年越し会のミニサンド
いよいよ最後の大晦日を残して、今年も終わろうとしている。
学校のレポートとか発表会とかも終わって、暫くは暇だし、大掃除も天気の良い日で早めに済ませた、強いて言えば最後に厨房掃除と一緒に軽く掃除機掛けたらいい。
なので、久しぶりに長い自由時間が出来て、今日はずっと前から気になった漫画を第一巻から十巻くらい買って、部屋にこもろうと思った。
どこの本屋なら漫画揃ってるのかなと考えた時、突然父からの電話が来た。
ビックリして転けそうになったけど、なんとか踏みとどまり、邪魔にならないように道の端で停まり、僕は電話に出た。
『あー、ええと、今どこにいる?』
「今駅前にいるけど、どうした?何か忘れ物?」
『ああいや、実は今会社から出たところだけど、ついでに買い物しようと思って。』
「えっ、仕事は大丈夫なのか?」
『海外分社が「オンライン年越し会」を行うと言ったけど、それをすっかり忘れた。だから今日はもう退社なんだ。せっかくだから、何か買っておこうと思って。』
「なるほど。じゃあ、待ち合わせはどこにする?」
『列車に乗るから、駅の近くのデパートで待っててくれ。』
「わかった。気をつけて。」
父さんの返事を聞いた後、僕は通話を切って、一度時間を確認した。
いつ父さんがこっちに着くのかは分からないけど、デパートで待ち合わせしているなら、ちょっと見て回っても大丈夫だと思う。
だから、一旦駅の中に戻って、周辺施設の案内を読んだ後、僕はデパートと繋ぐ通路の方へ歩き出した。
デパートの中をフラフラして、のんびり店の品物を見ていたら、ポケットの中のスマホが『ブーブー』となった。
出ようとした瞬間にそれが止まり、何故切れたのだと画面を見ていると、後ろから肩を叩かれた。
「何か買うのか?」
「いや、見てるだけ。」
そう答えながら、店の中から視線を移すと、少し息を切らしていた父さんの姿が見えた。
今日は大晦日だからと言って、父さんはいつもよりも少し良いスーツ姿を着た。
そしてその手には仕事の鞄と、他に何故か結構大きい紙袋も持っていて、それに気づいた僕はそう聞いた。
「もうなんか買ったの?」
「いや、部下の子が読んでみてと言って渡してきたんだ。」
「という事は本か……にしても重そうだな、中見ていい?」
「多分大丈夫だと思う、というより、多分私より君の方が詳しそうだ。」
「いや、僕も最近は見てないけど、ええとじゃあちょっと失礼して……あっ。」
父さんからその紙袋を受け取り、中を見てみると、最近映画が上映している有名な作品の漫画が入ってる事に気付いた。
確かにまだ原作の漫画は続いている筈だし、この凄まじい重さと巻数を見て、もしかしてこれ最新巻までじゃないのかと思った。
しかも良く見てみると、ビッシリと書かれているメモが入っていて、ご丁寧に映画の時間軸が原作の何巻までとか、アニメ化された巻数が書かれている。
布教に熱心だなと思うと同時に、実はこの作品も結構読みたかったから、ちょっと嬉しかった。
僕と同じように紙袋の中を覗き込んだ父さんはメモに気づき、それを取り出して、少し不思議に僕に聞いた。
「『アニメ化』という事は、この作品はテレビで流れてたのか?」
「そうだね、僕は見た事ないから、多分深夜放送なんじゃないから。」
「深夜放送、深夜で放送されるのか、アニメが……。」
驚いたように父さんはそのメモを紙袋の中に戻し、そして腕時計を見て、父さんは僕にこう質問した。
「あ、私は来る前に会社の人と食べたけど、君は?」
「こっちに来る前にバーガーショップ寄ったから、大丈夫。」
「最近はファーストフードが好きなのか?」
「うん、クリスマスシーズンでチキンとかポテトとかのCMを見てたから、ついつい食べたくなった。」
僕の答えを聞いて、父さんは何かを真剣に考えた。
そして、すーっと父さんはデパートのフロア案内表の前まで歩き、紹介された店を見ながら、父さんはこう言った。
「大晦日には蕎麦がいいと言うから、蕎麦を買おうと思ったけど、年越し会にファーストフードは案外悪くないかもしれない。」
