1-2-3(第29話) あっけない終わりと新たな予感
竜。その生物はとても知能が高く、よほどのことが無い限り、他の生物を虐殺したり、必要以上に殺したりしない、己を律することができる生物である。
さて、そんな立派な生物の内、ある一匹が、
(コロスコロスコロス!!今すぐ人間を食わせろおおおおおおお!!)
発狂しています。ちなみにこれが今の黒竜帝らしいです。
白竜皇曰く、このままだと、黒竜たちに明日が来なくなってしまう、とのことです。
「ねぇ。なにがどうなったら竜があそこまで狂うの?」
(あやつは昔から自尊心とプライドが高かったんだ。だが、成長するにつれて、実力も伴ってしまい)
「誰も手を出せず、放っておいたと?」
(うむ。誠に面目ない)
なんか育児に失敗した母親と息子を見ている気分だ。
(それで、やつを止めて頂きたいのですが)
「うん。わかったよ」
(何故人間風情がこんなところにいるううううう!!?)
もはや発狂しすぎて怒っているんだか驚いているのだかわからないな。
「こいよ、黒竜帝。これからお前をしつけてやるよ」
(ニンゲン!しねえええええええええええ!!!)
さて、戦闘始めますか。
ふむ。とはいえ、あんなバケモノとまともに相手したくないな。さて、どうするか。
「あ。あいつの技を真似して使ってみるか」
俺はある技をイメージする。俺の両手に魔力が集まってきている。これは成功だな。
「食らえ!破滅光線!」
そう。あの魔王が使っていた技だ。確か、相手の存在を消したり減らしたりできるって言っていた気がする。そもそも存在を減らすってなんだ?まぁ別にいいけど。
この技で少しでも、
「ぐわあああああ!!!」
あれ?効いている?この技、格下の相手には聞かないはずだけどな。
少したって、破滅光線を撃った場所から、小さい竜が現れた。
(す、すみませんでした!!!)
なんかこのちっこい竜が急に平謝りしてきたんですけど。それより黒竜帝は?
「いや、急に謝られても。そもそもお前は誰だ?」
(はい!私は黒竜帝です!)
………は?だって黒竜帝は数十メートルあった巨体だぜ。それがどうして五十センチぐらいになるのだ!?
(おそらく、あの破滅光線が原因かと)
(はいです!あの技によって、私の存在と性格がいい感じに削られたのです!)
いい感じって。それでいいのか黒竜帝。
(あのときの私はどうかしていたのです。でも急に人間のことが憎くなったんですよ。何故だか知りませんけど)
「ふぅん。ま、これで一件落着か?」
(はい。こら黒竜帝、こんなところに傷がありますよ。ちゃんと治しなさい)
(はいです!ん?こんなところ、いつ怪我したっけ?)
こうしてみると、白竜皇は竜族の母って感じがするな。
(思い出した!確か人間に変なのを撃たれたんだ!その後、急に人間が憎くなって)
(黒竜帝、いくら昔の自分が嫌だからと言って人間のせいにしてはいけません!)
(ほんとだよ!!確かにあのとき!)
「ちょっとその話、詳しく聞かせてくれないか?」
俺の口から自然と出てきていた。不安と焦りを感じながら。
黒竜帝の話をまとめるとだいたいこんな感じになった。
まず、青い色の服を着た多くの人が黒竜帝に向かって薬を投与した。そして、
「これで……戦争にも勝利だ!」
と言っていたらしい。そのあと、そいつらはすぐに消えたが、同時に黒竜帝の自我も消えたらしい。
戦争はわかるが青い服の人達はどこの国の軍人であろうか?
はっ!?まさかあの国王がこの事態をまねいたのか!?だったらその後の視察をどうして俺にやらせた?駄目だ。さっぱりわからん。
(あの~。そろそろあの赤の国に送りたいのですが…)
「ちょっとまて。あの国、赤の国って呼ばれているのか?」
(はい。他には、青の国、黄の国、緑の国、白の国、魔の国とあります)
へぇー。国ってそんな風に分かれていたのか。
ん?ちょっとまてよ。だったら、
「なぁ、もしかして、青い服を着た多くの人達って」
(青の国の者でしょう)
「だよなぁ」
(さて、帰りましょうか?お送りします)
「よろしく」
こうして俺は、多くの竜たちに見送られながら、今後話すことを考えつつ、竜の里を後にした。