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イニーフィネファンタジア-剱聖記-  作者: 高口 爛燦
第五ノ巻
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第四十一話 『天王黒呪』。発動―――呪われし領域『黯黒呪界』

第四十一話 『天王黒呪(てんおうこくじゅ)』。発動―――呪われし領域『黯黒呪界(あんこくじゅかい)


「僕が全てを終わらせるッ」

 なにかの演技かパフォーマンスか?仁王立ちになった魁斗は両腕を仰々しく斜め下に開いた。なぁ、魁斗お前、そんなに大げさに両腕を開いて胸襟(きょうきん)を開くようにさぁ―――『さぁ、こい。始めようか・・・』ってか、お前? そんなことするより、胸襟を開くなら、お前の心の奥底にある『本当の気持ち』を俺に教えてくれよ・・・。

 魁斗の白装束をゆらゆらと漂う黒い靄が・・・

「??」

 あれ?濃くなったぞ、黒さが? 黒さが増したその靄が魁斗の両腕へと集まっていく・・・。

「お、おい魁斗!? お前なにをするつもりだ・・・?」

「『天王黒呪Maledictus Obscuritas』―――」

 てんおうこくじゅ・・・?マレディク・・・なんだそれ?なんだよそれ、その言葉の意味は。

「魁斗・・・???」

 え? マレディク・・・え?えっと、なんだって? 魁斗が言った言葉はなんか長ったらしい単語だった。長くてちゃんと聞き取れねぇよ。

 魁斗は力を籠めた眼差しで、その両腕の先にある自身の開いた左右の手の平を同時にグッと握り締めたんだ。

「ッ」

 ふしゅッ―――、えっ?なんだ・・・!?

「・・・えっ!?」

 あれはなんて言ったらいいんだろう・・・? 黒い煙? 黒い煤粉? 魁斗が左右の開いた手の平をぎゅっと握って握り拳を作った瞬間―――ふしゅっという、まるで気体が漏れ出るような音を立て、真っ黒い煤粉のようなものが、握られた手の平からふしゅっと・・・。

 つまり、魁斗が握り締めた両拳からそんな音とともに真っ黒い煤?溢れ出したんだ。

「―――!!」

 それはまるで黒い炎を思わせるようにゆらゆらと魁斗の手から腕へと拡がる・・・。えっと、すでにちょっと前から魁斗の白装束は黒い靄に覆われているんだけど・・・、握られた左右の拳から新たに現れたその真っ黒くてどす黒い色の煤煙のようなものが、すでに在った黒い靄を上書きするように両手と両腕に拡がったというわけだ。

「―――・・・」

 ほんとにあの、どす黒い色の煤煙っていったいなんなんだろう・・・? あ、そういえば、さっき魁斗のやつ―――『へぇ・・・健太は僕のアニムスが視えるんだね』って言ってたよな・・・? つまりあの煤粉のような真っ黒いのって魁斗のアニムス・・・ということか?

 アイナとアターシャはあんなに黒いものが見えていないなんてほんとか?あんなに黒が濃くて禍々(まがまが)しい煤煙のようなものなのに―――?

「アイナ様っ、なにか、あのカイトという者から嫌な気配を感じます!! さ、早く帰館しましょうっ!!」

「!?」

 あれ?珍しくアターシャってば、必死になっている?

「えぇ、アターシャっ私もなにか嫌な感じがします・・・!!」

 あれ?アイナもそれは感じてるのか。

「さ、早く・・・アイナ様っ」

「え、えぇ。では、帰りましょう―――」

 でも、まぁ、俺は二人の『早く帰ろう』というのも解る。あの魁斗の黒いものが視えるぶん、そのなんて言うのかな・・・、やっぱ俺も嫌な感じがするからさ。


「僕から逃げられると思うのかい?アイナ=イニーフィナ―――」

 そんなこと言ったって魁斗お前、離れてとこに立っているし、なにもできねぇだろ、お前。―――じゃあな、魁斗・・・。

「―――」

 あばよ。もうお前と会うことは―――・・・たぶん、ないだろうと思うけどよ・・・。俺は最後の一瞥を魁斗に向ける。すぅ・・・―――魁斗は静かにすぅっと右腕を上げ―――、握り締めた右腕の右拳を縦の向きで俺達に水平に向けたんだ。その様子は握り拳で握ったなにかを地面に落とす仕草と同じだ。

