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第73話 筆頭の栄誉

「このフードつきローブを頭からかぶってください」

「なんじゃこりゃ」

 モルガナの言う通りローブとやらを被った公爵だったが、フードなどではない。首から上は全て布で覆われ前が見えない。


「はい、これから行う秘術は見てはいけない秘術です。公爵、動かないで。では先生、お願いします」

 先生とはジゼルのことだ。だがその先生とやらが何かする前にモルガナが呪文を唱える。

「ディスペルマジック、ブレイク・カース!」

 ぱあっと光が公爵を包む。そしてモルガナが必死の形相で天井に向けた手のひらを何度もクイックイッと手招くようにジゼルに向けて動かしている。

 やれ、ということなのだろう。

「う、おお……」

 吸引されるような感覚に思わず公爵が引かれる方にのけぞっていく。ジゼルがゴクンと何かを呑みこんだ。


 弓矢が走る。それは矢が自らの意思を持って奔るかのようだ。今日は主賓のために王都にいる全貴族が収集されてのキツネ狩りの日。軽快なステップでキツネを射線上に捉え、一発で仕留めるのは本日の主賓ヘンリー・オズワルド。

 ポイントへ到達する身のこなし、そこからの無駄のない手際。凄腕のアーチャーにしか見えず、周囲の貴族たちに感嘆の声をあふれさせた。

 彼は少年のように山野を駆け、そして日が暮れるまで弓を放ち続けた。その笑顔はまさに少年のそれであったという。


「なあ、モルガナ。ワシの養子になってはくれまいか」

 その夜、公爵はモルガナに切り出した。公爵は独身だった。呪いも含めての色々な引け目が彼をそうさせたのだ。


 もっと早く解呪できていれば。そう思わないでもないモルガナだったが、ジゼルなしでは上手く行かなかったかもしれない。あの呪いは半分は公爵本人の先入観がもたらす呪いだったからだ。

 呪いを一度解いても彼の中にある深層意識が再び解いたはずの呪いを呼び込む。そういう構造も含めての呪いなのかもしれない。

 白い魔女。この呪い、犯人は彼女だ。モルガナはそう確信していた。


「誠に申し訳ございません。貴族の生活など心の底からごめんなのです。ご容赦ください」

「公爵家、というよりも、王妃としての道が開ける入口なのだ。貴族の嫌な部分は王妃として変えて行けばいい。どうだ?それでもだめか?」

「ご容赦ください。もし公爵家の後継に人をお探しでしたらアリューシャ公爵家のレベッカ嬢などはいかがでしょうか?聡明で心優しく、礼儀や作法などの教養も豊かなしっかり者です。彼女が駄目でも彼女には長男ではない弟君がいたはず」

「家柄は良いが、そういうことではなくて、だな」

「ですから、駄目です」


「いやあ、公爵様、あっという間でございましたなあ。やり残したことは御座いませんか?」

 出立の朝、公爵の隣を歩くリーヴが聞いた。

「心残りならあるぞ、二つも!」


 通路の左右に居並ぶ侍女の、モルガナの前で声を大きくする。一つはモルガナを養子にし損ねたこと。これはリーヴも断腸の想いだ。全てのピースがカチリと嵌るはずだったのだ。公爵の申し出をモルガナが断ったと聞いた時にはしばらく椅子から立てかなった。


「あと一つは塔のことですかな?」

 そう。公爵は黄昏の塔に入りたいと強く望み、扉の破壊を試みたがビクともしないどころか、衝撃を与えるとその衝撃が反射する魔法が掛かっていてどうにもできず、だからと言って登ろうとすると途中で幻覚に見舞われ誰も登れなかったのだ。


 結局内部がどうなっているのか、今だ誰にも分からない。

 それでも公爵の足取りは軽い。杖も突いていない。

 軽やかに馬車に乗りこみ、モルガナにウィンクして王都を発ったのだった。


 その午後、見習い10人は講堂に集められた。アガサが進み出て一同に向かって言った。

「さて、公爵様も満足してお帰りになられました。ここで試験の合否についてお伝えすることが御座います。全員合格です。そして筆頭合格者は本日から正式な侍女として王家のお傍でお仕え頂きます。筆頭合格者は、モルガナ・ノクスヴァレイン!おめでとう、モルガナ!」

 しーん……。

「あれ、モルガナ?早く出てらっしゃい?」

 するとアンが恐る恐る発言した。


「あ、あの、モルガナは今日で終わりの約束だからと言って、もう荷物をまとめて帰りました」

「な、なにい~……。あ、あんたたち、何しているの?早く連れてきなさい!」

 しかし結局モルガナは戻ってこなかったという。


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