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会議はさわがしく、元勇者は作戦を告げた




 俺たちが持ち帰って来た情報に、王都は蜂の巣をつついたかのような騒ぎに包まれた。

 すぐさま王都にいる軍事関係者の幹部全員を召集した。

 その中には、勇者や空挺中隊も含まれていた。


 巨大な会議室。

 長大なテーブルの上座に座るのはこの場で最も偉い国王ゲオルギウス・マクマーレン・ヴィーヴル・ジークフリードだ。

 それぞれの序列に基づき座る面々はこの国でも高い地位にいる人間ばかりだった。

 ジェラルディンはその一員としてテーブルの末端に座っている。

 これは勇者が軽んじられていると言うより、食客の地位に置かれているだけだ。

 ジェラルディンと同じような位置に空挺中隊隊長のトラヴィス。そして帝国から派遣された義勇軍が座っていた。

 帝国義勇軍の長は俺の知らない角の生えた髭面の人物だ。ニパルタックはどうやら王子と共に本国へ帰還したらしい。


 俺はジェラルディンのお付きとしてその斜め後ろに座っている。

 俺と同じように、リカルドもトラヴィスの傍に控えていた。


 国王が口を開く。


「由々しき事態だ……魔王軍三万がこの王都ラインに迫っている」


 会議室は意外にもざわつくことは無く静かだった。

 全員既に知っていたようだ。

 それを見た国王は厳かに続ける。


「我々はこれを断固として迎え撃たねばならん。我が国の騎士団、そのうちの王都にいる団全てを動員し、加えて国民から義勇兵も募る」


「義勇兵、ですか」


 テーブルに座る貴族の一人が疑問の声を上げる。

 普段国王の発言に疑義を唱える場合、許しを待たなければならないが、緊急性の高いため省略を許されていた。


 国王が貴族の疑問に答える。


「ああ、王都にいる騎士団全てを集めたとしても二万に届くか届かないか怪しいところだろう。不足を補うために兵を募集する」


「とても訓練の時間は取れませんが……」


「非情だが、ただの数合わせだ。槍でも持たせれば魔族どもの足止めにはなる」


 国王の発言に初めて議会がざわつく。

 非道な言葉だが、それを否定することが出来る貴族もいないのか、声を大にした抗議を起こらなかった。

 俺も心苦しいが、背に腹は代えられない。あんな戦力を確認してしまえばな……

 今思うとパーティーまでの待機の日々に、予め王都で兵を募る行動を起こせば訓練の期間は取れたかもしれないが、あまり不審な行動をしてしまえば怪しまれてしまう。

 拳を握り締め、耐えるジェラルディンが痛々しく、俺は視線を少し逸らした。


 国王が続ける。


「しかしそれでも戦力は足りない。そこで皇国、帝国の皆さまにもご協力いただきたい」


 国王がトラヴィス、そして髭面の男の方を向く。

 トラヴィスは頷き、返事を返す。


「今王都にいる皇国軍は全て私の指揮下にあります。皇国軍五千、参戦いたします」


 髭面の男も続いて言葉を発する。


「我々帝国義勇軍も、数は少ないですが参上いたそう」


 二人の言葉に国王は礼を言う。


「ありがとう。……そして勇者殿。貴殿にも参戦してもらいたい」


 国王がジェラルディンの方を向き、参戦を求める。

 ジェラルディンも頷き、答えた。


「分かりました、陛下。しかし一つだけ、お願いしたき儀があります」


 わかりやすく議会が騒がしくなり、遠慮のない貴族からは「無礼な」、「こんな時になにを言う」等という言葉が飛ぶ。

 無理も無い、皇国と帝国の協力者が二つ返事で応答したばかりなのだ。状況を読めていないと言われても仕方が無い。

 だが勇者一行が生き残るには必要なことだ。


 国王は若干眉根を寄せながら続きを促す。


「なんであろうか?」


「私どもの立案した作戦を、一考してもらいたいのです」


「む?作戦とな?」


「はい」


 国王が訝しげな顔になった。

 それを気にした様子も無くジェラルディンは言葉を発する。


「詳しくは、こちらにいる作戦の立案者、私の仲間であるロジャーから申します」


「ロジャーです。今回の軍勢の発見にも同道しました」


 俺の発言に国王は得心のいった表情になる。


