第三十九話 騎士の生きる道
第三十九話 騎士の生きる道
思いの丈を絞り切り、グランディフェルは俺があげた雑巾替わりのハンカチを、手甲の手で綺麗に折り畳むと、それを持った右手を銀の甲冑の裾?から中に手を入れた。
「感銘を受けましたよ、ケンタ。貴方の、敵であるグランディフェルを思い遣るそのふところの大きな気持ちを私はまるで自分のことのように誇りに思いますよっ・・・☆彡」
あぁっアイナまでっそんなに感銘を受けたような感じになってるっー(あせあせっ)。
「・・・あ、うん。ありがとう、アイナ」
それ、雑巾替わりに木刀を拭くハンカチなんだ、って俺もうぜってぇ言えねぇ!!
すっく・・・
「「!!」」
グランディフェルがすっくと立ち上がったんだ、その片膝を地面についていた体勢からさ。だから、俺もアイナもグランディフェルのその動きを見た。
やっぱ、あんた―――。やっぱり―――
「アイナ様のその御慈悲、ケンタ様のその御優しさにこのグランディフェル言葉では言い表せないほどの感銘を受けたしだいでありまする。しかし、俺はチェスター殿下第一の騎士でございます。己の生命を賭してチェスター殿下に仕える身。大いなる施しを受けようともアイナ様、ケンタ様に仕えることができない、ということが・・・俺への罰だと思っております」
だと、そう言うと思ったよ、俺は。
「グランディフェルあんた・・・あんたの生き方はほんとに―――」
「解っておりまする、ケンタ様みなまで言いなされますな・・・」
不器用だよな・・・ほんとにあんたの生き方は。ほんとは部下も家族も娘も棄てたくなくてって、『主』と『周り』を天秤に掛けたくなかったんだろうな・・・。
チェスター・・・か。アイナの親父さんとお兄さんを殺し、このグランディフェルとその周りの人々の人生をも狂わせた―――。ぎゅっ、俺は拳を握り締めた。
「―――・・・っつ」
チェスター・・・―――俺はお前を―――、俺の『彼女』アイナを苦しめ、仇討という鎖で彼女の心を縛りつけるお前を、俺は必ず見つけてチェスターお前を倒す―――!!
「貴方の答えは解りました、グランディフェル。サーニャは私がこれからも護っていきますから―――」
アイナ・・・。
「―――どこへなりとも、貴方が望むところへお行きなさい、炎騎士グランディフェル」
「アイナ様っお気遣いありがとうございますっ」
「っつ、貴方のための気遣いなどでなくっサーニャのためです」
あれ? アイナってばちょっと照れてる?
「ケンタ様もお達者で。アイナ様、ではこのグランディフェル、これにて失礼致します」
それ、右手を鎧の胸に沿えて、頭も下げてさぁ―――それ敵に向かってするような仕草じゃないってば。
「あぁ、グランディフェルあんたも達者でな」
かくいう俺も、そうかもな。普通だったら敵にこんなことなんて言わないさ。
「―――」
アイナはなにも言わないみたい。でも、その唇を食んだ表情がなんとも、な。
「クロノスよ、待たせてすまぬな」
「終わったのなら行くぞ、グランディフェル、魁斗」
ふぅこれでやっとこいつらとも・・・とくに魁斗とはおさらばだ。もう、これで魁斗とは会うこともないだろうな。でも、今の『アイナを殺そう』なんて言った魁斗にはなんか『じゃあな、魁斗』とか、『また会おうな』・・・は違うな、うん、全然違う。・・・『じゃあな、魁斗』なんて声をかけたくないし。
「・・・」
クロノスは自分のジャケットのような羽織る上着の中に手を入れたよ? 内ポケットからなにか?
「??」
なんだろ?あれ。クロノスが右手の指で摘んでいる、あの玉。大きさはどれくらい?ビー玉より大きくてゴルフボールより少し小さいかな?
「・・・?」
変な色だな。うん、青とか白とか緑とか、ぱっと見で判るような色じゃないんだよ。なんか、そのなんて言うのかな、光を反射していろんな色に見えるようなものってあるよな。たとえば、タマムシの翅とか、プリズム色とか、虹の色とか、そんな感じに見えるんだ。そんな色の玉だ。
「待ってよ、クロノス義兄さん。僕は全然納得してないんだけどっ・・・!!」
「!!」
っつ、お、おい、やめろ魁斗ッ。お前もさっさと帰るって言ってくれ!! 俺達のために言ってくれよ、魁斗―――!!
「クロノス義兄さんやグラン義兄さんは納得してるみたいだけど、僕は全然納得できていない。ううん、していないんだッ。なんでもう帰るの? まだ健太を僕達の『イデアル』にしていないよ!?」
はぁッ!?
