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第12章

 ドルトムント王が東の国のアーメンガード王に親書をしたためてのち、意外にもその四日後には返事が来ていました。と言いますのも、アーメンガード王は北の国の王の親書を読むなり、ケツァルコルテスに口頭でこう伝えていたからなのです。


「『他の三王が救世主メシアと認めた者に、ワシも興味がある……南や西、北の国ではゾンビたちが生ける人として続々復活している――ということは、ワシも聞き及んで知っておる。が、ワシ自らが東の国を出て他の国へ出かけていくわけにもいかぬゆえ、仮にもしメシアさまが我が東の国へ御来訪くださる際には、事前に知らせたし』……とのことでございました、王よ」


「ふうむ。アーメンガードの奴も、ガイコツにはなったが、どうやら馬鹿ではなかったらしいな。おい、ユーイチ。東の国の王も、そなたのことを迎える用意があるようだ。いつごろであれば出立できる?」


「そう、ですね……」


 悠一くんは、使節団が前日の夜遅くに戻ったということで、朝の奏上の儀に呼びだしを受けていました。ドルトムント王からアーメンガード王へ親書を出したということは聞いていましたが、まさかこんなに早く返事が来るとは思ってもみなかったのです。


「おそらく、そのようにお返事をいただいたからには、なるべく早いほうが、相手にも失礼に当たらなくていいんでしょうね。病院のほうはもう僕がいなくても、ゾンビたちがお互いに助けあってやっていけると思うので問題ありませんし……」


 南の国を出た時、ちょうどそうであったように、悠一くんは北の国を出る時も、特に何も言わずに出ていくのが一番いいだろうと思っていました。ただ、ひとつだけ、ドルトムント王には頼みたいことがあったのですが。


「王さま、北の国のゾンビたちは失った手足や臓器などを新しく得ましたが、脳以外の体のすべてを取り替えるということはまだ行なっていません。このことが王のお気に召すものかどうか、明日、ご覧になっていただけないでしょうか」


 悠一くんはそのうち、ゾンビたちのほうでこの可能性に気づき、自分たちでそのように試すようになるかもしれない……と思っていましたが、彼らは決して命令されたこと以上に分を越すということがありませんでした。そして、この翌日、ドルトムント王は悠一くんが何を言いたかったのかを悟ると、実に驚嘆しておられたのでした。


 この時、実験体になったのはシャツブラウスでした。彼は、友だちのスカートやズボンやカフスボタン、それにティーシャツやタンパンらと、毎日病院で楽しく働いていたのですが(今では彼がゾンディア病院におけるリーダーになっています)、すべての手術がすんで目を覚ました時――まったく仰天してしまいました。


 現代風にいうなら、ちょうどインターネットのサイトでアバターを選択する時のように、髪型や髪の色、目の色や形など、事細かく選択して、全身をバイオプリントすることが出来るのですが、正直なところをいって最初、シャツブラウスは悠一くんが何を言っているのか、完全には理解していなかったようです。ただ、メシアである悠一くんに対する全幅の信頼から、彼の言うとおりにしたというそれだけで――左腕だけでなく、今では右腕も、両足も、その他頭部を含め五体のすべてが生きた人とまるで変わらないのを見て、なんだか自分が自分ではなくなってしまったようにさえ感じたものでした。


 そして、王はこのゾンビの復活劇をご覧になり、実際のところ本当にお喜びになられたのです。この北の国を開国して以来、これほど大きく心を揺さぶられ、感動したことは、ドルトムント王には絶えてなかったことだといって良かったでしょう。


 その後、シャツブラウスの友だちのティーシャツもタンパンもタンクトップも、ズボンもベルトもスカートもベルボトムもサロペットも……みんなみんな、彼と同じように生ける人として復活するということが出来ました。そして悠一くんはこののち、ゾンビ同士でこれらのことが行なえるように教え、それから食べ物のことや教育を受けるための学校のことなど、基本的な礎を築いてから――東の国へ出かけて行くということにしたのです。


 悠一くんとしても、すぐにも東の国へ向かうのが礼儀に敵ったこととわかっておりましたので、ドルトムント王に再び手紙を書いてもらうということにしました。そして、アーメンガード王からはその際もすぐに返書がありました。『今まで何百年もメシアの到来を待ち詫びてきたのだ。今さら少しくらい遅れようと気にはせん。それよりも、メシアさまにくれぐれもアーメンガードをよろしくとお伝えしてくれ』という、急使への口頭によるお返事でした。


 そのアーメンガード王の言葉に甘えたというわけではないのですが、悠一くんはその後、三か月ほどのちにようやく東の国を訪れるということになりました。彼について来たのはゾンビ忍者のアカネとカゲマル、それにコジローでした。そして、ドルトムント王は悠一くんを東の国へと送りだす時……天使ヨハネからもらったという<天使のブルーパウダー>を悠一くんに渡してくれていたのでした。


