勇者と勇者、今生と前生
「すみません。俺宛の荷物って届いてます?」
「ロジャー様宛の荷物ですね。届いてますよ。勇者様の御一行とのことなので検閲は省きましたが大丈夫ですか?」
「あ、もう来たの……大丈夫です。ただの服ですから。」
衝撃の出来事から一夜明けて、ふとロビーで聞いてみた結果がこれだよ!
早すぎる……一日どころか半日やっと過ぎたぐらいだぞ。
恐る恐る木箱を部屋に持ち帰り、開封すれば丁寧な包装をされた煌びやかな礼服が入っていた。
皇国と王国は独特な文化を持つ帝国と比べれば似通った文化が多い。しかしやはり若干の差異が生まれる。
当然礼服にもその差は表れるはずだが……この礼服にはそういった類のものはあまり見受けられなかった。
王国で作られたものではないが、王国に合わせて作った。そんな印象を受ける。
「いや、これならあまり違和感無く溶け込めるだろうけど、こわ……」
なんでこんなぴったりな服があるんだよ。
いや、冷静に考えたら今回のパーティーのために拵えたんだろうけど、それをわざわざ譲ってくれるなんて……
「そんなに恩義を感じてくれてるの……?」
正直言って助けるという意識はあまり無かった。憂さ晴らしのつもりだったからだ。
それでここまでの厚遇とは……逆に申し訳なくなってしまう。
「まあ、これでパーティーには出れるな。三日後の夜か……」
国の主催ということで準備に時間はかかったが、ようやくパーティーの日程も決まった。
三日後の夜、少なくとも勇者の出番があるのはその日行われる夜会だけだ。
唐突に部屋にノックの音が響く。
扉の方に意識を向ければ、ドアの向こうから声を掛けられた。
「ロジャー、来たわよ。」
「ああ、ジェラルディン。鍵はかかって無いから無いから入ってきてくれ。」
ノックの音の主は女勇者ジェラルディンだった。
何を隠そう俺が呼びつけたのだ。
「おっさんはまだ帰ってきてないのか?」
「ええ、自分の家が居心地いいみたいね。」
「ああ……家族と会っているのかもしれないな。」
エプロムートはホテルでは無く自宅に帰っている。恐らくは妹に会っているのだろう。
「それは……素敵なことね。」
ジェラルディンは優しく微笑む。
……エプロムートの事情はまだ知らない筈だが、家族と過ごせることの温かみは痛いほどよく分かっているはずだ。
普通ならばデリケートなことを言ったと謝る場面かもしれないが、俺たちの間には必要無い。
なぜなら同じ経験をして、同じことを思った、同じ人間なのだから。
同一人物同士の、奇妙な連帯感がそこにはあった。
「で?なんでわざわざ呼びつけたの?」
「ちょっと話があってな。パーティーには他の国からの参加者もいるって知ってるか?」
「帝国と皇国の人たちでしょう?」
現在人類側の国家は三つだけだ。
かつてはこの大陸に六つの国家が繁栄を享受していたが、北の山脈を越えてやってきた魔族の大攻勢によって半分が滅び去った。
残ったのは南側の三国。王国、帝国、皇国だけだ。
ひとつはジークフリード王国。英雄の血筋を引く王族に率いられた正統王国。
大陸の中央で物流を担い、肥沃な土壌で穀倉地として栄えてきた。
俺たちの出身地であり、現在のメンバーのほとんどがこの国の出身だ。(唯一フランメリーは別の国の出身である……理由はいつか)
ひとつはフンシェン帝国。他の大陸から渡って来た子孫からなる大帝国。
薙刀や戟等といった独特の武器を扱い、逞しい軍馬を育てることも出来る騎馬の国でもある。
魔族の襲来以前は好戦的な国家として知られ、現在は魔王討伐を期限とした休戦条約を結んでいるが……それでも他国からの警戒は解かれていない。
ひとつはジルバーシュタイン皇国。かつて王国から分かたれた国。
元々王国中心部とは気候や文化に差異があり、数百年に当時の大公が王国から独立を宣言して公国となり、更に公国から皇国へと号を改めた。
工業が発展しており、銃や大砲を生産できるのはこの国だけである。
先進的な国家とも知られ、学校なども充実している。
三国はかつての遺恨を(一時的にだが)忘れ、魔王に対抗するため協力し合っている。
今回のパーティーもその結束を強めるために開かれる。
「その中に、俺の世界で仲間だった人間がいるんだよ。」
「え?ああでも、それも無くは無いよね。飛空船が完成したら世界中を飛び回るんだし。」
「そう言う事だ。」
今までの移動は徒歩や馬車だったため、冒険の舞台は王国の中だけだった。
だが飛空船が完成すれば活動範囲は一気に広がる。そうすれば帝国や皇国に行くことも当然ある。
勇者は人類の希望なのだから。
「で、こっちでも仲間になることもあるかも知れない。だから俺もパーティーに参加したかったんだ。」
「そんないいもんでもないって知ってるのに、やけに張り切ってるなと思ったら。」
「まあパーティー自体はな……」
挨拶!挨拶!そして挨拶!これに尽きる。
豪勢な料理も音楽も楽しむ暇は無い。ひたすら挨拶回りだ。
勇者たるものコネクションが大事。さもないと終盤の俺みたくなっちゃうからね。
「まあ、実際に仲間になるかはその時になんないと分からないからな。」
「ふぅん……ねぇ。」
「ん?」
「その人たちの名前は出さなくてもいいよ。というかこれから仲間になるかもしれない人たちの事を知りたくない。」
「え?……何でだ。」
俺の疑問に、ジェラルディンは真っ直ぐとこちらを見つめ返し答える。
「あなたが助けてくれるのはありがたいし、仲間たちの命は必ず守りたい。だけどあくまでこれは私の冒険で、私がやるべきことなんだ。私に降りかかる全ての試練を、あなたが打ち払っては……うん。フェアじゃない。」
……そうか。
うっかり自分の人生の延長線上に考えていたけど、これはあくまで勇者ジェラルディンの物語なんだ。
これからジェラルディンに待ちうける困難に、俺が出張っていてはジェラルディンは成長できない。そうなればきっと魔王だって倒せない。
それをジェラルディンは分かっているんだ。
なら、これから起こることを予言してしまうべきではない。
仲間の死に関わることだけに、俺が勝手に動けばいい。
「……ごめんなさい。我儘みたいで。」
「いや、俺もそれが正しいんだと思う。だけどもし、お前の動き次第で仲間が死ぬことがあれば……」
「それは勿論、止めて頂戴。仲間の命には代えられないわ。」
「ああ。そうするよ。」
仲間の命が最優先。それは世界が変わっても同じだ。
それが俺の役割……魔王討伐はジェラルディンの役割だ。
俺が辿った道を全てジェラルディンに押し付けてはいけない。
「とにかく、そこでいつかの仲間たちに知り合えるかどうかは、私次第……でいいのよね。」
「あ、わり、そのうちの一人とはもう確定事項かもしれない……」
「はえ?どういうこと?」
「不慮の事故で……」
だってまさか、偶然助けた相手が仲間(予定)とは思わないよ!
とにかく今回出会う仲間のうちの一人、トラヴィスとは既に縁を作ってしまった。
というか、今回のパーティーで出会ってしまうのでは?
「ま、まあもう一人はお前次第だから!」
「いったい何があったのよ……」
気にしないで!きっと向こうも気づかぬフリをしてくれるから!




