第5話「唯一、設定通りだった人」
全員が設定と違った。
レイアは優しかった。エドガーはダメだった。ミアはしっかりしていた。
私は少し途方に暮れていた。
自分が書いた世界にいるはずなのに、知っている人が一人もいない気がした。
そんなとき、廊下でヴィンに会った。
私の書いた設定では、ヴィンはこういうキャラだった。
攻略対象②。レイアの元婚約者。冷静沈着で、状況分析が得意。感情を表に出さないが、守りたいと思った人間には絶対に手を貸す。「余計なことを言うな」が口癖。
会った瞬間、目が合った。
「……マリア・ソレン」
「は、はい」
「顔色が悪い」
「少し、考え事をしていて」
「余計なことを考えるな。体に出る」
(余計なことを言うな、が「余計なことを考えるな」になってるけど)
(ほぼ設定通りだ)
「……すみません」
「謝らなくていい。水を飲め」
ヴィンが近くの水差しを指した。
(設定通りだ)
(こういう人だった、ヴィン)
「ありがとうございます」
「礼はいらない」
(礼はいらない、も設定通りだ)
感動で少し目が潤んだ。
「どうした」
「……なんでもないです」
「嘘だ」
「少し、安心して」
「何に」
「ヴィン様が、思っていた通りの方で」
ヴィンが少し黙った。
「思っていた通り、とはどういう意味だ」
「えっと……お噂通りの方だということです」
「俺の噂など聞く機会があったのか」
「少し」
ヴィンがじっとこちらを見た。
(見透かされそうで怖い)
「マリア・ソレン」
「はい」
「お前は、何かを知っているな」
(ドキッとした)
「何のことでしょう」
「うまく誤魔化せていない」
「……すみません」
「謝らなくていい」ヴィンが静かに言った。「ただ、一つ言っておく」
「何ですか」
「この学院には、表から見えないものが多い。気をつけろ」
「……それは、どういう意味ですか」
「そのままの意味だ」
ヴィンが歩き出した。
「ヴィン様」
「何だ」
「また、話せますか」
ヴィンが少し立ち止まった。
「用があれば来い」
「……ありがとうございます」
「礼はいらない」
廊下の向こうに消えていった。
私は一人で立ちながら、少し笑った。
(設定通りの人がいた)
(ヴィン、ありがとう)
でも最後の「この学院には表から見えないものが多い」は、設定にはなかった。
(それは、どういう意味だったんだろう)
◇
──柊詩の手記より。
『ヴィン、ほぼ設定通りだった。感動した。泣きそうになった。でも最後に「表から見えないものが多い」と言っていた。設定には書いていなかった。この世界には、私の知らないことがある。当然か、三話しか書いていないから』
次話:「キャラが設定と違う理由が、見え始めた」