「アーメンガードの奴がユーイチのことをメシアと認めたとすれば、もう一度北の国までやって来るのは手間だろう。ユーイチ、もしメシアがあの雲の上の城へ行ったとすれば、そこに何があるのか、何が起きるのかはわからない。それでももし――また北の国へおまえがやって来ることがあれば、いつでも私は……いや、私と北の全ゾンビ民はユーイチのことを歓迎しよう。是非また必ず来てくれ。そして、あの雲の上の城に何があってどんな話を天使としたのかを、私にも教えて欲しいのだ」


「はい……もし、そのような奇跡を経験したとしたら、必ず王にお話するために戻ってきます」


 他のゾンビたちには何も言わずに悠一くんは北の国を出てきたのですが、それでもドルトムント王と一部の側近だけが、王城の外にまで悠一くんのことを見送りに来てくれていました。これから、北の国でも西の国でも南の国でも、ゾンビたちはどんどん生ける人となっていくでしょう。そして、この世界にゾンビがほとんど姿を消した時、何がどう大きく変わっていくのかはわかりません。けれど、ドルトムント王はゾンビたちが新しく命を得るのを見るたび……久しく感じたことのなかった感情に心を揺り動かされていました。もしこれを誰かが正しくないとか、間違っていると言ったとしても、ドルトムント王自身は絶対にそんなことはないと確信していたほどでした。ですから、悠一くんが「このことが正しいのかどうか僕にはわからない」と言ったりするたびに、ドルトムント王はそう太鼓判を押していました。「こんなに素晴らしいことが正しくない、間違ったことであるはずなどあるものか」と……。


 今では、王城の高官たちもみな、一人新しくゾンビが命を得て生まれ変わるたび、人口登録をするのが楽しみで仕方ありません。その前までは、手や足を治療したゾンビたちのカルテ作成に彼らは血道を上げていたのですが、今では北の国に生きた人の人口がひとり増え、ゾンビの戸籍を抹消するたび、彼らの間では歓呼の声が上がるほどでした。


 こうした事柄というのは、悠一くんにとってゾンビにしか理解できない価値観でしたので、ただ悠一くんとしては彼らが喜びに満ちているのを見て、「自分のしたことはきっといいことだったんだろうな」と理解するのみだったと言えます。


 悠一くんがゾンビ忍者であるコジローやアカネやカゲマルとともに東の国へ向かいますと、東の国の西門前には、アーメンガード王率いる骸骨軍団が勢揃いしていました。彼らはゾンビの腐敗が進んでさらに白骨化しても動きまわっている者たちで、東の国の中でもそう数は多くありません。その中の、三十名ほどの者がアーメンガード王のあとに従い、メシアである悠一くんのことを、そのやって来る三日前からずっと、そこで待ち続けていたのでした。


 正直、東の国の西門に辿り着いた時、悠一くんは長旅で衣服も汚れていましたし、こう言ってはなんですが、コジローもアカネもカゲマルもゾンビなため、およそ清潔でなく、また取り立てて威厳があるようにも見えなかったと言っていいでしょう。それでもアーメンガード王は、悠一くんがゾンビ忍者を率いて現われると、その御前にひれ伏して彼のことを救世主メシアとして迎えたのでした。


「お待ち申し上げておりました、メシアさま。どうぞ、我が東の国のメシアさまの神殿までおいでください」


「えっと……」


 自分がまだ何者とも名乗らぬうちから、その場にいた骸骨たちが全員、その場にひれ伏しており、悠一くんとしては戸惑うばかりだったと言えます。


「ささ、どうぞ御遠慮なさらず。門の内側から神殿までは、絨毯を敷いておきました。また、乗り物としてロバも用意しておきましたゆえ……」


 悠一くんは骸骨がしゃべっていることの不思議さから、とにかくアーメンガード王のどこを見たらいいかがわからなかったものです。他のアーメンガード王の臣下たちは、胸当てやマントをつけた正装に、腰のところに剣を下げているといった姿なのですが、王はその中でもより一層きらびやかで威厳に満ちた武具をつけ、そして頭には宝石を散りばめた王冠を被っていました。


「何故、馬ではなくロバかと言いますと……まあ、わたしの知る聖なる書物にそのようにメシアさまに関して記述があるからでして」


 すると、何故かアーメンガード王の臣下たちが、みな声を揃え、滝にも似た大声でこう唱えていました。


『見よ。あなたの王があなたのところに来られる。

 この方は正しい方で、救いを賜わり、柔和で、ろばに乗られる。

 それも、雌ろばの子のろばに』


(ゼカリヤ書、第9章9節)



 悠一くんが門の内側にまで入ると、そこにはつぶらな瞳の、可愛らしいロバがいました。悠一くんはこちらの世界へやって来てから馬も乗りこなせるようになっていたのですが、この可愛らしい子ロバに乗ってみますと、座高的にも自分にぴったりで、なんとも乗りやすかったものです。


