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第95話 王都の有名店

「私も一緒に行く。私だってもうあんたの因果の一部よ、連れてって!」

 だけどモルガナは一人で行ってしまった。その老廃物、魔力だまりと彼女が呼んでいたそれを、すべて破壊しに行くのだと。それを果たせれば、自分を消せる。それが望み。そう言って。


 だがそのことはベリアスと袂を分かつ決定的な理由となった。モルガナのやろうとしていることはベリアスとその同族の生存環境に悪影響を及ぼすというのが理由らしい。同族ってなんだ?民族の事だろうか。その民族の信仰に影響するとか……。魔力だまりという響きからして土地の信仰に関わる何かと揉めそうな雰囲気アリアリだ。


 実際のところはよく分らないがベリアスはモルガナを追って消えた。モルガナを殺して同族への脅威を取り退くためらしいが、どうだろう。あの二人に限ってあり得ないと思う。ただベリアスの目が潤んでいたように見えたから、意外とマジなのだろうか。


 そうはさせじとベリアスを追いかけたアガニケが戻ってこない。そしてその後、何の便りも無いのが、最悪の事態には至っていないことの証拠だと思うのだが。

 押しかけ女房気取りかな?連絡くらいよこせよ。……落ち着いたらでいいから。


 ラフカは王宮を辞めた。けじめをつけにライゼンを探しに行くと言って。けじめってなんだ?共犯者のなりそこないめ。とはいえ彼は王宮に居続けることは難しかったのかもしれない。牢に入れられた宰相を始末したのはきっと彼だろうから。

 エミリオは食材探しの旅に出た。軽い理由で腰も軽い。しかし持ち帰ってくる成果は軽くはない。そんな彼らしいところをまた見れる日が楽しみだ。ただ、戻ってくる保証はどこにもない。それも含めて彼らしい。少しさみしいけど。


 王都随一の人気店、そのオーナーシェフにして祈祷式魔法も駆使する聖騎士。だからこの世に溢れる魔力のありようも分かる。モルガナが姿を消した3年前から特に変わったところはない。


 魔力だまりの破壊とやらはきっと進んでいないのだ。まさかと思うが、なにか危険な目にあったか、はたまた隠棲の道を選んだか。もしかしたら別の時代に行ったとか?それこそ……、まさかね。


 今もたまに勇者セリオンの伝記をめくってみる。いつの間にか見知らぬページが増えてそうな気がしたから。


 オリーブオイルを敷いたフライパンの上に寒ヒラタケ、ソースを鍋肌から回し入れるように絡める。

 その手つきは彼女そっくりだ。焼き色が色づいてゆき、そして香ばしさが漂うその店内は彼女がいたころと何も変わっていないように感じる。キノコ好きの彼女はこの香りに誘われて、もしかしたらひょっこりと顔を出すかもしれない。

 そんな光景を想像してくすくす笑いのひっつめ髪が揺れる。


 カランコロンと店のドアが鳴る。美貌のシェフが目当ての常連客。王都に降り注ぐ日差しがますます明るい。空が抜けるような、今日は信じられないくらい深い青で。白い雲が呆れてしまうほどにのんびりしている。


 石畳を踏む靴の音。かしましい女性たちの笑い声。時刻を告げる鐘がなる。光が入り組み、明暗がすれ違う路地裏を、子供たちがはしゃいで駆けまわる。

 きっと今日もてんてこ舞いになるだろう。           

 おしまい


 ◆エピローグ◆


 夜明けの塔の最上階から強い光が放たれた。王都の警備の何人かがそれに気づいた。二度。一回目のしばらく後に二回目。

 最初の光が夜空を斬り裂いたその直後、塔の最上階の主の間には、拳大の穴が胸に開いて血だまりの床に仰向けにまっさおな顔の魔女。白いローブが赤黒く染まっていく。そしてそれを見下ろす黒いローブの魔女。

「お師匠様。あたしもじきにそちらに参ります。ただ、あなた様より先には行けないのです。あなた様を一人残したら、何をなさるか分かりませんもの。どうかお許しを」

 白いローブの魔女はふふ、と笑った。

「お前はあたしと同じ所にはこれないよ。作り物のお前は、死さえも運命に組み込まれていないんだ。時が来ればただ記憶を失い、そして肉体が若く再生する。魔力の澱の循環を管理する装置として、その燃料である魔力の澱も、それによって養わられる命も永遠なんだ。でも、心の無かったお前が200年で心を得た。あたしはようやくワルプルギスに並んだ……」

「お師匠様。世迷言です。さ、もうお楽になさって」

 二度目の明滅が星空を斬り裂いた。普段よりも星々の騒がしい、空気の澄んだ冷たい夜の出来事だったという。


「ウソ吐き魔女のモルガナちゃんは今日も元気に世界を救う」はこれにて完結です。ここまでモルガナちゃんの歩みを見守ってくださった皆様、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

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