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完成間近の飛空船、雷鳥と昏い森



 復興のために尽力する勇者一行であったが、世界から支援を受けている以上、王国に掛かりきりではいけない。

 他の国々のため一刻も早く世界を回らねばならない。

 空襲より一週間……俺たちはそのために国立造船所を訪れていた。


 国立造船所は湖の畔に建てられた木造の倉庫の様な外見をした建物だ。

 アイアンゴーレムや火災による被害は大きいが、幸いにして建造途中の飛空船は被害を被ってはいないという。修復途中の湖に出す漁船がいくつか燃えただけだった。

 その有り様を見てジェラルディンが呟く。


「……よかったというべきかしら?」


「無論漁師たちにとっちゃ災難でしょうが、最近は生態系を守るために禁漁期間を設けるって話でしたし、丁度いいと言えば丁度いいでしょう。」


「漁師たちに文句言われそうね。」


「ははは。あいつら最近は漁よりも禁漁に対するデモに忙しいみてぇですし、そっちをやってろって話ですよ。」


 そんなことをあっけからんとして言うのはこの造船所の所長だ。王国人らしく背が高くてガタイの良い壮年の男だ。

 若い頃は漁師をやっていたらしく、漁師に対して厳しく言うのも未だ気心の知れた元同僚たちが多くいるからだろう。

 所長の案内で建造途中の飛空船の元へ辿りつく。


「……大分出来てきたわねぇ~。」


「ワイバーンの被膜、足りたみたいね。さすがに何度も狩りたくは無いからなぁ……」


 フランメリーとジェラルディンが飛空船を見上げながら会話する。

 飛空船はもうほとんど形になっていると言っていいだろう。ワイバーンの被膜で出来たテールフィンや、ランドタートルの甲殻を加工してできた透明な風防。今までジェラルディンたちが取って来た素材も生かされている。

 だが肝心の竜骨部分が途中までしか作られていなかった。

 空を飛ぶ船といっても、通常の帆船と大きな違いがあるわけではない。細かい違いは多々あるが、大きな差異は、帆の代わりに翼を付け、ガス袋に吊り下げて、特殊な機構によるエンジンを搭載するぐらいだ。

