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夜会、夜襲


 華やかなる夜会は予定通り開催された。

 ノートゥング白亜宮で最も広い部屋である【ジークリンデの間】で開かれたパーティーは、予想以上の人で溢れかえっていた。

 水晶工のシャンデリアに照らされた十色のドレス、タキシード。

 その中で最も今注目を浴びているのは、黄色いドレスに身を包んだ我らが勇者であった。


『え、えー。本日はお日柄もよく……』


「なんだアイツは。宴会のスピーチじゃないんだぞ。」


 壇上でパーティー開始の合図を始めるジェラルディンだったが、しどろもどろで見ていられない。

 一方俺は会場の隅で宮廷料理を頬張っていた。


 今回の勇者激励パーティーは立食形式の会だ。テーブルの上に出ている料理はいつでも食べることが出来る。

 だがあまり手を出す人間はいない。誰でも毒を入れることが出来るし、そもそも貴族や富豪にとってパーティーは権謀術数を巡らせる場で、食事をする場では無かった。

 だけど俺には関係ない。遠慮なくいただく。この白身魚のソテー旨いな。


 とはいえ俺もただ食べているだけじゃない。今後の冒険に関わってくる人物に目を向ける。

 まず勇者と同じ壇上に立っているジークフリード王国国王、ゲオルギウス・マクマーレン・ヴィーヴル・ジークフリード。

 スピーチにいっぱいいっぱいの勇者を微笑ましそうに見つめている。

 白い髭を立派に蓄えた老齢の王で、勇者の魔王討伐を見届けたら王太子に玉座を譲ると言われていた。

 一見してただの好々爺に見えてしまうが、権謀術数だらけの王国の舵取りを務めるだけあって相当なやり手だ。

 王国から勇者一行への依頼だって、勇者へのメリットがあるものや人命に関わる依頼しかしてこない。そうすれば勇者が断れないと分かっているのだ。


 次に……お、いたいた。

 赤と金に彩られた煌びやかな帝国式の礼服に身を包んだ帝国の王子と、その横に貼り付くように立っている銀と青に服を着た角の生えた男。

 彼こそが後の冒険で仲間になる竜騎士ニパルタック・タイフーン。

 異国のパーティーゆえに緊張しているのか、その表情は常にも増して固い。

 今回は本当に顔を見て挨拶だけだからなぁ……再会してもパーティーの話題を向こうから出してもらうまで覚えてなかったし。


 トラヴィスは見つけられなかった。人が多いというのもあるが、帝国と違い皇国人は王国人の中に紛れ込んでも見つけにくいのだ。


『えー、これからも、一層の応援をしてくださると、助かります。』


 壇上の勇者がスピーチを閉める。……あんなだから国に見放されたんじゃないかな、俺。

 その後国王からのパーティー開始の合図を受け、壇上から降りた勇者へと人が殺到する。

 この会場にいる人間のほとんどは勇者目当てだろうからな……あ、帝国の王子とニパルタックも向かっていった。

 俺も行こう。


 ◇ ◇ ◇


「……ジェラルディン殿!是非とも、よろしくお願いいたしますぞ!」


「は、はい。まかせてください。」


 もう何人目になるか分からない貴族に返事をして、次の貴族の挨拶を受ける。

 名前を全然覚えられない……幸い、隣に控えていてくれるフランメリーがサポートしてくれているが、それでも辛い……

 再び貴族との社交辞令が終わり、次の貴族が来ると思ったら、


「初めまして勇者殿。」


 現われたのは濃い緑の礼服に身を包んだ銀髪の青年だった。

 耳が尖っていることから、皇国の人間だと分かる。


「私、皇国貴族の端くれを務めさせていただいております、トラヴィス・ルイス・ロンバルディと申すものです。」


「あ、私は今代の勇者のジェラルディン・ブランシャールといいます。」


 丁寧な自己紹介を受けて、思わず自己紹介で返事をしてしまう。私の素性など分かり切っているだろうと知っているのに。

 皇国貴族――トラヴィスさんは微笑んで、


「存じております。歴代でも類を見ない、無双のつわものだとか……」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。」