「どうもありがとう、アーメンガード王。とても乗り心地がいいよ」


「いえ、どういたしまして、我が王よ。最初は神殿のほうへ早速御案内をと思っておりましたが、何分長旅でお疲れのことでございましょう。しもべの王宮のほうでお休みになってから、明日また神殿へ向かったほうがおよろしいのでは?」


「いや、構わないよ。早速、アーメンガード王が日々敬虔に祈っていると聞く、神殿のほうへ行ってみたいと思う」


「さようでございましたか。では……」


 それはなんとも奇妙な行進であったかもしれません。ロバに乗った悠一くんの後ろには、ゾンビ忍者三人が付き従い、その後ろにはさらにアーメンガード王、さらに彼の臣下である骸骨騎士たちがザッザッサッと、左右の足も規則正しく行進しながらついてきていたのですから。


 やがて、左右が砂に囲まれた土の道を進んでゆきますと、とても不思議な光景が見えてきました。東の国の建物はすべて、西や南の国で見たような砂岩というよりも、砂そのもので出来ているように見えました。どういった技術によるものなのかはわかりませんが、それらはどのような嵐がきても倒れたり、消えたりすることは決してないと言います。


 唯一そんな中で左手側に見えてきたエメラルド色の屋根がついた荘厳な宮殿、そのアーメンガード王の王宮だけが確かにこの世に存在するものでもあるように聳えています。そして、悠一くんがその王宮を左手に見たまま真っ直ぐ進んでゆきますと、やがて今見た王宮よりも一層立派な要塞のように見える神殿がありました。


 その神殿は、十二角形の城壁に囲まれており、そのひとつひとつに――つまり、神殿に入るのに十二の門があるということです――悠一くんは案内されてのち、その内のひとつに誘導されました。その門は遥か昔より<メシアの門>と呼ばれており、いつか東の国にメシアさまが訪れたとしたら、その時に初めて開かれるべき門だということでした。


「ですから、この宮殿を建造して以来、この門からは誰ひとりとして出入りしたことはないのです」


 そう言って、アーメンガード王自らの手で、その精緻な細工の施された荘厳な門を開いていました。


『おお、我々はこの日の訪れを、どれほど待ちわびていたことか』


 またも骸骨たちが、まるでオペラ歌手のように素晴らしい声でそう歌うように唱えます。まるで、いつかこの日がやって来た時のためにずっと練習してきたとでもいうように。


 さらに、悠一くんが門を通って中に入ると、そこには本神殿へと続く橋が架かっていました。そして、その石の橋から悠一くんが下のほうを覗きこみますと、まるで空をとかしたような色あいの、水色の綺麗な川が流れています。


 そこから、神殿の外庭に進みますと、悠一くんは一度ロバを下りるということになりました。そこへ、地味な僧服をまとったゾンビの僧侶たち(彼らは骸骨姿ではありませんでした)が現われて、悠一くんを、先ほどの綺麗な川の流れているほうへと連れてゆきます。


「こちらで沐浴し、このお召しもののほうにお着替えくださいませ」


「えーっと……」


 コジローたちだけでなく、外庭に整列している骸骨騎士たちも悠一くんのことをじっと見つめていましたから、そんな中で裸になるのは恥かしいなと悠一くんは思っていました。そこで、トランクス一丁といった格好で、水色の川に身を浸し、神殿に仕える僧侶たちが体を洗ってくれるのに身をまかせました。


「あのさ、そんなに丁寧じゃなくていいよ。それに、ゾンビはあまり水に浸らないほうがいいと思う。腐敗の進むのが速まるから……」


「ご心配、痛み入ります。ですが、これは普通の水ではないのです。ゾンビが触れても、我々は決して濡れることはありません」


 悠一くんは、このふたりの神官ゾンビの言っていることがよくわかりませんでした。何故といって、悠一くんの体は間違いなく濡れていましたし、清々しく清められるような感覚もはっきりあったからです。


 悠一くんは川から上がると、その真っ白な僧服に着替え、最後にトランクスを脱ぎました。アカネが一度、「キャッ。ユーイチさまのハ・ダ・カ」と小声で言ったことがありましたが、骸骨騎士たちがほぼ同時に睨んできましたので、流石の彼女も少しばかり恥かしくなってしまったほどです。


「色々と、煩わしいことが多くて申し訳ありません。ただ、身を清めた者以外はこの先の本神殿のほうに入ってはいけないものですから」


 このあと、アカネもコジローもカゲマルも、川の水で沐浴しましたが、彼らはお互いに濡れるということはなく、「むしろ体の雑菌が清められた気がする」と言っていたくらいでした。


 こうして再び一向は、神殿の奥のほうへ進んでいくということになりました。そして悠一くんはこの時、神殿の構造の一部を見て、(なんだか、エッシャーの騙し絵の中に迷いこんでしまったみたいだ……)と思っていたかもしれません。


 案内された通りに、階段を上がったり下がったり、アーメンガード王に言われたとおりに進んでいくのですが、正直、この神殿の内部構造がどうなっているのか、悠一くんにはまったくわかりませんでした。そして、何度も同じ場所を行ったり来たりしていた気がするのに、最後にはさっきまで<そこにはなかった>扉が現われて――アーメンガード王は厳かな声でこう言ったのでした。