「それなら作り立てが良いよな、帰る前にどっかの店に寄って買おう。」
「うーん、確かに。でも、家の近くにある店はよく食べるし、折角の年越しだ、もうちょっと特別なのが食べたい気もするな。」
「じゃ、いっそパンと具材を買って家で作るか?」
「えっ!作れるのか!?」
本気で驚いてる父さんを見て、僕も少し驚いたけど、とりあえず作れる事を素直に伝えた。
「まあ、基本はサンドイッチと同じ、具材を切って挟むだけだから。」
「そうだったのか。……となると、案外家にある物でも出来るのか?」
「卵とかキャベツとかベーシックな材料は一応揃ってるけど、折角年越し会をやるんだし、他になんか買う?」
「それは楽しみだ!あ、でも、大晦日だし、今日くらいは買って帰ろうか、店は後で調べてっと、他の客だ。」
他の客が近寄ったのを見て、僕は父さんと一緒にデパートのフロア案内表の前から退いた。
その時、思い出したかのように、父さんは僕にこう聞いた。
「ところで、今日は何をする予定だった?」
「あっ、ええと、いやあその……漫画を買う予定です、はい。」
「うーん、漫画は子供が読むイメージだったけど、部下もそうだし、今の漫画は別に子供向けのものではないのか?」
「むしろ作品によってはガッツリ大人向けな物もあるんだよな、うん。」
「そうだったのか。……どこで買えるんだ?」
「大体の本屋には売ってるって、えっ、買っていいの?」
聞き間違いではないのかと一瞬疑ったけど、素直に頷いた父さんを見て、僕は少し躊躇した。
けど、これは父さんに今の漫画を紹介するチャンスかもと思って、僕はそう答えた。
「じゃあ、スーパーに行く前に、寄りたいところがあるけど。」
「本屋に行くじゃないのか?」
「デパートの店より、外の本屋の方が揃ってるから、外の方行こう。」
「そうか、分かった。じゃあ、案内を頼んだぞ。」
「よし、任させた。」
そう言って、僕は父さんと一緒にデパートを出て、僕たちは外の大きい本屋へ向かった。
デパートの店では、漫画が置いてあっても、大体最新巻しか置かれてない。
それに、僕の好きな作品をもし紹介出来たら、一緒に同じ作品の話ができる!
そう思いながら、僕は漫画エリアが一番広い本屋を選んだ。
ビルの中に入り、エレベーターで漫画のフロアに着くと、壁一面のポスターとポップな広告を見て、父さんは驚いたようにこう呟いた。
「今の漫画の絵ってこんなに綺麗なのか。」
「印刷とか描き方とかは昔と違うからね。でも、最近は昔の作品のリニューアルとかアニメ化とかも流行ってるから、もしかしたら父さんの知ってる作品もあるかもね。」
「お、おおう、色々すごいな、今は。っと、何の漫画を買うんだ?」
「ええと、多分ジャンルとしてはこっちかな。」
「ジャンル?」
不思議そうに疑問を伝えた父さんを見て、何故かちょっとテンションが上がった氣がした。
そして、手を招き、父さんを呼びながら、僕は父さんにそう答えた。
「今は沢山の漫画家がいるから、テーマも出版社も沢山増えて、だから結構沢山のジャンルがある。僕が読みたいのは多分こっちにある。」
そう言って、僕は先に行き、そして目当ての棚の前に行くと、すぐにほしい漫画を見つけた。
「これこれ、前にアニメ見てから原作の漫画も読みたくなったんだ。」
「うーん、タイトルと表紙だけじゃ内容が分からないけど、一巻のこの子が主人公?」
「主人公はこっちの二巻に乗ってる人だよ。ええと、アニメでみた内容だけど、人類を守るために、少年少女が訓練をして、模擬戦をやっているけど、戦略の読み合いと仲間同士の技のぶつかり合いが凄かった。」
「ほう、そうなのか……面白い。」
「面白いというかすごい、肉体戦なのに頭脳戦要素強いのすごい。」
「ふーむ、これで全巻か。」
「うん、次のは多分来年で発行すると思う……えちょ、父さん?!」
迷いもなく僕が今話した漫画を一巻から最新巻まで買い物カゴに入れた父さんを見て、僕は思わず声を上げた。
すると、父さんは僕の手を掴んで、こう言いながらレジの方へ向かおうとした。
「君が面白いと言う作品は大体私も好きになるから、帰ったら一緒に読もうか。」