 実際のところ、よくわからない。歴代の勇者と比べることなどほとんど出来ないからだ。


 そもそも勇者とは何か。

 それは神の加護を表す徴【シルシ】が現われた者の事を指す言葉だ。

 私の場合は、背中に刺青の様にある。

 勇者に選ばれた者は、突然勇者にしか扱えない魔法を覚える。ちなみに覚える瞬間はものすごく頭が痛い。万力で締め付けられるかのようだった……

 そして体が強くなる。これは身体能力が向上するわけではなく、毒や煙に強くなるという事だ。

 最も重要なのが瘴気を祓い、世界の狭間を縫いとめる力だ。これによって魔物や魔族を生み出す元凶を廃し、世界を生き物にとって良いものとすることが出来る。この力は人類にとって重要ながら、勇者しか扱えない。

 故に勇者は得難い存在なのだ。


 しかし魔王を討伐するという義務を背負っているわけではない。かつて魔族が侵攻してこなかった時代は、勇者は各地の魔物を討伐し、狭間を塞ぐ役割を持っていた。

 瘴気を祓う力を持っているため、勇者は魔物や魔族に強い。つまり私が魔王討伐の任を請け負ったのは、魔族である魔王に対して有利を取れるという事に過ぎない。

 そのため、歴代勇者と比較することは困難なのだ。役目が違う。


「実は私、皇国軍に勤めておりまして、もしかしたら轡を並べる時もあるかもしれません。」


「そうなんですか!その時はぜひともよろしくお願いします!」


 へぇ、この人は軍人なんだ。共に魔物と戦う同士と思えば何だか覚えられそうな気がする。

 皇国軍は王国や帝国と比べて先進的だっていうけど、どれくらい違うんだろう……あれ?


 今視界の端にロジャーが映った気がするけど、すぐにいなくなってしまった……まるで慌てて人ごみに紛れたみたいに見えたけど、何かあったのかな?


「では私はこのぐらいで……今後のご活躍も期待してます。我が皇国にくることがあれば、また御挨拶をさせていただきます。」


「あ、はい。ではまたの機会に。」


「ええ、またの機会に。」


 軍人さんが行ってしまった。話を早く切り上げてくれたのはありがたいけど、貴族や商人の人よりかは話しやすそうだったから、ちょっと惜しい気もする。


 トラヴィスさんと入れ替わりに、まるで計ったかのようにロジャーが現れた。


「……どうしたの?なんか冷や汗かいてるけど。」


「いやいや、ははは、何でもないさ。それより帝国の王子が来るぞ。」


「え、ほんと?」


 ロジャーの言葉に周囲に目を向けると、人込みをかき分けて赤と金の派手な衣装を着た男性が歩いてくる。

 若そうだけどあれが王子かな?


 王子が私の目の前にやってきて、おそらくは挨拶のために口を開こうとしたその瞬間。


 会場に轟音が響いた。


「なっ!?」


「きゃああああ!!」


 まるで大砲の一斉射撃を受けているみたいに断続的に爆音が鳴り響き、会場はパニックに陥る。

 このままじゃ混乱で怪我人が出る!


「静まれっ!!」


 人々がバラバラに動き始めそうになった瞬間、鋭い一喝が飛んだ。

 壇上に上がった王様の声だった。

 王様は王錫を掲げて重ねて叫ぶ。


「皆の者不用意に動かず、状況が判明するまで待機せよ!」


 王様の言う事に会場の騒ぎは収まり、皆その場から動かず立ちすくむ。

 おお、王様!正直見直した。いつも厄介な依頼を押しつけて来るだけの人じゃなかったんだね!

 王様のおかげで会場のパニックは収まったけれど、爆音はまだ何度も響く。

 そして一人の兵士らしき男が会場に走り込んできて、王様の前に跪く。


「報告せよ。」


「は……は!現在、王都は魔王軍によって空襲・・を受けています!」


 ……魔王軍だって!?


 驚きを隠せずどよめく私たちを余所に、私の隣で静かにロジャーは零した。



「……こんなこと、前の世界では無かったぞ……」



 

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