「ここへは、メシアさま以外、入ることは出来ません」


 なんでも、この神殿はアーメンガード王が祈っていたところ、幻の中で天使ヨハネが示した設計図の通りに造ったということで、最初に建造して以来、<メシアの間>と呼ばれる部屋のほうには誰も人が入ったことがないということでした。


(でも、もしも僕が本物のメシアじゃなかったら……)


 悠一くんはその疑念と不安を捨て切れませんでしたが、けれどもう、あとに引くということも出来ません。西の王のゴロツキングさまと南の女王のアビシャグさまの元にはすでに急使が遣わされて、東の国のほうへ王さまと女王さまの宝物ほうもつをお持ちいただくようにと、そのように伝令が飛んでいました。ですから、この場合、もし万一悠一くんが救世主メシアでなかったとしても、この東の国の神殿に東西南北の四王の宝物がいずれ揃う、ということになります。


 悠一くんが、左右に座す二体の天使像が翼を差しかわしている扉の前まで行った時のことでした。アーメンガード王は自分の頭から宝石のたくさんついた王冠を外しますと、跪き、それを悠一くんの手に渡したのでした。


「それが、わたしが天使ヨハネから授かった宝物です。どうぞ、<メシアの間>の定められた場所へ、それをお納めください」


「ありがとう、アーメンガード王。こうしたすべてのことがメシアのために整えられていたのも、すべてあなたがゾンビになってなお祈り、その到来を信じ待っていてくれたそのお陰だ。感謝する」


「いえ、もったいないお言葉でございます、我が主よ。これで我らゾンビもあなたさまのお力で救われましょう。感謝すべきなのはむしろ、我らのほうです。そのことを思えば、ただしもべは当たり前のことをしたにすぎぬのですから……」


 悠一くんが会ったアーメンガード王は、アビシャグさまから聞いていた人物とも、ドルトムントさまから聞いていた人物像とも、悠一くんの目には違って見えました。敬虔で謙遜で、骨だけの身となってなお、メシアの来臨を待ちわび、その信仰を守り続けた立派なゾンビ……というのが、悠一くんのアーメンガード王に対する人物評価だったかもしれません。


 そしてこのあと、悠一くんは<メシアの間>で自分がメシアとして何をしなくてはいけないかもわからないながら、まずは中へ入ってみることにしました。すると、自分で扉を閉めたつもりもないのに、そこがギィという音とともに自然と閉まります。


「こっ、これは……」


 悠一くんは、自分の足元が宇宙空間となっており、そして柱と柱の間もすべて宇宙空間が描かれ、それが動いているのを見ました。悠一くんの知識の中で唯一考えられる可能性は、これがホログラフィではないかということでしたが、実際のところの仕組みについてはよくわかりません。


「それで、僕は一体ここでメシアとして、何をすればいいのかな……」


 訳がわからないながら、悠一くんはあたりを探ってみることにしました。出来れば、このホログラフィを消すためのスイッチでもどこかにないかと探したいところですが、歩いても歩いてもどこにも行きつくような感じがしません。


 悠一くんは一度歩くのをやめると、北の王から委ねられた<天使のブルーパウダー>と、東の王からつい先ほどいただいた<宝玉の王冠>の両方を床(と思われる場所)へ置いてみました。特に深い意味もなく、なんとなく行なったことでしたが、すると驚いたことに、部屋の北側と東側が、何かのパネルでも外れるように景色が変わったのです!!


「そ、そうか。わかったぞ……ということは、僕はまだ待ってなくちゃいけないんだ。西の王ゴロツキングさまの宝物と南の女王アビシャグさまの宝物が届くまで。だけど、なんていうか、メシアっていう触れ込みでこうして中へ入ってしまった以上、今から外に戻ってそう言うっていうのも間抜けな気がするし……」


 そして悠一くんは、宇宙空間でないほうのリアル空間のほうをじっと見つめました。宇宙空間を区切っているように見えた白い柱は消え、今はそこから神殿の白い外壁や屋根、それに青く澄んだ空とが見えています。さらには、その向こうから――。


「あれは、僕が前に夢で見た、白い竜だ……!!」


 けれども、竜は空の遠い場所にいて、こちらへ来るような気配は一向感じられません。それに、これは一種のイリュージョン装置のようなものなのだろうと悠一くんは思っていましたから、あの竜が仮に近くまで来てその姿をつぶさに観察できたとしても、それに自分が乗れるわけではないと思っていました。


「だけど、あんな生き物が本当に存在するものなんだろうか?竜っていうのは本来が、人間の想像の産物なんだし……でも、このくらい科学の進んでいる場所でなら、すでに滅んでしまった恐竜やマンモスを復活させたり、あるいは人間の頭の中にしか存在しない生物を一から作り出すということすら可能だったということなんだろうか?」


