最終話 愛は進化を遂げる(ロゼリア視点)
それからさらに数年後……。
「あぁぁ~!なんって可愛いのかしら!さすがはお義姉様の娘だわ!」
「ろーぜたんもすちぇきぃ~」
3歳になった姪のリーゼロッテはまるでお義姉様の素敵な所をそのまま小さくしたような完璧な可愛らしさを兼ね備えた、それはもうとてつもなく最強に可愛い姪なのである。
「もう、ロゼリアったら毎日リーゼロッテに会いに来ているのに飽きないわねぇ」
「リーゼロッテの可愛さは毎日更新していますよ!もう、大好きですわ~!」
「ろーぜたんだいちゅき~」
そう言って、にこーっ!と笑顔を向けてくれたリーゼロッテ。もう、可愛いが爆発して溢れかえっている気がしてならない。
あぁ、とにかく可愛い!!
こうして可愛すぎる姪とぎゅーっと抱き締め合うのも毎日の日課だ。あれから王妃となったお義姉様が公務で忙しい時はわたしがリーゼロッテと遊んだりしていたので、すっかりなついてくれているのである。
「わたしの午前中はリーゼロッテのためにあるんですよ!今日も子守りはお任せ下さい!」
「ありがとう、ロゼリア」
「かぁしゃま、おちごとがんばってね~」
こうして公務に向かわれるお義姉様を見送り、わたしとリーゼロッテの楽しい時間の始まりだ。
さて、何をして遊ぼうかと考えていると、リーゼロッテが絵本を持ってきて「よんでくだしゃい」とおねだりしてきた。あ、これはリーゼロッテのお気に入りの……わたしが書いて出版した絵本だ。
「昔々、この国には可愛らしい王子様がいました。しかし王子様は愛される事を知らずとても悲しい毎日を過ごしていました。そんなとき、流れ星にあるお願いをしたら、夜空から星が降ってきました……」
「ほしのこでしゅ!おーじさまのおねがいをかなえてくれたでしゅ!」
もう何回も読んでいるからすっかり内容を覚えているようである。それでも何回も読みたがってくれるなんて……薄い本以外の本も出してよかった!
「ほしのこはすちぇきなおとこのこで、おーじさまとらぶらぶになるでしゅ!」
「リーゼロッテは本当にこのお話が好きねぇ」
「このまえ、ほかのくにからあしょびにきたおーじさまがこのおーじさまにそっくりだったんでしゅ!」
あぁ、そういえば他国との交友パーティーなんかがあった気がする。リーゼロッテはこの国の第1王女だから他国の王子に囲まれていたんだった。
「りーぜぇは、そのおーじさまとこーしゃくけのむすこたんがおにあいだとおもいましゅ」
うっとりした顔で語るリーゼロッテ。その他国から来た王子も侯爵令息も確かリーゼロッテに猛アピールしていたと思うけれど、どうやら伝わっていないようである。
「しょして、はくしゃくけのーらんすろっとたんがりゃくだつあいするんでしゅ」
あ、伯爵家のランスロットとはジークにい様が養子にした男の子だ。ジークにい様の教育の賜物なのか幼いながらに隠れた才能を感じる美少年なのだ!
ちなみにリーゼロッテとランスロットは幼なじみで一緒に遊ぶときはいつも“萌え”について語り合うのだとか……将来有望でしかない!
さて、この国がこの数年でだいぶ変わったことは皆様わかっているも思うが、もうひとつ大きく変わった事があるのだ。
同性結婚が認められるようになってから、男性同士はもちろん女性同士のカップルも増えた。もちろん愛の自由の選択肢が増えることは素晴らしいことなのだが、それによって〈貴腐人に憧れる会〉にライバル組織が出てきてしまったのである。
敵対する組織の名は〈白百合を愛でる会〉と言う“女性同士の恋愛”がこの世で最も美しいと豪語する男性たちの組織なのだが……“腐兄団”を名乗るものすごく嫌味な奴らなのだ!
