第四十話 発動『天王黒呪』―――魁る者は黒き漆黒の衣を纏いて―――
第四十話 発動『天王黒呪』―――魁る者は黒き漆黒の衣を纏いて―――
「仕方ないか、クロノス義兄さん・・・」
「ふむ。魁斗お前が納得してくれたようでなによりだ」
「納得・・・? ううん、僕はやっぱり健太と戦うのは嫌だよ、クロノス義兄さん・・・!! この異世界で奇跡的に出会えることのできた僕の友達だよ、健太はッ」
「ッ!!」
魁斗の奴、まだ俺のことを諦めていなかったのかよッ。怖い。正直言ってちょっと魁斗の執念が怖いよ、俺は・・・!!
魁斗はゆらりと俺のほうへと身体を向けた。そのゆらりだらりとして力の入っていない身体に対して魁斗の顔、特に目にはギンっという擬音で表したような意志が籠っていた。それがまた、俺を震えさせたんだ。言っておくが、感動で心が打ち震えた、ほうの震えさせられたんじゃなくて、魁斗の執念という怖さのほうで震えたんだ。
「よせ、魁斗―――、『導師』は望んではいない」
クロノスだってそう言っているのに。
「クロノス義兄さん・・・忘れたのかい?僕は次期『導師』だよ・・・!!」
「冷静なれ、魁斗。小剱 健太にこれ以上手を出すということは、アイナ=イニーフィナをも巻き込み、彼女の一族まで―――延いてはイニーフィネ皇国を敵に回すということだ」
「それがどうしたのさっクロノス義兄さん!! アイナ=イニーフィナはもうチェスター義兄さんを狙ってるんだよ!?」
「アイナ=イニーフィナが本腰を入れているのはチェスター=イニーフィネだけだ。よく聞け、魁斗。五世界の平和と共存を目指すという『理想』を掲げ、『五つの異世界の権衡者』を自認する我ら『イデアル』が小剱 健太やアイナ=イニーフィナに危害を加え、イニーフィネ一族を敵に回せば、五世界全土でイニーフィネ一族を皇族として崇敬する全ての民を敵に回すことになるのだ。きっとアイナ=イニーフィナはイニーフィネ皇国の皇帝と皇族、そして『愛すべき領民達』の支持を取り付けるだろう。我ら『イデアル』は民の支持によって成り立っているところもある。そんな我らが民からの一定の支持を失えば―――滅びるのは自明の理。魁斗ここは気持ちを堪え、撤退するぞ!!」
んっ? イニーフィネ一族?皇族!?ひょっとしてアイナは?
「??」
クロノスは本当に必死の表情で魁斗を説得していた。その中で出てきたアイナがイニーフィネの『皇族』であるということをにおわせる言葉―――俺はそれが気になったんだ。
そんなクロノスの必死の説得にも魁斗はすでに心此処に有らずな様子で、クロノスのそれを聞き流していた。
「ケンタ―――」
アイナ?なんだろ? とても、なにかを言いたそうな顔だけど・・・。
「アイナ?」
俺はアイナの背後から彼女の左肩に右手を置いたまま、俺を振り返ったアイナと視線が合った。やっぱアイナの眼の色って藍玉のような色をして綺麗だよな・・・。
「帰って一息入れたら、私の話を聞いてくれませんか? ケンタ貴方にとってはつまらない話かもしれませんが・・・ケンタに私のことを知ってほしいのです」
『つまらない』?ううん、きっとそんなことないよ、アイナの身の上話は。俺はううん、と小さく首を左右に振った。
「うん、俺にいろいろ教えてくれ、アイナ。その代わり俺の話も、アイナきみに話したいよ」
「ケンタ―――、アターシャも。では、参りましょうか、私の自宮へ―――」
「どこに行くのさ、アイナ=イニーフィナ」
はぁ、思わず溜息。またお前か、魁斗・・・。もういいかげんやめてくれよ、俺やアイナに付きまとうのは、さ。
「―――」
アイナもきっと顔には出していないけど、きっとうんざりしているに違いないってば・・・。アイナは『うんざり』といったものを表情には出してはいなかったけど、でも俺が思うにたぶんアイナもそう思っていたと思う。アイナは魁斗には何も答えず、魁斗を一瞥しただけだった。
「クロノスの説得で帰るんじゃなかったのかよ、魁斗―――・・・」
そんな屈託のない笑顔を俺に向けるんじゃねぇよ・・・!!
「待っててね、健太。そこのアイナ=イニーフィナに縛られたきみをすぐに解放してあげるからね」
思い込みとか、勘違いとかいうレベルのものじゃないぞ、魁斗のやつ―――!! 俺のことを縛られたとか、解放するとか、なんかやばいって!!やばいことをまた言い出したよ? 俺は自分の意志でアイナを好きになったのっ!!