 悠一くんは時折、白い竜に向かって手を振ってみたりもしましたが、向こうでは悠一くんの存在になど、毛ほども気づく気配がありません。そして、悠一くんが溜息を着き、その場に座りこんだ時のことでした。


『ユーイチ・ナカムラ。アナタはメシア・プログラムに合格しました。今から約10時間50分49秒後くらいに、西の王ゴロツキングの宝物と、南の女王アビシャグの宝物とが届くでしょう。それまで、神に祈りなさい』


 悠一くんがこの時思ったのは、(何を言ってるんだ、コイツは)ということだったかもしれません。何故といって、悠一くんにそう語りかけた声は、明らかに人間の温かみの感じられないコンピューターヴォイスだったからです(たとえて言うなら、siriの声にとてもよく似ていました)。それで、悠一くんにはすぐわかったのです。<メシア・プログラム>ということは、こうしたことのすべてが一種ペテンに近い何事かなのだということを……。


「君がコンピューターなのか天使なのか人間なのか知らないけど、ひとつ教えてくれないか?それで、十時間五十分四十九秒後くらいにゴロツキング王とアビシャグさまの宝物が届いたとする。そしたら、今僕に見えている竜が、雲の上の城にまで連れていってくれるんだろう?それで、そのあとは一体どうなるんだ?もしかして僕は、元の世界へ帰れたりするのか?」


 悠一くんがそう聞いても、その質問に対する返答はありませんでした。コンピューターヴォイスはもう一度言いました。『祈るのデス、ユーイチ。とにかく、祈るのデス』と……。


(やれやれ。あと十時間五十分もこうしてなきゃならないのか……だったらまあ、祈れっていうんなら、暇つぶしに祈ったってそれはそれでいいんだけど……)


 ここまで来たら、自分が何を祈ろうと祈るまいと、結果にはなんの違いも生じえないとしか悠一くんには思えませんでした。むしろ、このようなことに長く巻きこまれたことの結果がこれなのだと思うと――今コンピューターヴォイスの言ったことに呆れるあまり、悠一くんは腹立ちさえ覚えていたものです。


(僕はこれでも、僕なりに一生懸命がんばってきたつもりなんだ。前の世界にいた時だって、そりゃ受験には失敗したけど、それでもそれだって僕にとっては精一杯やった結果だったんだ。一浪することになってムシャクシャすることだってそりゃあったし、予備校通いもはじめたばかりだっていうのに、なんかもううんざりしてたよ。だけど、だからってこんな世界へ突然やって来て、メシアにならなきゃいけない言われなんか僕にはないんだ……)


 この時悠一くんは、こちらの世界へ飛ばされたきた初めの頃に起きたことから順に、色々と思いだしていました。ライダースーツゾンビが「ヘイ、ユー。ユーは一体、どこから来たんだい?」と言って助けてくれた時のこと、その後、ゾンビホスピタルで傀儡師のおやっさんにゾンビの体を縫合するための縫合術を教えてもらったことや、西の国のお笑い大会や締め括りのゾンビダンスのこと、南の女王アビシャグさまとホバークラフトに乗って色々お話したことや……初めて忍者ゾンビのヤチヨとハヤテに会った時のこと、シェロムさんに案内してもらったゾンビ工場や彼が住まいとしている人肉の森のことや……二コラ・アーデンの住むゴッドリーヴス国際図書館、レムリア病院でバイオプリンタを発見した時のこと、ヤチヨの手をまずは再生し、その後、全身もバイオプリントできる方法も発見し、無事成功した時のことや……。


 ここまで思いだしてくると、悠一くんは『自分がこの世界へやって来てメシアとなることは運命だった』云々といったことを越えて、(これでよかったんだ)と何かを納得しました。ヤチヨの心臓移植が成功するか否かというのが、バイオプリンタに関係した医療の一番の鍵だったわけですが、ヤチヨが無事目を覚ましてくれた時のことを思うと……他の一切が悠一くんにはどうでもいいことでした。もし仮に、<神>という存在がいて、その時ヤチヨの生き返るのが彼の胸三寸にかかっており、たまたまその時気まぐれによって神はそうした――というのでも、悠一くんはこの神に対し、これから先一生の間服従してもよいという気持ちにさえなったくらいでした。


 この時悠一くんは、鼻から吸った息をフーッと口から吐き、あぐらを解くと閉じていた目を開きました。見ると、親切にもいつの間にか、5:49:55……などと、目の前の白い建物と青い空の画面では、カウンターが秒数をどんどん減らしていっていました。悠一くんが推察するに、おそらくはゴロツキング王やアビシャグさまの宝物が届くまでにこのくらいかかるという、そうしたことなのでしょう。


 なんにせよ悠一くんはこれで、今まで自分に起きたことの何もかもが――<必然>とまでは思いませんでしたが、それでもゾンビたちのために、自分なりに出来ることをしてきたことだけは良いことだったと思い、そうした自分の運命を肯定することが出来ました。