なんでも愛し合う少女たちを見守るために結成された“腐兄”たちの集まりらしいのだが、イチイチわたしたち〈貴腐人に憧れる会〉の活動にちょっかいかけてくるのである!もぉ、鬱陶しいったら!それぞれが好きな活動をしていればいいのに、なぜか突っかかってくるからいつもトラブルが起きているのだ。どうにかならないものか……。(ため息)
そうこうしている内にリーゼロッテとの楽しい時間を終え、いつもの〈貴腐人に憧れる会〉の会合に向かう途中……1番会いたくない人間に会ってしまった。
「おや、ロゼリア貴腐人殿ではないですか」
その金髪の髪をぴっちりと七三分けにして、分厚い四角眼鏡をした男はわたしを見るなりフッと憎たらしげに口角をあげる。
「貴腐人殿は毎日お暇そうですね?」
「あら、レントレット腐兄殿。わたしは毎日王宮で第1王女様のお勉強を見ているのであなたよりは忙しくてよ?」
わたしがつんとしながら言い返すと、レントレットは四角い眼鏡をくいっと指で押し上げた。
「くっ……!あんなに可愛らしいリーゼロッテ王女が貴腐人などの魔の手に染まるなど……!リーゼロッテ王女こそ“美少女×美少女”の尊い愛に相応しいと言うのに」
「確かにリーゼロッテは素晴らしく可愛いですけど、今、最も尊いのは“美少年主君×腹黒ドS執事”ですわ!」
「何を言うのです!美少女同士の柔らかで滑らかなまるで絵画のような美しさこそが世界の財産なのですよ?!あなたはなぜその尊さを学ぼうとしないのか」
「だから、あなたとわたしでは好きなものが違うと言っているでしょう!もう失礼しますわ!」
あぁ、もう!毎回顔を合わす度にわたしに自分と同じものを好きになれと強要してくるこの男が大嫌いだ!!
「あ、まだ話は終ってな……おわっ!」
身を翻すわたしの腕を掴もうとして、レントレットが盛大にすっころんだ。一体なにをそんなに慌てているのか……。
「その眼鏡、度が合ってないんじゃないですか?そんなに分厚いレンズじゃ重いでしょうし……え」
わたしも転んだ人を見捨てるほど鬼ではないので、しょうがなく手を貸そうと身を屈めるた瞬間。思わず言葉を失ってしまった。
「……」
だって、転んだ拍子に眼鏡が落ち、ぴっちりとしていた七三分けが乱れたレントレットの素顔が……今わたしのハマってる“美少年君主×腹黒ドS執事”の腹黒執事のイメージにドンピシャだったのだから!
えーっ!まさに腹黒ドS執事が薄い本からそのまま抜け出してきたかのようなんですけどぉ!?
「あ、あの……貴腐人殿……いや、ロゼリア嬢!」
「えっ、あ、はい?」
あまりの驚きに狼狽えるわたしの手を握り、レントレットが叫んだ。
「本当は……あなたと“萌え”について語り合いたかったんです!お友達になってください!!」
「えー……」
まさかの展開にちょっと引きそうになるものの……まぁ、腹黒ドS執事のセリフを言ってくれるならいいかもしれないと思い直す。もちろんお相手はクロス様にお願いしよう!
これは続篇を書くためのアイデアがあふれでてくる予感……今月の新刊は間に合いそうです!
***
「あのおふたり、また言い争ってらっしゃるわ」
「ここ最近、毎日ですわよね?ロゼリア様が王宮から出てこられる時間になると必ずレントレット様が待ち伏せしているらしいですわよ」
「レントレット様がロゼリア様を改心させるために付きまとってるとか聞きましたけど」
「あら、真実は違うようですわよ?レントレット様はロゼリア様の“萌え”に対する情熱に尊敬の念を抱いているとか」
「まぁ、ではロゼリア様の気を引くために突っかかってらっしゃるの?まるで子供ですわね。でもそういえば、同性結婚が広がったのはロゼリア様が裏で活躍してくださったからですものね」
「薔薇と百合の愛が差別なく愛されるようになったのは、ロゼリア様のおかげだとみんな知っていますわ」
その後も〈貴腐人に憧れる会〉と〈白百合を愛でる会〉はライバル関係にはあったが、切磋琢磨する仲になったとかならなかったとか……。
「さぁ!今日も真実の愛について語り合いましょう!」
────兎にも角にも、みんな幸せになったのでした。
終わり