 エンジンが要であり、この機械が無ければ空に飛ぶことは出来ない。

 だから竜骨部分に普通の船と違う素材は必要ない。


「木が足りないの?」


「はい……それが問題でして、いつも伐採に使っていた森が魔物に占領されているんです。」


 飛空船独自の素材が必要無いと言っても、そもそも船の竜骨部分に用いる木材は貴重だ。丈夫で、大きく、湿気りにくい。そういった木材を一から探すことは困難だ。

 この国立造船所はその木材を王国に所有を認められた森林から取得しているのだが……


「サンダーバード。王国騎士団では手に負えない大物でさぁ。」


 雷鳥サンダーバード。その名の通り雷を纏った大鳥である。

 元の生物から巨大化することの多い魔物だが、その中でもサンダーバードは大きくサイズが変わっている。

 精々鷲ぐらいの鳥が、二階建ての建物ほどの大きさに変わっているのだから。

 その巨体もさることながら、雷の放電量も多い。雷雨が引き起こすような落雷を、サンダーバードは連発出来る。

 そして厄介なことに雷をに撃つのだ。

 雷は人体を貫通し、後方の魔道士などにも襲いかかる。騎士団のように団体で戦っても、全滅までは左程時間がかからない。


「狭間が発生したわけではないのよね?」


「はい、遠くから飛んで渡ってきたみてぇで……だからワルキューレ騎士団で対処しようとしたらしいですが……」


「弱いわけでは無いでしょうけど、魔物に対するノウハウが欠如しているんでしょうね……」


 ジェラルディンがため息を吐く。

 王国の軍隊である騎士団は、そのほとんどが他国からの防衛のための組織だった。魔物に対する対策は、専用に訓練された対魔物専門の騎士団、バルムンク騎士団が担ってきた。

 だがバルムンク騎士団は現在、魔族の侵攻を食い止めるべく、北の最前線で戦っている。

 ワルキューレ騎士団は王都近郊の治安維持に組織された団であるため、魔物を倒す方法が分からなかったのだ。


 要するに、所長が何を言いたいのかというと……


「勇者様、退治してきてくれませんかねぇ?」


「来ると思った……」


 何度目かになる飛空船のためのお使い。その最後の依頼だった。



 ◇ ◇ ◇



「近郊っていうぐらいだし、近いのだろうと思っちゃいたが……」


「本当にすぐ近くね……王都まで飛んで来なくて、良かったというべきかしら?」


 エプロムートとフランメリーが思わずといった様子で言葉を零す。

 たしかにお使いを受けたのが午前中。今は正午だから、かなり近い。移動に馬を使ったからとはいえ、王都までほとんど距離はない。


「エド、酔わなかった?」


「だ、大丈夫です!」


 騎乗したジェラルディンが自分の後ろに乗るエドを気遣う。エドは生まれがあまり良くなかったため、馬術を習得していなかった。

 だからジェラルディンがエドを後ろに乗せるのもいつもの事だ。ついでにジェラルディンに掴まったエドが少し顔を赤くしていることもだ。

 俺の時には、当たり前だが無いイベントだったな……あったら困るが。


 エドを降ろした後、ジェラルディンも馬から降りる。森の入口の木に馬を繋げて、他の一行もそれに習う。

 さて……


「どうやって探す?」


 俺はジェラルディンに問いかける。

 ジェラルディンは顎に手をやって少し考え込むが、いい案が思い浮かばなかったのか、フランメリーに水を向ける。


「フランメリー、何か知恵はある?」


「う~ん。私もあんまり魔物に詳しいわけじゃないんだけどねぇ~。」


「それでも、ここにいる誰よりも詳しいでしょう?【退魔の黒魔道士】さん?」


「……なんか昔の渾名言われると恥ずかしいわねぇ~。」


 フランメリーはかつて流れの魔道士として数多の魔物を屠っていた。その結果ついた異名が【退魔の黒魔道士】だった。

 黒魔道士一人で魔物を退治していただけあって魔物に対する知識はこの中で誰よりも高い。しかしそれでも専門の学者等には及ばず、どちらかというとフランメリーが優れているのは実際に魔物と対峙した際の戦法、戦術の類であった。

 それでも元農村の小娘(小僧)や、勇者一行として旅立つまでは王都から出たことの無かった魔法剣士、学の無い不良少年よりも魔物について深い知見を持っていた。


 フランメリーは人差し指を頬に当てながら考える。


「サンダーバードって鳥と生態はあんまり変わらないけど……魔物の共通項として他の生物を積極的に襲う習性があるわねぇ。」


「そりゃ……俺でも知ってるぞ?」


 エドが疑問の声を上げる。

 フランメリーは違う違うと手を振り、エドに答える。


「つまり私が言いたいのは、定住している場所には他の生き物が少なくなるってことよぉ~。」


「……巣か!」


 そう言われて閃いた俺は思わず声を上げる。

 こくこくと頷くフランメリー。


「そうそう!巣の周辺には、他の動物はいないはずよぉ~。」


「それを目印に巣を探せばいいってことか……」


「……問題は、」


 エプロムートが森の入口を見ながら呟く。


「魔物が生まれていないかだな。」


 魔物は、狭間から漏れ出た闇の瘴気によってのみ魔物化するわけでは無い。魔物が保有する闇の瘴気に触れることによっても、魔物に変化する。

 通常は接触によってのみ引き起こされるが……可能性が全くないわけではない。

 その可能性の一つ。


「アンデッドか……」


 アンデッド。魔物によって殺された死体が、闇の瘴気の影響で魔物化した存在。

 元が死体故に、知能は元々低い他の魔物と比較して更に低いが、狂暴性はより高い。

 死体ゆえに血を流すことは無く、闇の瘴気を体から吐き出させることによってのみ倒す事が出来る。

 跡形も無く燃やす、回復魔法によって中途半端に蘇生し逆にダメージを与える。

 アンデッドに効く戦法はあるが、逆にそれを用いなければ倒すことは難しい。

 そしてアンデッドは、暗い場所で生まれやすい。


「鬱蒼とした森は……アンデッドの天国だろうな……」


「警戒して進みましょう。」


 ジェラルディンは作戦会議をそう締めくくり、俺たちは森の中に進んで行った。




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