 悠一くんがこれまで読んだことのある、主人公が異世界に飛ばされるパターンのファンタジーでは、そのまま主人公が異世界に留まるパターンと元の世界へ帰るパターンのふたつがありましたが、悠一くんは出来れば元いた世界に帰りたいと今も思っていました。そして、自分の今の状態というのは、物語にたとえたとすれば結構なクライマックスなはずではないかとも思っていたのです。


(たぶん、<メシア・プログラム>に合格したとかいうのは、それだからひとつくらい願いを叶えてやろうとか、こちらでの僕の任務は終わったから元の世界へ帰してやろうとかいう、そういうことじゃないのかな……)


 そう思うと、悠一くんは突然心が軽くなるのを感じました。そうです、おそらくはもう少しすれば――今、カウンターは5:41:49を示しています――本当に帰れるのかもしれません、元いた世界へ!!


「そりゃもちろん、ゾンビたちのことは気がかりではあるよ。だけど、僕なりに今まで、彼らに対しては誠実を尽くしてきたつもりだし、これでゾンビのみんなが生ける人にさえなれば……あとは旧文明世界の本を読んだりして情報を得て、医療以外のことに関してもゾンビの文化をさらに発展させていってくれたら、僕なんていなくていいくらいだものな。むしろ邪魔にさえなるかもしれない。そう考えたら、今くらいに<メシアさまは昇天されました>みたいな感じで、ゾンビたちには納得してもらうのが一番いいのかもしれない……」


 けれどもちろん、悠一くんにはこうなると、別の疑問が湧いてもきます。つまり、先ほどの<メシア・プログラム>云々といった声がコンピューターヴォイスだったということは、最初にこの世界のすべてをプログラムした設計者――いわば、この世界における<神>がいるはずなのです。そして、それが彼なのか彼女なのか、あるいはゾンビなのかヨハネという天使なのかわかりませんが、その人物は、先ほどの声をいかにもな<天的御声>として流し、悠一くんに(まるで、天使か神さまの声みたいだ)と錯覚させることも可能なはずでした。


(でも、彼か彼女かわかんないけど、とにかくその人はここへ来て、こうしたことはすべて一種のペテンなのだと、僕に悟らせようとしたんだ。でもよくわかんないな。しかもその上で<祈れ>だなんて……)


 どんなに科学文明が発展しようとも、自分が心の中で思ったり、頭の中で考えたりしていることまで、ある種のAI――この場合は超AIとでも呼ぶべき存在――に読みとれるようになるとまでは、悠一くんには思えませんでしたから。


「まあ、いっか。ヤチヨやハヤテにも『ユーイチは心配性だな』とか『心配性でござるな』って言われてばかりいたからな……」


 この時悠一くんは、もし仮に元の世界へ帰れるのだとしても、ヤチヨやハヤテにだけは最後に会っておきたいような気がしていました。けれども、もしそんなことも許されなかったとしても――悠一くんは自分が元いた世界へ帰りたいと思っていました。そして、この世界における自分の役割はもう終わりつつあるのだろうと予測し、ほっと安堵してもいたのです。


 このあと悠一くんは、白い建物の一部(たぶん、バルコニーのような場所)と青い空、さらにその向こうを行き来する白い竜の画面の下に、5:23:47……とあるのを見て、(流石に退屈だな)と感じはじめました。すると、突然扉の向こう側から、聖書の詩篇を暗誦する、骸骨騎士団の滝のような声が再び聞こえはじめたのです。



 >>いと高き方の隠れ場に住む者は、

 全能者の陰に宿る。


 私は主に申し上げよう。

「わが避け所、わがとりで、

 私の信頼するわが神」と。


 主は狩人のわなから、

 恐ろしい疫病から、

 あなたを救い出されるからである。


 主は、ご自分の羽で、あなたをおおわれる。

 あなたは、その翼の下に身を避ける。

 主の真実は、大盾であり、とりでである。


 あなたは夜の恐怖も恐れず、

 昼に飛び来る矢も恐れない。


 また、暗やみに歩き回る疫病も、

 真昼に荒らす滅びをも。


 千人が、あなたのかたわらに、

 万人が、あなたの右手に倒れても、

 それはあなたには、近づかない。


 あなたはただ、それを目にし、

 悪者への報いを見るだけである。


 それはあなたの避け所である主を、

 いと高き方を、あなたの住まいとしたからである。


 わざわいは、あなたにふりかからず、

 えやみも、あなたの天幕に近づかない。


 まことに主は、

 あなたのために、御使いたちに命じて、

 すべての道で、あなたを守るようにされる。


 彼らは、その手で、あなたを支え、

 あなたの足が

 石に打ち当たることのないようにする。


 あなたは、獅子とコブラとを踏みつけ、

 若獅子と蛇とを踏みにじろう。


 彼がわたしを愛しているから、

 わたしは彼を助け出そう。

 彼がわたしの名を知っているから、

 わたしは彼を高く上げよう。


 彼が、わたしを呼び求めれば、

 わたしは、彼に答えよう。

 わたしは苦しみのときに彼とともにいて、

 彼を救い彼に誉れを与えよう。


 わたしは、彼を長いいのちで満ちたらせ、

 わたしの救いを彼に見せよう。


(詩篇91編)