「なるほど、そなたが……ふむ、その作戦とは?」


「はい、まず……」


 俺は姿勢を正し、静かに語り出す。

 未だ慣れていない、魔族との戦。故に人類側は自分たちの戦い方が一番発揮できる常道で戦うしかなかった。

 だけど俺が今から語る作戦は奇策だ。受け入れられるかどうかは……

 俺の功績と、ジェラルディンの勇者としての評判が鍵だ。




 ◇ ◇ ◇




 俺の話した作戦に会議が躍る。

 そこかしこから「無理だ、博打が過ぎる」「数で劣るなら最善の行動なのでは?」「一部は検討に値する」等の言葉が漏れ聞こえた。


 俺の提案した作戦は、ある意味では常道だが博打の要素も大きく含んでいた。

 だが成功すれば魔族の軍勢を極少数の損耗で撃退できるかもしれない。

 少なくとも、作戦のいくつかの部分は有益であるはずだった。


 ざわめく議会を鎮めるため国王が声を張り上げる。


「静まれ!……偵察の功労者であり、勇者の仲間である貴殿の意見、非常に参考になった。」


 国王が厳かに告げる。


「貴殿は、確か……いや、これは無かったことだな(・・・・・・・・)


 言葉を濁す国王。

 恐らく今言いかけたのは爆撃空鯨のことだろう。

 隠蔽した上、ここにその事を知らない貴族などもいるため、途中で言う事を止めたようだ。


「……勇者ジェラルディン、貴殿もこの作戦を押すか?」


 国王は今度はジェラルディンに水を向ける。

 ジェラルディンは僅かに俺の方を盗み見た後、国王に向かって頷いた。


「私の信頼出来る仲間が立案した作戦です。最善のものと信じております」


 この作戦は俺一人で考えたものじゃない。

 戦術戦略に長け、魔物や魔族についても詳しいフランメリーと、騎士団についてよく知っているエプロムートの協力あってのものだ。


 ジェラルディンの言葉に、国王は瞼を閉じて考える素振りを見せる。


 俺は生唾を飲み込む。

 却下されてくれるな。

 それだけを祈る。


 静まり切った室内に、緊張の空気が満ちる。

 やがて国王は口を開いた。


「……一考の価値はある。そのため参謀局との話し合いによって決めようと思う。場合によっても採用されない可能性はある。……それでも良いか?」


 国王の言葉に、内心でホッと息を吐きながら頷く。


「異論はありません。感謝します」


 国王は俺にそう言うと正面に向き直った。


「これにて緊急会議を閉会とする!各自明日の正午までに軍勢を整え北門に集結せよ!」


 国王の言葉で会議は終了した。




 ◇ ◇ ◇




「……あの作戦でうまくいくの?」


 宿までの帰り道の道中、ジェラルディンが聞いてくる。

 空はとっぷりと暮れ、夜の帳が街を覆っていた。

 街灯の明かりに照らされたジェラルディンの顔を振り向きながら俺は答えた。


「……まあ、五分五分ってところか」


 仲間たちで立案し、俺がこの世界で積んだ功績と勇者であるジェラルディンへの信用で何とか通った策だが、正直、この作戦は完璧に信じきれない。

 今ある情報の中では最善の方策だと思うが……


「前の世界では、ろくな準備も出来ず正面衝突で戦った。それで駄目だったわけだから、今度は作戦を立てるしかない」


「……確かに、地力では敵わないでしょうね……」


 魔族と人間たちの力の差は歴然だった。

 だからこそ瞬く間に人類六国のうちの三国が滅び、残りの三国も互いに連携し合うことで辛うじて存続を維持するという崖っぷちまで追い込まれてしまったのだ。


 未だに何とか数で上回っているからこそ拮抗している。だが今回の戦はその数で負けている。

 それでも負けるわけにはいかない。

 王都の人々のため、人類の未来のため、そして何より、この戦いで仲間たちを失わないために。

 だから俺は死力を尽くす。


「前の世界で学んだことは、敗北だけじゃない。それを証明する」


 俺が守りたいのは、今の仲間だけじゃない。

 過去に俺が守れなかった、俺の仲間たち……彼らの死が、全て無駄ではなかったと、叫ぶために。


「明日出陣だ……頼むぜ、勇者様」


「……分かってるわ、勇者様」






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