21、そして未来へ
「あぁ、ロゼリア!無事で良かった……!」
「テイレシアお義姉様ぁ!」
そうして、私はやっと会うことの出来た可愛い義妹を胸に抱き締めたのだった。
***
あの日、お父様から手紙の真実を聞かされた私はクリス様と共に王宮に乗り込んだ。その手紙にはこう書かれていたのだ。
『ロゼリア嬢の安全は保証する。全てを明かすのでテイレシア嬢を王宮に向かわせるように』と。
王族からの手紙の内容がこれだ。きっと何かある。そう覚悟をした。したのだが……。
乗り込んだ先では……なぜかフレデリック殿下は地下牢に閉じ込められていて、ロゼリアといつの間にか帰国していた王妃様が一緒に私を出迎えてくれたのだ。
「王妃様!いつお戻りになられたのですか?!あっ」
驚きのあまりつい素のまま声をかけてしまい、慌てて淑女の挨拶をしようとすると王妃様が私の手をとり優しく微笑んでくれた。
「いいのですよ、テイレシア嬢。フレデリックの件は迷惑をかけてしまいましたね」
「王妃様……」
そして私は事の顛末を聞かされたのだ。
まず、フレデリック殿下は廃嫡され平民になるようでロゼリアとの婚約も白紙に戻されたそうだ。これでロゼリアの婚約は無かったことになる。可愛いロゼリアがキズモノにならなくて本当に良かったと胸をなでおろした。
しかも、なんと私との婚約も実はちゃんと白紙に戻っていたそうで、フレデリック殿下が勝手に破棄したと言い触らしていただけのようだった。たぶんだが書類の確認などしなかったに違いない。思い込みが激しい人だから自分が決めた事が覆っているなんて考えもしなかったのだろう。
そして……やはりフレデリック殿下はあの噂通り男性を愛人にしようとしていたそうだ。その相手については教えてもらえなかったが、どうやらその男性にもフラれてしまったそうである。今はかなり落ち込んでいるようだが同情する気などない。純真無垢なロゼリアを利用しようとするから天罰が下ったのだと思った。
ここからは、さらに驚いた事が……なんとクリス様が実は商人ではなくフレデリック殿下と親戚関係になる他国の王子だったのだ。王妃様に言われて私の真意を見極めにきたと打ち明けられた。あと、顔にこんな傷を負っている自分を見た時の街の人の反応も見たかったのだとか。
「テイレシア嬢以外の令嬢を王子妃にするなんて考えられない。と、王妃様に言われまして。だから、あなたがどんな方なのかを自分の目で確かめたかったのです」
クリス様……いえ、クリストファー様はそう言って私の前に跪いた。
「あなたはオレが考えていた以上に素晴らしい女性です。もしわずかでも可能性があるのなら、どうかオレの側にいてください」
クリストファー様が行商人ではなく王子だった事にはたしかに驚いた。ましてや王家の養子になり未来の国王になる方だなんて。
でも、クリストファー様は一緒にいたこの数日で確かに私の心に安らぎを与えてくれていたのだ。そして乱心した私を我が身を犠牲にして止めてくれたことや、私の気持ちに寄り添ってくれたのが嬉しがったのも事実なのである。
クリストファー様の眼差しは真剣だった。ならば、私もちゃんと答えなければいけない。いけないのに……。
「わ、私は、義妹が1番大切なのです……」
私の口から咄嗟に出たのはそんな言葉だった。
事実、私はロゼリアが1番が大切なのだ。あの子がとにかく可愛くて、幸せかどうかがとても重要で……。
でも、きっとこの答えは間違っている。まがりなりに王族に求婚されたのにこんな返答など不敬だと言われるかもしれない。しかもロゼリアの存在を出してしまった。もしもそのせいでロゼリアを疏まれてしまったら────。
「わかっています。そんなの当然じゃないですか」
クリストファー様はさも当たり前かのように、にこりと優しい微笑みを向けてくれたのだ。
「え……」
「テイレシア様がどれだけ義妹を愛しているかはよくわかっているつもりです」
その微笑みになぜか胸を貫かれた気がした。
「で、でも……私はよく可愛げのない女だと言われていました……」
「シシイーノを一撃で倒したあなたに一目惚れしましたので」
クリストファー様は、しどろもどろと言い訳を探るような私の私の手を取り「ただ、オレのような醜い顔の男に嫁ぐのが嫌ならそうハッキリと言ってくれた方が諦められます」と言った。悲しそうながらも決意した表情になぜかドキリと胸が高鳴る。なぜか、クリストファー様に妙な誤解はされたくないと、思ってしまった。
「クリス様は……クリストファー様は素晴らしい方です。私はあなたのように一緒にいて心安らぐ男性に初めて会いました。顔の傷など、なんの問題もありませんわ!あなたは……素敵です」
こうしてトントン拍子に話は進み、私はクリストファー様のプロポーズを受け入れた。改めてこの国の第1王子の婚約者になってしまったのだ。
その後。フレデリック殿下の平民落ちと、新たにクリストファー様が養子になった件が発表されたが、特に混乱などはなかったようだ。貴族にはわずかに慌てた方々がいたようだが(たぶん、フレデリック殿下にすり寄っていた方々だろうけど)クリストファー様の有能さが発揮されるとだんだんと声を潜めていった。
クリストファー様が国王となると法律などを整え、さらにこの国は国民たちにとって住みやすい国へと発展していった。
1番驚かれた新しい法案は、“同性での結婚を認める”ことである。
そうそう、ロゼリアの遠縁であるアルファン伯爵がなんと男性と大々的に結婚式を挙げたのだが、その時は国中の女性が黄色い声を上げて一部の男性が涙したとか……。
まぁ、ロゼリアは喜んでいたのできっと大丈夫なのだろう。跡継ぎに関しては養子をもらえばいいと法律も整えられている。そのおかげか行き場のない孤児の数がかなり減ったようだ。
ロゼリアがよく「愛とは自由であるべきなのです!」と叫んでいたのを思い出す。あぁ、確かにロゼリアの言う通りだ。やはりあの子は正しい。
あ、ちなみに全然姿を見ないなぁと思っていた国王陛下だが、なんでもフレデリック殿下を甘やかし過ぎた罰として王妃様にお仕置きされていたのだとか。フレデリック殿下の平民落ちを認める書類にサインしないと離婚すると脅したと聞いたが……まぁ、平民落ちを認めなければたぶん処刑されてしまうだろうし……命は大切に、である。なによりどんなに親バカでも王妃様には頭があがらないようだった。
賢者の方々もフレデリック殿下の平民落ちと養子に入ったクリストファー様が新たな王になると聞き、国に戻って来てくれる事になったそうなので、これでこの国も安泰である。
ついでに報告と言ってはなんだが、あの時あとわずかに迫っていた結婚式の予定は王妃様の采配によりクリストファー様の御披露目発表会にすり替えられていた。フレデリック殿下の事件の騒ぎもあり結婚式のはずだった事はみんな忘れてしまったようだ。
数年後、私はクリストファー様と結婚し今ではふたりで支えあって毎日を過ごしている。そして私のお腹には新たな命が宿り、ロゼリアが毎日のようにお腹に語りかけに来てくれるのでとても幸せなのであった。