「だから俺はなにも誰にも縛られてないっての!! アイナが好きだから俺は彼女と一緒にいるんだよっ!! アイナは恋人っ。いい加減解ってくれよっ魁斗っ!!」
「ケ、ケンタ・・・っ///」
アイナさん頬真っ紅。かわいすっ・・・照れちゃうぜ、俺っ///
「ケンタ・・・そ、そのわた、私もっ貴方のこと・・・(ごにょごにょ)///」
「そ、その、うん、アイナ・・・。だから早く帰ろ?」
「は、はい・・・」
「かわいそうな、健太。そんな健太を見てると、僕はますます―――」
なんだ、あれ・・・?
「え―――・・・?」
こっちを向いた、ううん、魁斗の奴は身体を真正面に、俺達に向けたときだった。この場をアイナの空間転移で去ろうとしていた俺達三人俺とアイナ、アターシャに、魁斗が一歩踏み出したときに俺は魁斗に纏わりつくような黒い靄のような、黒い霧や霞、煙と言ってもいいのかもしれない。
俺は両眼を閉じたり、開いたりしぱしぱ―――ううん、やっぱり俺の見間違いじゃない!! やっぱり魁斗の身体に纏わりつくように黒い靄が―――漂っている・・・。
「な、なんだよ、それ・・・」
そんな黒いものが―――ゆらゆらと湯気か空気中に置いたドライアイスのようにゆらゆらと―――。あいつ魁斗は白装束だからその黒い靄のようなものが、余計に目立っているんだ。
「・・・ケンタ? あの? どうかしましたか?そのように驚いて?」
なんで?アイナ―――?
「え?」
今度の俺はアイナにも驚いた。まさか、魁斗の黒い靄はアイナには見えていない? そうだ、アターシャは?
「なぁ、アターシャきみはどう思う?今の魁斗のあの様子?」
「ケンタ様? ・・・そうですね、大変危なげな状態であると私は思います」
そうだけど、いや、あの魁斗の精神状態の話じゃなくて―――。
「あれ、アイナも見えるだろ? ほら、あの魁斗の身体に纏わりつくような黒い靄のようなもの? あれなんだと思う?」
アイナはもう一回魁斗を見て
「黒い靄ですか?ん?ケンタ?」
と静かに言った。
「ケンタ様・・・、私にも別段そのような黒い靄のようなものは見えませんが・・・?」
え?アイナもアターシャも見えないだって? ほら、あんなにもはっきりと魁斗の白装束の上をゆらゆらとしているのに?それが見えないって・・・―――、
「え? 見えない?」
「へぇ・・・健太は僕のアニムスが視えるんだね。僕のアニムスを視える人がいたなんて初めてだよ、健太。僕はますます健太きみのことが欲しくなったよ」
魁斗は口角を吊り上げた不敵な笑みを零した。そんな顔で俺を見つめるものだから、俺は。
「いやいや何言ってんだ、魁斗!?」
「ふふんっ」
「・・・」
こわい笑みで笑わないでくれ、魁斗。ほっ。でも魁斗はすぐにそんなこわい笑みをやめてくれた。
「僕が全てを終わらせるッ」
なにかの演技かパフォーマンスか?仁王立ちになった魁斗は両腕を仰々しく斜め下に開いた。なぁ、魁斗お前、そんなに大げさに両腕を開いて胸襟を開くようにさぁ―――『さぁ、こい。始めようか・・・』ってか、お前? そんなことするより、胸襟を開くなら、お前の心の奥底にある『本当の気持ち』を俺に教えてくれよ・・・。
魁斗の白装束をゆらゆらと漂う黒い靄が・・・
「??」
あれ?濃くなったぞ、黒さが? 黒さが増したその靄が魁斗の両腕へと集まっていく・・・。
「お、おい魁斗!? お前なにをするつもりだ・・・?」
「『天王黒呪マレディクトゥス=オプスクリータスMaledictus Obscuritas』―――」
てんおうこくじゅ・・・?マレディク・・・なんだそれ?なんだよそれ、その言葉はさ。
「魁斗・・・???」
///
とにかくそのときアターシャが慌てた必死の形相をしていたのを強く覚えているんだ、俺は。でも、対するアイナは『なんでそんなに必死になって?』みたいなきょとんとした表情だったんだ。そして―――、
魁斗に対してなんの忠告しなくなって固まったクロノス―――。異様な黒い氣を纏う魁斗―――。静観するグランディフェル―――。
俺は、あのときの俺は、あんなことになるなんて全くこれっぽっちも想像だにしていなかったんだよ―――。
『イニーフィネファンタジア「-剱聖記-第四ノ巻」』―――完。