「!!」
げっいきなりなにを言い出すんだよ、魁斗。俺はもう『イデアル』には入らないってい言ったじゃねぇか。こいつ人の話を聞いていないのかよ。
「だから、魁斗俺は―――」
「だよねっ、健太。健太は僕達の家族になってくれるんだよね、健太ぁ」
まだ、そんなことを―――
「ッ」
そ、それになんなんだよ、このにぱぁっとしたこわい笑みは。そんなこわい笑みを浮かべやがって、魁斗のやつ。
「やめておけ、魁斗。俺達は小剱 健太を仲間に加えるという機を逸したのだ」
「!!」
よっしゃ、会話に割って入ってくれてナイスっクロノス!!
「な、なに言ってんのさ、クロノス義兄さん!!」
こわい笑みじゃなくなった。だけど、油断なんてできないな。もちろん魁斗のことだ。
「魁斗、先に言ったはずだぞ。『魁斗。小剱 健太は俺達の同志ではないことが解った』、と。そのときすでに俺達と小剱 健太の征く道が別たれていたのだ」
「クロノス義兄さん・・・そんな悲しいこと言わないでよ・・・!!」
ふぅ、魁斗の矛先が俺からクロノスに移ってよかったぜ。
「俺達『イデアル』とアイナ=イニーフィナのこの一団は、明確な敵対関係となったのだ、魁斗よ。この先、チェスターを追い続けるかれらと俺達『イデアル』は衝突を繰り返すだろう。我々『イデアル』は小剱 健太と戦うということを覚悟しておけ、魁斗」
「そ、そんなの僕は―――」
ビクッ!! すすっ、と。俺の背後に誰かの気配を感じた。反射的に俺は振り向く。
「!!」
うおっ、アターシャかよ。びっくりさせるなよ・・・。ほんとびっくりしたぜ(あせあせ)っ!!
「アターシャ支度を」
アイナはそのアターシャの静かな気配を感じ取ってたみたいだけど。俺は魁斗とクロノスに意識がいってたしな。
「はい、アイナ様。さ、ケンタ様も今のうちに・・・」
すすっと音もなくアターシャが近寄ってきて小声で俺達にだけ聞こえるように囁いたというわけ。
「?」
どういうこと?アイナ、アターシャ。
「えっと―――」
「ケンタ様―――」
しぃっと自分の口元に人差し指をアターシャ。
「失礼をアイナ様」
ほんとに小声。確かに魁斗に聞かれたくはないかな、俺も。
すぅ。そんな動きでアターシャはゆっくりとアイナの右肩に手を置いた。このアターシャがアイナに手を出すのって・・・そっかあのときと同じだ。あの街で一旦俺を置いて帰るときにアターシャはアイナに向かって手を出した。そのときはお互いの手と手とだったけど、動きやアターシャの表情は今とほとんどおんなじだわ。
「!!」
あ~そういうことか。だったら早くアイナの能力の『空間転移』で逃げよう。ってか、早く魁斗から離れたい、こいつほんとにしつこくて。
「っつ・・・」
まぁ、でも初めてのアイナの『空間転移』を俺も体験できるんだなぁっ。そう思うと、それは、図らずも魁斗のおかげになるのかな・・・。ほんと微妙な気分だけど・・・な。
わくわく、でもどんな感じなんだろう?空間転移って? どんな感覚がするんだろうっ!!はらはら。視界はどう見えるんだ?黒?白?それとも景色の早送りみたいに見えるのかな?どきどきっ。
「こ、こんなこと初めての体験でさ・・・。こう?こんな感じかな?アイナ」
アイナの上着にそっと。俺はその外套の左肩にそっと右手を伸ばし―――、だってアイナの右肩にはアターシャの手が乗っているもんな。
そおっと・・・。
「い、いくよアイナ? いい?(どきどき)」
「はい。手の平を私の左肩に置くような感じでかまいませんよ、ケンタ」
「く、空間の中で振り落とされたりしないよな、アイナ?」
ほら、よくあるだろ?空想物のアニメや映画で変な空間を通り、時空を超えて過去や異世界にいくとき。そんな感じだよ。そこでタイムマシンのような乗物から落ちて、亜空間から帰ってこられなくなるやつ・・・。
「はい。大丈夫ですよ、ケンタ。この空間転移の異能は、行使すると、私と私に触れるものだけが異能の効果を受け、その一種の・・・『行使領域』を持つ異能に近しいものがあるのです」
「??」
異能の効果?領域? いまいち俺にはまだ理解できてないって。だってまだ、そのこの五世界の『異能』なんて見てないし、体験もしていないもん。
・・・。体験したのは、あの『屍術』っていう、生きた人を殺したあと、ゾンビにして操るあの胸糞が悪い『屍術』っていう魔法だけ。
「―――」
「ですから、結論だけ言うと、私と私の同伴者がばらばらになって逸れるようなことはありません」
「ほっ」
ほっ。安心した。途中でわけのわからない空間ではぐれるようなことはないんだな。
「仕方ないか、クロノス義兄さん・・・」