「わーいやった!って待って、部下さんから借りた漫画もあるのに。」
「ならそっちは君が先に読めばいい、私はこっちを読む。」
「待ってこれ僕の反応で作品の好き嫌いを判断しようとしてない?」
「はっはっは、ソンナコトナイヨー。」
「父さん!?待て待て待て僕が払う予定だったのに。」
「いいから、いいから、今年のクリスマスプレゼントだとでも思え。」
そうやってふざけあっている間に、父さんはさっさと支払いを済ませて、気付いたら、僕と父さんは沢山の漫画を抱えて、帰宅の列車に乗っていた。
そして、やっとの思いで重い漫画たちを抱えて、やっと家についた時、僕は買い物し忘れた事に気付いた。
「ああああファーストフードショップに行くの忘れた!!」
「あっ、ごめん、私も店調べるのを忘れた。」
「うーん、父さん、年越し会の食べ物はサンドイッチでどう?」
「サンドイッチ?」
「うん、トーストがあるから、冷蔵庫にある物で挟んで、爪楊枝で刺して小さいサイズに切ったら、食べやすいし手も汚れにくい。」
「おっ、いいね。私も一緒に作っていい?」
「もちろん!あっ、じゃあ荷物をリビングに置こう。」
そう言い終わると、僕も父さんも急いで漫画と鞄をリビングのテーブルとソファーに置き、手を洗ったら、厨房に急いた。
冷蔵庫の中からキャベツと人参、玉子を取り出して、少し考えた後、僕は棚の中からマヨネーズ、そして缶詰のサバとツナを取り出した。
「父さんにはトーストを頼んだ。僕は具材の準備をする。」
「分かった先生、何をしたらいいですか?」
「先にトーストを焼いてください。」
「枚数は?」
「八枚を焼いてください。焦げないように気をつけてください。」
「了解!」
そう答えた後、父さんはオーブンの中にトーストを入れて、それを見ながら、僕はキャベツと人参を切って、それを全部ボウルの中に入れて、軽く塩を振った。
サバ缶の汁を切って、ツナ缶を開けた後、その中から使う分だけ取り出して、僕はサバとツナを分けて、それぞれマヨネーズを入れて混ぜた。
そうしている間にトーストが全部焼き上がって、父さんがそれを一つの皿に載せて、慎重にトースト達を調理台に載せた。
「トーストが焼けたぞ!次はなに?」
「今ツナマヨとサバマヨが出来たから、それをそれぞれトーストに塗って挟んでください。」
「了解!」
そう言って、父さんはスプーンを取り出して、一枚のトーストを取って、ツナマヨを塗り始めた。
その間に僕はキャベツと人参から出た水分を搾り取り、ボウルの中に卵を入れた。
そしてフライパンを取り出して、油を塗った後、火をつけて、僕はボウルを傾けた。
混ざった卵液の量が多いから、出来るだけ野菜と卵が平均になるように二回に分けて焼いた。
父さんがサバマヨサンドとツナマヨサンドを挟み終わった時、丁度僕の野菜卵焼きも出来上がった。
「父さん、トーストください。」
「はい。おおーいい匂いだ。」
「野菜も入ってるから味には飽きないと思うよ。っと、ケチャップを塗って、これをトーストに挟んだら、後は爪楊枝を刺して切るだけ!」
「では、私が切ろう。」
「お願いします、シェフ!」
「任せてくださいよ!助手!」
いい匂いのせいか、テンションが上がった僕も父さんも冗談を言いながらサンドイッチを作った。
父さんがサンドイッチを切る時、僕は綺麗な皿を用意して、そしてフライパンやボウルを洗って、使った食材を元の場所に戻した。
「出来た!このサイズでどう?」
「丁度いいと思う!」
「じゃあ、食卓まで持っていくよ。」
そう言って、父さんはそのまま完成したサンドイッチを載せた皿を外に持って行った。
年越し会の為に用意したのに、もう食べたくなった父さんを見て、僕は飲み物を持って、厨房の外に行った。
一緒に座り、飲み物をカップに注いだ後、手を合わせて、僕と父さんは同時に言った。
「いただきます。」
年を越した後でも、僕も父さんも起きていて、もしかしたら漫画を読んでいるかもしれない。
けど、今はただミニサンドを頬張り、穏やかな大晦日を楽しんでいる。
新しい一年、何を作って食べようかな。