「え―――?」

 なんだよ、あれ・・・。魁斗の右拳でゆらめく黒い靄に覆われていることはいいんだ。もうさっきから俺は見ている。だから、そのことじゃないだ。

「健太よく見ててね。きみの心は必ず変わるから・・・(にぃ)」

「っつ」

 っつ、俺の心が変わるだと?気色悪い笑みを零しやがって魁斗の奴。あのときのあいつ魁斗は本当に気色悪く、気味が悪かった。あいつ魁斗は自身の口角を吊り上げてにぃっと笑ったんだよ。

「ッな、なんだよ、それ・・・魁斗―――!!」

 握り拳から墨!? 魁斗の握られた右拳の指と指の間からまるで墨汁のような―――あれが手の平から出血している赤い血ならまだ解るよ。でも、なんなんだあの墨汁のような黒い水のようなものは・・・? ううん、墨汁よりも、もっと黒ぐろとした液体で―――きっと墨汁なんかよりも黒が濃くて禍々しい・・・。まるですべての光を吸い取る(やみ)色の液体だ―――。そんな(くろ)が魁斗の握られた右拳からじわりと漏れ出たかと思うと―――

 ゾクっ・・・―――

「ッ」

 なんだ、この嫌な感覚は―――。ぶるっとするような悪寒や寒気でもなく、気色悪い生暖かいような体感でもなく―――なんと言えばいいんだろうな。・・・たぶん、怖気というか・・・―――、病的な寒さというか―――。魁斗の握り拳から漏れ出た、この墨汁よりも漆黒の黯色の液体をこの眼で見ているだけで、ぞわぞわじりじりぞくぞくと心の底から不安を掻き立てられたんだ、俺は。

「くっ・・・―――ッ」


 流れる黒、流れる黯、流れる冥晦(めいかい)―――。

 そわそわ、ざわざわ、ぞくぞく―――。

 焦慮(しょうりょ)。不安。怖気(おじけ)―――。

 鼓動が早くなる。気味が悪い。鳥肌が立つ。


 魁斗の右拳から黯い液体のようなアニムスがじわりっ。

「『天王黒呪』―――」

 魁斗がぽつり―――と、でも力強い声色で。次の瞬間―――水滴みたい・・・? 魁斗のぐっと握られた右拳から漏れ出る黒い水のようなアニムスは、じわりとまるで上から落とす水滴のように。もちろんふつうの水滴に比べたら何倍もの大きさの黒い、真っ黒い漆黒の水滴だ。


「っつ・・・!!」

 っ!! く、黒い―――なんだよ、あれっ・・・!! 魁斗の手から―――こぼれて・・・。


「『天王黒呪』―――・・・『黯黒呪界(あんこくじゅかい)―――」

 闇黒じゅかい? 長い技名のような俺には意味の解らないなにかの言葉を? そんななにか技名か詠唱のような言葉を魁斗は呟いたんだ。

 ぎゅッ―――、じわりっ・・・ポタっ―――ポタタっ・・・。

 魁斗の握り締められた右拳から―――まるで水をたっぷりと吸った手袋を手に着けたまま、それを握り締めたかのように―――黒い漆黒の墨汁のような水滴がポタっポタタっと何滴か、数滴地面に落ちて黒く染め拡がり―――

「なっ!!」

 なっ!!な、なんだあれっ!? 地面に落ちた魁斗の黯色の液は地面に落ちた瞬間に黒く明滅し、六角形や三角形とかの多角形の変な紋章を、落ちたところに浮かび上がらせた。でも、その変な魔法陣みたいな紋章はすぐに消えたんだけど・・・、地面の黒色の水溜りはそのままで―――

「ッ!!」

 な、なんだよ、これ―――この漆黒の墨汁みたいな・・・やつ。じ、地面に落ちて、そこを黒ぐろと染め――― 

 ―――じわじわ・・・じくじく―――その漆黒を見ているだけで・・・眼が疼くように痛い。

「うっ・・・」

 その漆黒を見てるだけでなんか・・・うっ・・・眼も変だし―――、この黒ぐろとした墨汁のようなものを見てると、焦りと不安も駆り立てられるようでっ心臓がドクンッドクンッと早鐘を打つ。やばいっ、やばいってっ!!これは絶対やばいやつだッ!!