 こうした朗誦がその後もずっと長く続くうち……これといって特定の神に信仰を持っていない悠一くんも、だんだんに敬虔な気持ちになってきたかもしれません。


 そして、(そうか。あのコンピューターヴォイスが<祈れ>といった意味はこういう意味だったのか……)と思い、悠一くんは再び具体的に言葉にして祈るということではなく――何かそうした姿勢を取りつつ、神聖な気持ちに満たされて、ゴロツキング王とアビシャグ女王の宝物が届くのを待つことにしていたのです。


 また、実際、今後のゾンビ世界のために、悠一くんは確かに祈るべきだとも思っていました。彼らの国がこれからも健やかであり、健全に発展してゆきますようにということや、その他、ライダースーツゾンビや傀儡師のおやっさん、東西南北の四王はもちろんのこと、ハヤテやヤチヨやアカネやカゲマル、コジローなど、ゾンビ忍者たちの幸福のことや、人の形を得ても、悠一くんが元知っている人々のようでなく、彼らゾンビがこれからも純粋性を保って互いに助けあってゆけますようにということや……そして、ある種の深い瞑想段階に悠一くんの精神や心、あるいは魂があった時――ハッと気づくと、扉の外でドアをノックする者がいました。


 今や詩篇の朗読はやみ、楽の音とともに、外からは美しい賛美歌を歌う声が聞こえてきています。


「失礼ながら、メシアさま。ゴロツキング王とウフフーミンさま、そして南の女王アビシャグさまが御自ら、宝物を携えておいでくださっております。いかが致しましょうか?」


「…………………」


 悠一くんはこの時、ゴロツキング王やウフフーミンさま、それにアビシャグさまにも会い、その後北の国でどのように過ごしていたかなど、直接話したい気持ちがもちろんありました(アカネたちがそうした報告をしているとは知っていましたが)。


(でも……僕は彼らと話す時、いつもただの普通の人っぽく話してしまうから、アーメンガード王はそういうの、どう思うかな。『メシアらしくないふるまい』とか、そういうふうに思うかもしれないから――ここはひとつ、それっぽく振るまったほうがいいのかな。そこらへん、どっちなんだろう……)


 そう思い、悠一くんは、「ごほんっ!!」とひとつ咳き込むと、「そこへ置いてくれたまえ」と、少しばかり厳粛な声を装ってそのように命じてみました。


 もしかしたら、アビシャグさまなどは「一体どうしたんだ、ユーイチの奴」と、内心笑っておられたかもしれませんが、おそらくお三方とも、場の空気を呼んで、そのように対応してくれるに違いないと、悠一くんはそんなふうに思っていたのです。


 やがて、扉が少しだけ開き、桐のような木箱に入った、ゴロツキングさま、アビシャグさまそれぞれの宝物が<メシアの間>に届けられました。木箱にかかっていたのが骸骨の白い手だったところを見ると、そうしたのはアーメンガード王であったものと思われます。


 そして、悠一くんはゴロツキング王の宝物である<ゴールデンペニスサック>と、アビシャグさまの宝物である<翡翠の聖杯>を木箱から取りだしますと、それを<天使のブルーパウダー>、それに<宝玉の王冠>とともに床に置きました。この時、悠一くんはゴロツキング王の宝物がペニスサックであるとは気づかず、「黄金の角笛か何かかな」と思っておりましたから、特に笑うことさえなかったようです。


 途端、部屋の西と南の両方の宇宙空間が開かれて、悠一くんはまるで自分が今、白い建物のバルコニーに立って青い空を見ているかのように錯覚しそうになったものです。そして、ずっと向こうの遠くにいた竜が――突然、悠一くんに向かって襲いかかってきたのです!!


 この瞬間、白亜の大神殿は大きく揺れ、大地震にも似た震えが床にも壁にも走っていました。彼らはゾンビになってから絶えて地震や天変地異といったものを経験したことがありませんでしたから、この時受けた衝撃というのは、神に対する畏敬の念を起こさせて余りあるものだったといえます。


 そしてこの時彼らは、<メシアの間>で今一体何が起きているのか、覗くような禁忌を犯す勇気はありませんでしたから、一度神殿の外庭へ出るということにしました。すると、<メシアの間>の一部が根底から大きく崩れ去っているのを彼らは目撃することになったのです。


「あ、ああっ、アーメンガードさま、あちらの空をご覧くださいませっ!!」


 骸骨騎士のひとりが白骨化している指で東の空のほうを指差しました。すると、遥か上空遠く、白い竜が海のある方角へ消え去っていくところだったのです。


 この時、アーメンガード王だけでなく、ゴロツキング王やウフフーミンさま、それにアビシャグ女王も、思わず東の空に向かって跪いていました。アーメンガード王が東の空へ向かい、胸に片手を当て、敬礼した姿勢のままでこう言いました。


