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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第9章 代理戦争篇

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第438話 地人族の秘密の工房


 アドラスの襲撃から数時間後、空が白み始めた頃に私たちは地人族(ドワーフ)陣営の代表、ガンテツが暮らしているという区画にやってきた。


 代表が暮らしている区域だからか、周囲には地人族が多い。

 まだ朝方だというのに、忙しなく動き回る彼らに話しかけてみようと試みるのだが、今が代理戦争中ということもあってかまともに取り合ってくれない。


「うーん、どうしよう。流石に場所が分からないと交渉のしようもないんだけど」


「……私が探してみる」


 その場で四つん這いになったリンが地面に鼻を近づける。


「……多分、こっち」


「もしかしてガンテツの匂いを覚えてるの?」


「うん……開会式で会った時に覚えておいた」


 マジか。会ったと言っても本当に数分の話で、露骨に匂いを覚えようと近づいた素振りもなかったのに。


「……どうしたの?」


「いや、迷子になってもリンがいたら心配ないなって」


「……そうだね。ルナの匂いならはっきりわかるから大丈夫」


「え……もしかして、私って臭い……?」


 嗅覚に優れるリンにそんな風に言われると、ドキッとしてしまう。

 自分の匂いには気づきにくいという話もあるしもしかして、と。

 だが、そんな私の心配はどうやら杞憂だったらしい。


「……ルナの匂いは絶対に忘れないって意味だよ」


 慌てる私の様子が面白かったのか、口元に手を当てて笑うリン。

 ああ、良かった。恋人に臭いと思われてなくて。

 思われてない……よね? 笑って誤魔化したわけじゃない……よね?



