1-3-22(第72話) 旅に行く者
これで一応、「第1色 赤の国」は終わりです。
ちゅんちゅんちゅん…。
まるで朝を告げる小鳥のようなさえずりで目が覚めた男がいた。
「ふあ~。おはよう、俺」
それは彩人だ。
彩人は未だ、地球にいた頃の癖が抜けきれておらず、結局昨日も夜遅くまで考え事をしていた。いつも通りなら、彩人は小言を言いながら、嫌々目を覚ますのだが、今日は違った。
「さて、今日から旅が始まるのか。どんな旅になるのか、楽しみだな~」
そう、今日から始まる馬車の旅が楽しみだったのだ。
普段時間ぎりぎりに学校に登校する人が、突然誰よりも早く来ていたことに驚くように、ルリ達もまた、彩人の彩人らしからぬ行動に驚きを隠せずにいた。
「…アヤト、変。昨日、何かおかしな物でも食べた?」
「お兄ちゃん!?どうしたの!?熱でもあるんじゃ…!?」
「ご主人様。今日もよろしくお願い致します」
「…おい」
1人を除いて、みな、彩人の体調を心配していた。
冗談で言っているわけではない。本当に彩人のことを思っての行動なのだ。
その思いは彩人にも伝わったのだが、彩人自身、馬鹿にされているようにしか思えず、この行き場のない気持ちをどうしようかと思い、強く言えなかった。
宿屋で朝食を済まそうとするが、
「なんでこれを朝から…」
「…辛い」
「目が覚めるね!」
「…大変、美味し、かったと思います…」
宿屋が出した激辛スープに俺達は参っていた。
こんなものを朝から平気で飲んでいるやつの気が知れねぇ…。
しかも、周りからおかわりを要求する者までいた。
俺としては信じられないのだが…。
あと、そんな我慢しながら美味しいと言っても、無駄だからな。
バレバレだし。
俺達は朝食に大苦戦した。
今度から、朝食は胃に優しい物にしよう。
俺はそんな決意をしながら、宿屋を後にした。
「この道を真っすぐ進めばいいんだな?」
「…ん。しばらくは道なり。だから問題ない、と思う」
「そうか」
俺達は今、王都郊外で、旅の最終確認をしている。
「これで忘れ物はないな?」
「…ん」
「うん!」
「ありません」
「それじゃぁ、行きま…」
「「ま、待ってくださいーー!!」」
ここで、聞き慣れた声が聞こえた。
さて、あの2人はどうするのかね?
俺はとある期待をしながら、2人が来る方向を見つめていた。
「どうした、2人とも?そんなに慌てて…」
「「私達もアヤトに付いて行きます!!」」
付いてくるのは確定なのか…。
大きめの馬車を買っておいて正解だったな。
でも、
「何で付いてくるんだ?」
これは別に、「俺達の旅に付いてくる覚悟はあるのか?」みたいに聞いたわけではない。単純に俺が聞きたい事なのだ。
リーフはギルドで受付嬢の仕事をしている。
そして、クリムに至っては赤の国の王女だ。おいそれと旅に行けるほどの身分ではないだろう。
要するに、勝手気ままな旅を始める俺達と違って、やるべきことはどうしたんだ?と聞きたいだけだ。
「わ、私は武者修行ですわ!」
と、胸を張りながら言う。
えっと、王女が武者修行なんてするのか?するとしても、イブみたいに花嫁修業じゃないのか?
「自分の身を守るためにはやはり、力でしょう?」
と、まるで、
今の私、結構いいセリフ言えましたわ!
とでも言わんばかりに、さらに胸を張った。
いや、そうかもしれないけどさ…。
「わ、私はこれです!」
ここでリーフはあるプレート?のようなものを俺に渡す。
…もしかして、このプレートに書かれている内容を読めってことか?
俺はリーフを見ると、
「さ、読んでみてください」
どうやら、自分の口から言うつもりは無いらしい。
俺はその内容に目を通しだ。
すると、気になる言葉が目に入った。
「専属受付嬢?」
「はい!この度、アヤトの専属受付嬢に昇格したのです!」
リーフは胸を張った。
「「………」」
約2名、揺れるリーフの胸と、自分の胸を見比べていたが、突っ込まなくていいだろう。
まだ大丈夫だ。成長期だもの。
「なので、今回のアヤトの旅に付いていきます!よろしくお願いします!」
「えっと、よろしく」
「よろしく!リーフお姉ちゃん!」
「よろしくお願い致します、リーフ様」
「「………」」
おい。せめて挨拶くらいしなさいよ。
「さて。それじゃ、出発しますか?」
「「「はい!!!」」」
「「はい……」」
2人を除き、彩人達は元気に旅を始める。
その旅が今後、どのような結果になるか、神ですらわかりはしないだろう…。
「第1色 赤の国」は終わりですが、まだ「色を司りし者」は続きます。
次からは「第2色 青の国」となります。
引き続きお楽しみください。
と言っても、今週の分はこれでお終いなので、来週、楽しみにしてください。
感想待っています。