「ああ、あの方こそは、まこと、本当に本物のメシアさまであった……!!」


 そして、アーメンガード王はこの時、自分は悠一くんをメシアと信じつつ、この瞬間に至るまで、残り15%くらいは彼をメシアではないのではないかと疑っていたと気づき、自分の信仰の薄さを実に悔恨、また反省されてもいたのでした。


「南の女王、アビシャグよ」と、アーメンガード王は語りかけられました。「以前、そなたが手紙を送ってきた時、わしはすぐにも信じるべきであった。また、これまでにそなたにしてきた数々の無礼な振るまい、どうか何卒許されよ」


「いや、わたしに対してそう畏まる必要はない、アーメンガード王よ」


 実際、かつて「このニューハーフめ!」と言われたことなどは、アビシャグさまにとって蚊が刺したといった程度のことでした。アビシャグさま御自身に前世の記憶はないとはいえ、それでも彼女はなかなかに凄まじい人生経験を経てゾンビになっていましたから、その程度のことは本当になんとも思っていなかったのです。


「何より、そなたがメシアの存在を信じ、祈り続けてくれていたお陰で、このような大神殿を天使ヨハネの指示を受けてお造りになったのであろう。そのことを思えば、わたしのほうこそ恥かしい。ゾンビ忍者のゴエモンやサイゾーからその話を聞いた時には、『何を無駄なことを……』としか思わなかったくらいだからな。だが、そなたがこのように準備して何百年となく待ち続けるのをやめなかったからこそ、わたしやゴロツキング王の持つ宝物が意味を持ったのだ。こちらこそ、あらためてそなたには礼を言わなくてはなるまい。アーメンガード王よ」


「フフフ……それにしても長かったのう」と、アーメンガード王は骸骨の口を大きく開けて、「カカカ」と大笑いしておられました。「この死とゾンビだけが支配する世界に、とうとう新しい生命が誕生したのだ。これからこの世界も大きく変わっていくことだろう……のう、アビシャグよ。もう我々の間であった色々なことは水に流そう。そういえば、我ら四人の中で一番執念深そうなドルトムントの奴も、手紙にそんなことを書いておったわ。しかも、あのプライドの高い男が詫びの言葉まで述べておっての。わしはそれまでのことも考えあわせてみて、その時ほぼ確信したのじゃ。ユーイチ・ナカムラというこのお方こそ、もしやまっことのメシアさまかも知れぬと」


「そうだったのか。兄上がそのようなことを……」


 この時、アビシャグさまはあらためて驚いていました。もちろん、コジローたちからの報告で、ドルトムント王と悠一くんが仲良くしている――といったようなことは知っていました。それでも、あの兄が何百年もの長きに渡って敵対関係にあったアーメンガード王に詫びの言葉を述べるなど、アビシャグさまには到底考えられないことだったのです。


(そうだ。かつてのわたしなら、それこそ『天地が引っくり返っても、そんなことはありえない』と、そう思っていたことだろう。だが、本当にその天地が引っくり返ったのだ……)


 アビシャグさまは、コジローの報告の中に、何度か<ドルトムント王は妹であるアビシャグさまのことを心配しておられるご様子>といった言及があるたび、そんな言葉を信じないようにしてきました。けれど今、(もしかしたら本当にそうなのかもしれない)と初めて思っていたのです。


「のう、アビシャグ。それにゴロツキングよ。我ら四王、長く戦い、敵対関係にはあったかもしれぬが、そんなことはすべて過去のこととして水に流そうぞ。そして、これから出来る新しい国は、新しく生命を得たゾンビ民同士で決めていったらいいのじゃ。それでもし彼らが王を求めるなら、そのような者が再び誕生すれば良い……ドルトムントの奴はどう言うかわからんが、なんにせよ、アビシャグよ。そなたらは血の繋がった兄妹なのだ。ゾンビ世界広しといえども、最初からそうとわかっている者は少ない。これからは、その絆を大切にするためにも、兄と仲良くやっていってはどうじゃな?」


「そうだな。アーメンガード王よ。胸にしみいる助言、痛みいる」


 その後、アーメンガード王とアビシャグさまとは、遥か昔、初めて出会った時のことに話を遡らせて、王宮のほうへ向かいながら語り続けていたのですが――ゴロツキング王は神殿を去る前に、こんなことを妻であるウフフーミンさまに聞いていました。


「わしのゴールデンペニスサック、ユーイチくんが使い終わったのであれば、あれ、返してもらえんもんかの」


「あなた、今は場の空気を読んで、変なことおっしゃったりなさらないでね。それに、そんな言い方はいらぬ誤解を招いてよ」


 そのように奥さまからたしなめられますと、ゴロツキングさまは仕方なく黙りこまれました。それでも時折、三流ラッパーの物真似をして「ガイコツキーング、Oh,Year!!」、「アイアンメイデーン、Ah,Year!!」などとやっては、骸骨騎士たちの顰蹙を買っていたようなのですが……。




 >>続く。






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