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第87話 適合者

「ラ、ラフカ・パドーム。キミは一体何を考えているのだ?」

 声を震わせるのは大司祭ウィチカートだ。昨日のどんちゃん騒ぎに苦言を言っているのだ。

「私の主催する試験で参加者が不祥事など起こしたとなれば、私もキミも責任問題だぞ」

「はあ、すんません」

「む?不服そうだな?」

「いえ、別に不服などありませんがね。ただ出来レースのはずだった今回の試験、思惑が大きく外れた。であれば軌道修正をスムーズに図るのは当然でしょう?無理にねじれば歪みが生じる」


「そんなものは今日の試験を見ねばまだ分からん。そしてキミには関係のないことだ」

「関係ない?」

 ラフカの声音が低く沈む。

「い、いや、言いすぎた……、そ、そろそろ行くか」

 今日は大司祭も内容を直に見る日だ。


 王宮の庭園には結界で囲まれた池がある。いつごろからか、魔素に汚染され、生物が生きていけない環境になった池だ。危険なので結界を張ってある。

「池の状況は今言った通りです。分かりますね。つまり水盤の水は汚染された池の水です。一人では危険が大きすぎるで、一昨日の三人一組でこれを浄化してください」


 一組に一つの水盤。そして水盤は合計八つだ。

 他の組が水に触れずに祈祷式魔法で浄化を試みる中、水に中に手を突っ込んだのがフロレッタだ。水中から魔法を利かせ、水が仄かに発光する。


「す、すごい。あれなら……」

 なかなか効果が見えない状況で周りの受験者もフロレッタに倣おうとする。

「手を突っ込んだら、すぐに抜いて。それ以上は意味ないよ」

 モルガナの不用意な発言が大司祭ウィチカートの耳に入った。


「ほ、ほお?ええと、モルガナくんでしたな?今のはどういう意味ですかな?」

 モルガナの傍に来た男がこめかみをピクピクさせながら尋ねる。こいつは昨日のどんちゃん騒ぎに首謀者でもあったはず。だから名前も覚えている。

「あんた誰?初めて見る顔ね。ま、折角だから教えてあげる。知りたいのは浄化能力じゃない。魔素汚染との適合性を見たいだけよ」


 モルガナは、というか黒い魔女は大司祭の顔を知らない。黒い魔女は宮廷に頻繁に顔を出したが、セレモニーの類には一切出なかった。そして祈祷系の大司祭は魔術系の黒い魔女を一方的に天敵視して顔を合わせようとしなかったためだ。

「なぜそう思うんだね?」

 一層ピクピクしているが、男の表情は青ざめている。


「浄化できるならあの池、放置しないでしょ?でも見た感じ、この水盤の中の水だけなら浄化できる。つまり水は浄化できる。でも汚染の原因は取り除けていない。或いは原因が分からない。そんな状況で水だけ浄化できる能力は求めないでしょ。本音は適合者が欲しい。今回の目的はそれだけだね」

「ぬ、ぬう……!」

「おや、大司祭、いかがなされました?」

 ラフカがやってきてその男に声を掛けた。


「い、いや別に」

 そのやり取りを聞いて、今度はモルガナが青くなる番だった。

 こいつ大司祭かよ……、時間、巻き戻してくださ~い


「みなさん。これで試験は終了ですが、魔素に指が汚染されています。大司祭である私が浄化と治癒を施しますので並んでください」

 優勝候補のフロレッタもカレンデュラも魔素による炎症を起こしている。レーネルーナもだ。

「はい次」

 何とモルガナに至っては見てさえもらえなかった。ただ全く何もしないわけではなく、補助の司祭に任せたのだ。とはいえ大司祭が直接見ないのはモルガナだけ。

 な、なして……。ち、ちくしょう……。

 だがモルガナの指は炎症どころか一切何の変化も見られなかった。これには補助司祭も目が点になっている。



「こ、これは……」

 ウィチカートが驚愕の声を上げる。ジゼルの細くて長い指を無遠慮に触りながら呟いているのだ。魔素の影響がほとんど見られない。探していた適合者だ。

「大司祭。触り過ぎじゃない?セクハラだよ」

 ジゼルの背中から顔を出してモルガナがニヤリと笑った。ジゼルは普段からへの字の眉をいっそうへの字にして苦笑い。


「大司祭様、本当によろしいのですか?モルガナ様はジゼル様以上に適合なされていましたが……」

 ウィチカートに向かってそういうのはモルガナの確認をした補助司祭だ。

「ああ、儂は見ておらんしな。そしてそれが事実なら、ジゼル以上の資質は切り札になりうる。なら今そのカードを切る必要はない」

「なるほど」

 喫緊で必要なカードはジゼルだ。モルガナがそれ以上としても、使うのは今ではない。もっともな話だ。


 ウィチカートは部下たちとのやり取りを終え、自室に帰る途中で袖の中にある小さな羊皮紙に気付いた。

「なんだ、これは?」

 “流された祠は王都の南西、橋の下に”

「……」

 心当たりは、あった。30年以上も昔の記憶だ。


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