「ッ!!」

「僕の師匠ラルグス義兄さんはね―――」

 魁斗―――

「っつ」

 魁斗・・・お前いったい―――。ほんとにお前は俺が知る『魁斗』か?子どもの頃のお前かよ・・・?

「―――僕の初覚醒のときにルメリア出身のラルグス義兄さんは僕の異能を看てくれてさ。僕のこの異能にルメリアの言葉で『黒呪』Maledictus Obscuritasマレディクトゥス=オプスクリータスっていう名前をつけてくれたんだ。―――つまり黒き呪い『黒呪(こくじゅ)』ってね、健太―――」


「黒き呪いっ『黒呪』ッ!?」

 黒き呪いってとても嫌な響きだっ。またニヤ、って気色悪い笑みを、魁斗―――。それに、それにお前―――あのとき焚火を囲っていたとき歯切れ悪く自分は無能力者だと言ってたじゃねぇかよ―――

 と、とにかくやばいっ!! 早くアイナの空間転移でこの場を離れたほうがいいって!! 

「アイナっ早く―――」

 ―――この場から離れようっ!! そう思って俺がアイナに意識を移したときだったんだ。

「ケ、ンタ・・・わた、私―――」

 え、アイナ・・・?

「ケ、ケンタ様・・・」

 アターシャも・・・?

「っつ!!」

 おかしい。明らかにアイナとアターシャの様子がおかしいってッこれ!! 二人とも身体をぷるぷると震わせて!! とくにアターシャなんかアイナの右肩に手を乗せたまま身体を震わせているなんて絶対に様子がおかしいって!!

 俺はアイナの左肩に乗せていた自分の手を除けてそのままアイナの前に回り込んだ。

「お、おいっアイナっどうしたんだよ!!」

 俺は両手をアイナの肩のすぐ下、上腕に置いた。軽くアイナの身体をゆすり。

「だっ大丈夫かっアイナ!? どこか具合でも悪いのかっ!?」

「さ、寒いです、ケンタ。まるで身体の芯から凍える・・・ように―――」

 寒い?

「え?寒い!?」

 別に俺はこれといって寒くもないし、なんともない。それにアイナの肩に触れる俺の手の平から感じるアイナの体温も別に普通の体温だ。アイナの体温も低くもないし、身体も冷たくないよ。

「ケ、ケンタ様―――」

「お、おいアターシャもかっ!?」

 ん?

「??」

 そこで俺は二人の様子で他にも変わったところを見つけたんだ。―――なんで、二人はこんなにもつらい表情で、その拙い言葉で自らの不調を訴えられているのに、ピクリとも動いていないんだ―――・・・?

「―――う、動けません。身体がぴくりとも動かないのです、ケンタ様―――」

「な、なんだってっ!?」

 それって金縛りってやつか!?

「うっ・・・ぞ、ぞくぞくして。さ、寒くて・・・」

 アイナの悲痛な顔―――、俺がなんとかするしかない―――!! 寒がる相手にすることは一つしかないっ!!

「っアイナッ!!」

 俺はアイナを手繰り寄せるようにかき抱き―――

「・・・ケ、ケン、タっ・・・」

 俺が両腕でアイナをかき抱いた所為でアイナの脚ががくんとなったんだ。それはアイナ自身の力じゃなくて、ただ物を押したり引いたりして動かしたときのような感覚に似ている・・・。

 ぎゅっ。

「アイナ・・・!!」

 俺はぶるぶると身体を震わすアイナをぎゅっと抱き締め―――寒がる相手をできるだけ温かくしてあげられるように腕を背中に回し、手の平は後頭部でぎゅっと―――抱き締めた。

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