」
……あっ、真顔になった、
そうそう、エミリはこういう所がわかり易い、
こういうの十二年も経つと、何度も見ないと思い出せないもんだな。
「……ラスロ、もうそういう話を本格的にする時期なのね」「えっ」
「どうしてもラスロが私の子を引き取りたいのであれば、覚悟を決めるわ」「ちょっ」
「そうね、私の子だものね、エルフの血がは入っていてもラスロは」「いや、そういう話では……」
いや、でも俺が本気でエミリと復縁しようとなれば、
子供の扱いは避けては通れない道だ、特にエミリの旦那、
ハルラはエミリの弓の腕を欲しがっていたとすると、当然その子も……!!
(変に話を進められるのも、まずいな)
修復不可能な程にエミリとハルラが別れて、
その子供達が俺の所へ来て『あなたのお父さんよ』ってなったとき、
それを丸ごと捨てるとなったら、いったいどうなるか……
(うん、恨むというか、敵討ちまでありうるな)
やはりエミリを捨てるのであれば、
さっさと言ってあげた方が良いのだろうが、
俺はまだ決めていない……とここで後ろから声が。
「ヨラン様」「ナタリ、どうした」
「ベルナルくんは、その後」「一旦、西へ帰ったが王都で学習したいそうだ」
「ではまたヨラン様の所へ」「……ラスロが受け入れたいのであれば、交渉するが」
いやいやいや、
何を話を増やしてくれているだよナタリ!
これはもう、面白がっていないかこのアサシンは?!
(ネリィが居たらその子まで連れてくる流れになるぞコレ)
さすがに旧ハーレムの子供まで一堂に会して、
俺の前にずらーっと並んでさあ受け入れろってなって、
そこで『お前ら母親含めて全員要らん』って言うのは大変だぞ?!
(ただ、母親から子を離したくない気持ちは少しはわかる)
逆によくもまあこんなに簡単に捨ててきたな、
と思わないでもない、もちろんそれだけの覚悟、
そして誤魔化していた、隠れていた俺への想いはあるにせよ。
「俺としては、実の子が会いたいというのであれば会ってあげるべきだと思うのだが」
「ラスロがそう命令するのであれば従う、ハーレムの主の命令だからな、それは絶対だ」
「ねえラスロ、会いたいで済めば良いのだけれど、戻って来て、帰ってきてと言われると話が変わるわ」
そうだよな、
ヨラン、エミリ、そしてネリィは確固たる意志で戻って来た、
戻って来てしまったんだ、俺の命令が絶対ということなら、俺が捨てる事も出来るはず。
(いや、さすがに刺されるかもな)
とにかくこれだけは言っておこう。
「そのだな、これは一般論として、
実の子という愛の結晶をそう簡単に捨てるべきじゃないと思うんだ」
「わかった、子の配分は水面下で交渉しよう」「ラスロときちんと会わせる手筈を整えるわ」「あっ」
これ貰う流れだ!!
「いや、そうじゃなくて、それぞれの子を大事にしてくれという話でだな」
「ラスロが前向きで良かった」「そうね、話を前に進められて今日は良い日だわ」
「だーかーらー……」
いま後ろで、
ナタリがクスクス笑ったような気がするぞ?!
振り向くと急に視線を窓の外へ……これも計算か?!
(まったく、アサシンの考える事は……)
まあ俺も、
ちゃんと考えろって事だろう、
新旧ハーレムをどうするのか……。