  ◇ ◇ ◇



 リンの嗅覚に頼った探索を開始して数十分。


「……ルナ、気を付けて。かなり近くまで来てる」


 すくっ、と立ち上がり周囲に視線を向けるリンはかなりの確信を持ってここまで来たらしい。私にはさっぱりわからないが、リンが言うのならそうなのだろう。


 このあたりは3階から4階建ての建物が多く、複雑に入り組んだ裏路地はまるで迷宮のような複雑さだ。視界が狭いこともあって、潜伏するには絶好の場所と言えるだろう。


「どのあたりか分かる?」


「ううん……でも、すぐ近くだよ」


「場所は分からないのに?」


「うん。だって……ずっと見られてるから」


 ちらりと視線を上に向けるリンに釣られて私も建物の上層を見る。

 すると、窓からこちらをじっと見つめている地人族の男性と目が合った。

 いや……彼だけじゃない、近くの建物のあちこちから視線が向けられている。


「……監視なんだと思う。一般の人には手が出せないから」


「なるほどね。一方的に観察することができるわけだ」


 代理人であるガンテツを狙ってやってきた他陣営の代理人を見つけるために彼らはこの通りを見張っていたのだろう。

 直接戦闘に参加はできなくても、こういう形で手伝うことはできるってわけだ。


「……どうする? 人目につかない場所を探す?」


「いや……」


 これだけの人数がここにいるのだ。他の場所にもそれなりの人員が配置されていると考えるのが自然だろう。回り込んだところで無駄骨に終わる可能性が高い。


 それになにより……私達には時間がない。

 一刻も早くアリスを取り戻すためには、最短距離を突っ走るしかない。


「私の名前はルナ! 地人族の代理人ガンテツさんに話があってやってきた! どうか彼に取り次いで欲しい!」


 両手を上げ、敵意がないことをアピールしながらできるだけ大声で呼びかける。

 彼らからの反応は……ない。それはそうだ。今は戦争中。敵側の人間からの呼びかけなんて警戒して当然だ。


「私達は地人族(ドワーフ)獣人族(ベスティア)で同盟を結ぶためにやってきた! 他の陣営に差を付けられる前に、どうか話を聞いて欲しい!」


 とはいえ、私にできることはお願いすることだけ。

 取り次いでもらえるまで、頼み続けてやる。

 その前に太陽光にやられちゃうかもだけど。


「どうかお願いします! 話を聞いてください!」


 頭を下げ、懇願する私に……


「そんなデカい声を出さんくても聞こえとるわい」


 ざっざっ、と地面を鳴らしながら現れる小さな人影。

 それは身の程の丈もあるハンマーを豪快に肩へ担いで現れた。


「近所迷惑になるじゃろうが。さっさとこっち来い」


 くいくいと空いた方の腕で手招きする彼の名はガンテツ。

 私たちの探していた、地人族の代理人だった。



  ◇ ◇ ◇



 ガンテツに案内されたのは石造りの低い建物だった。

 中は幾つもの小部屋に分かれており、その中の一つにガンテツは迷いなく入っていく。


「先に言っておくが、オレがお前らを案内するのはアトリ様に命令されておるからじゃ。獣人族陣営とはうまいことやっておけとな」


議傑(マスター)のアトリさんが? それはまたどうして?」


「さあな。難しいことはオレにはよう分からん」


 消す炭の残された暖炉に足を踏み入れ、灰が舞い散るのも構わず暖炉の内側にガンテツが手を突っ込むと、ゴゴゴと近くの壁が動きだし地下へと続く階段が現れる。


 か、かっけぇ……なんだこのギミック部屋は。

 私の部屋にもこういう仕掛け作ってくれないかな。


「ほれ、こっちじゃ」


 ずんずんと奥へ進んでいくガンテツに促されるまま背中を追う。

 また狭苦しい道が続くのかと思っていたら、階段を降りた先にはかなりの広さの空間が広がっていた。


 地下に作られた土中の秘密基地、と言ったところか。

 段々畑のように幾つかの階層に分けて作られたこの空間は作業場でもあるのか、周囲には鍛冶に使われると思われる金床や、(つち)が置かれている。


「さて、それじゃあ話をしようかのう」


 絶対に座るところではないだろうと思われる金床にどっかりと腰を下ろし、顎に手を当てガンテツはこちらを値踏みするように見つめてくる。

 ここからが本番……ということか。


「……私達獣人族陣営と同盟を結んで欲しい。今日はそのお願いにやってきた」


「同盟か。悪くはないの。アトリ様からの命令もあるわけじゃし」


「! だったら……!」


「じゃがアトリ様がどういう思惑で命令していようとも、実際に命を賭けて戦って居るのはオレら代理人じゃ。決定権はオレにある」


 喜びかけた私に掌を向け、ガンテツが静止する。


「悪い話じゃないのかもしれんが……同盟ということはお前さんらに背中を預けて戦えというわけじゃろう? こんな敵地のど真ん中にのこのことついてくるような間抜けに、オレらの命運はかけられん。そうは思わんか?」


「ルナ……」


 背後に立っていたリンが私の袖を引っ張る。


「……囲まれた」


 見ると、いつの間にかぐるりと周囲を取り囲むように地人族が集まって来ていた。中には代理人補佐であるミライとグストーの姿もある。

 もしかして……罠に嵌められた?


「……代表以外の人間が手を出すのは禁止だよね?」


「はははっ! ここは日の光も届かん地の底じゃぞ! ルール違反をしたとして、誰がそれを咎めると言うんじゃ!」


「…………」


 どうやら私の認識は相当に甘かったらしい。

 まさかここまで堂々とルール違反をしてくるとは。


「何か遺言はあるかのう?」


「……さてね。何十年も先に使う言葉なんて考えてないよ」


 鎚で大地を鳴らすガンテツに相対する私は左半身を前方に突き出す半身の構え。

 後手必勝。左手で捌き、右手で刺す。カウンターを狙う構えだ。


「来るなら来い。だが……覚悟してから来いよ」


 数の不利を吹き飛ばすよう、『威圧』スキルに強気の言葉を乗せてやる。


「この代理戦争、最初に脱落するのはお前らだ」

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