第86話 ここまでお膳立てされた以上は言うしかない 衝撃の告白にエミリの反応は?!
後は着替えて、荷物を持って出るだけだった俺の個室部屋、
そこへ出発前の時間にエミリを呼び出してしまった、いやお膳立てはナタリだが、
これはおそらく俺がエミリに打ち明けようか黙っておこうか悶々とするくらいならさっさと話してしまえ、と。
(もちろん誤魔化して話さない事もできるのだが)
その時は適当に虫の習性がどうのこうの、
風向きがこうだからこうした方がいいだのと、
重要そうかつ二人で済むような話でお茶を濁せば良い。
「ラスロ、何の用かしら」
「ええっとだな、時間もあまりない事だし」
「出発前に私に甘えておく? 少しの時間でもリラックスできれば」
これは単に抱きしめてくれるだけだ、
いわばハグの上位種とでもいうか、って何を魔物の解説みたいなこと言っているんだ俺!
十二年前もそうだ、エミリはその溢れる母性で、俺を隙あらば甘えさせようとしてくる。
(何度かお世話になった、いや変な事はしてないぞ! そういうのは平和になってからと……)
エミリもハルラと結婚後、
何度もその胸で甘えさせたのであろう、
その結果、二人のハーフエルフを……何を想像しているんだ俺は。
「まず初めに確認しておくが、ハルラの件だが」
「あら、何かハルラに言われたの? もう昔の話よ」
「い、いやそうじゃないんだ」「教えて、怒るから」「ハルラに?」「ええ」
うーん、エミリも俺が何を言うか警戒しているな、
いや不安か、これは変に違う事を言って誤魔化してもバレるな、
まあいいや、森の調査や魔界封印に集中するためにも、ここはさっさと……
「これはあくまで昨日、リンダディアさんから聞いた情報なんだが」
「ならエルフの話ね、ひょっとして娘や息子の話? それとも……」
「その、それともの話だ、君がエルフの森で結婚していたハルラっていうエルフなんだが」
今更だが少し緊張するな、
真顔のエミリが余計にそうさせる、
十一年半も愛していた男の正体を知る、という状況になるんだし。
(かといって、ここで言わないっていう選択肢は、もう無いな)
よし、覚悟を決めて……!!
「あのハルラがエミリに近づいた理由、
リンダディアさんの情報によればだが、
エミリが『エルフを超えた弓使い』であるがゆえに……」
ふうっ、とため息をつくエミリ、
なんだか暗い表情をしてしまっている、
なんだろう、こんな反応をされると、言い辛い。
「続けてちょうだい」
「おう、エルフが人間に敵わないという事実、現実、状況をなんとかしようと、
エミリをエルフ側の人間にする、まさにエルフにするため、と言って良い感じに口説き落としたらしい」
……エミリの表情は暗いままだ。
「ラスロ、それで」「お、おおう、だからその、ハルラの本当の気持ちは俺にはわからない、
そのあたりはエミリがどう感じていたか、そのあたりはまあ別としてだな、なんというか、
そういう気持ちでエミリに近づいて手に入れた、というのがリンダディアさんの認識らしい」
これで更に詳しい事を聞かれたら、
もうリンダディアさんに丸投げしかないな、
そうなったら俺は一歩引こう、いや二歩も三歩も。
「話はそれだけかしら?」「そ、そうだな」
「ねえラスロ」「あ、ああ」「私、再会してから思ったのだけれど」
「な、なんだ」「真面目な話、よく聞いてちょうだい、あのね」「ど、どうした」
これは怒られるのか?!
それともいったい、暗い表情……
が、一転して、明るい顔になった?!?!
「もっとラスロはファッションに気を使うべきだと思うの!」
「えっ」「だから王都に戻ったら、報奨金で素敵な私服を買いましょう?」
「お、俺の?」「もちろんよ、私がコーディネートしてあげる、デートしましょ」
……ええっと、
話が急に変わった?!?!?!
「エミリ」「なあに? 私も服を十一年半もおそろかにして来たから、
ラスロと服を合わせるのが楽しみだわ」「あ、合わせるのか」「ええもちろん」
「それは同じ色にするとか」「バランスね、このあたりセンスが必要だから私に任せて!」
活き活きしている……
ぱーっと晴れたみたいな笑顔、
年齢は重ねても乙女な感じすらする。
「すまないエミリ、さっきの話だが」
「流行色とか気にする方かしら? あと服だけじゃなくバッグとか……」
「いや、ハルラの話だが……あれば、感想を聞かせて欲しい、どう思ったか」
真顔になるエミリ。
「どうでもいいわ」「えっ」「心底どうでもいいわ」
「しょ、正直に言ってか」「そうね、正直に何か言えというのであれば、
子供達には本当に悪い事をしたとは思っているし、ハルラさんに恩義はあるけど……」
また笑顔に戻るエミリ!
「ねえ、子供が生まれたらまた服のバランスが変わってくるのよ!
もちろん同じ色で揃えるっていう方法もあるけど私はそれよりも……」
言葉が止まらなくなった、
エルフの森ではファッションとか選択肢が無かったのだろうか、
あとは、これはもう俺の事しか考えていないな、吹っ切れたとか言うレベルじゃない。
(もしこれで、正式な結婚式直前に捨てたとしたら……)
まあいいや、今は……
とにかく、教える事は教えたぞっと、
後は大森林の調査に集中しないといけない。
「エミリ、行こう」
「ええ、着替えさせてあげるわ」
「ちょ、おまっ」「さあさあ、急ぎましょう」
……これで済む話、かなあ???




