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リュシアン視点●片想い●ホワイトデー前日


リュシアン視点。


恋ちゃんに片想い設定です!

ホワイトデーネタ、頑張りました。リュシアンで!(笑)



20140314



 三月十二日水曜日。

ホワイトデーの二日前。


「君って人は、ボクを困らせることが得意だね」

「……いきなり、なに?」


 部屋の窓からベッドの上で読書をする彼女に、ボクは開口一番に告げた。

 予め遊びに行くとメールしておいたから、待っていた彼女は首を傾げると本を閉じる。


「ホワイトデーのお返しのことだよ。誕生日にはチーズケーキ祭だったし、君の場合ファンからまたチョコレートを大量に貰うだろうし、他に渡すものが思い付かない」

「……んー、とりあえず入ったら?」


 ぱちくり、と瞬きをすると宮崎さんは入る許可を出す。

 全く、また異性を中に招くのか。困った人だ。

そう思いつつ、異性の部屋に入ってしまうボクも……困ったものだ。


「そんなに困るようなこと? 別に私はチーズケーキでも、チョコレートでも構わないよ」


 椅子に腰を下ろして、ベッドの上の宮崎さんと向かい合えばそう返された。


「面倒なら、お返ししなくてもいいよ。お返しが欲しくて貴方に渡したわけじゃないから。悩ませてごめんなさい」


 変わらない静かな声で、宮崎さんは謝罪の言葉は口にする。


「何を言うんだい。お返しが面倒なわけがないだろう? ボクがそんないい加減だとも?」

「それなら、適当に決めればいいよ」

「……はぁ」


 密かに焦って否定すると、なんともいい加減なことを返された。

 彼女の無関心さが伝わり、ボクは真横の机に頬杖をついて溜め息を溢す。

 適当に決められるわけがない。

数多のお返しを貰う彼女に、適当なものを渡すなど出来やしない。

 特別なものでなければ、意味がないのだ。

ずば抜けたものを、彼女が特別なものだと認識してくれるものを、数多のお返しに霞まないように一番となるものを、渡したい。

 そんなボクの考えなんて、察してくれない宮崎さんは、長い黒髪を右耳にかけてボクを不思議そうに見上げた。


「私が選べばいいの?」


 蔑ろにせず宮崎さんは、ボクを見つめて考えてくれる。


「何か欲しいものがあるのかい?」

「…………なんでもいい」

「なんでもいい、では意味がない」


 宮崎さんの言う「なんでもいい」は、「どうでもいい」と意味だ。

宮崎さんの欲しいものさえない。


「チーズケーキ」

「本当に欲しいのかい? バレンタインデーでも、たくさん食べて暫くはいらないと言っていたでしょう」

「……それを言われたら、何も出てこなくなっちゃう」


 ボクが問うと宮崎さんは困ったように肩を竦めた。

 食べ飽きているものも、意味がない。

花ではありきたり、アクセサリーでは宮崎さんには常に持つものがあるから、しまわれるのが落ちだ。

特別なものが、思い浮かばない。


「…………どこか、行きたいところはないのかい?」

「んー……」


 場所はどうかとボクが訊いてみれば、首を傾げた彼女はふわりと微笑んだ。

 膝の上に置いた本の表紙をボクに見せる。月夜が描かれた表紙だった。


「月が、よく見える場所に行きたいです。この本の満月の描写が綺麗で観たくなったの、明日は満月だから……この辺で一番近い山に、一緒に来てくれると嬉しいのだけれど……」


 宮崎さんが首を傾げたままボクの反応を待つ。

彼女がボクに要求するもの。

 半端な存在である彼女は他のモンスターに襲われる可能性が高いから、ボディーガードにボクの同伴を求める。

ただそれだけだが、ボクとしては彼女と二人で遠出ができるから最高の要求に思えた。

 二人きりで月を見上げるならば、特別な思い出になるはずだ。

明日はホワイトデー前日だから、ボクは「では放課後に」と了承して頷いた。


「アメデオも?」

「全く、君って人は。ボクからのホワイトデーのお返しなんだ。アメデオは別のものを返すだろうから、明日はボクと君だけで行こう。不満かい?」


 いつもアメデオとセットだと思っている彼女に呆れて一つ息を吐く。

二人きり、が重要なんだ。


「ううん。じゃあ明日、お願いね」


 気に止めることなく、宮崎さんはボクと二人で出掛けることを決めてくれた。

自然に口元が緩んだ。




 厚い雲が覆い、鬱蒼とした森に水滴を多量に落とす。

ボクは不機嫌を隠さず、腕を組み空を睨み上げる。

隣には濡れた髪を搾る宮崎さん。

 お返しのために昨日見付けた観測スポットに、放課後制服のまま宮崎さんと来たものの突然大雨が降り注いでしまった。

嗅覚から雨が降る予感はしていたが、携帯電話の天気情報は晴れると記載されていたから来てしまった。

 おかげで宮崎さんとボクは雨を被ってしまい、雨宿りできる木の下にいる。

満月は観れず、そして雨を濡れた。

 ホワイトデーのお返しは、仇で返したようなものだ。


「すごい……雨だね」

「……失笑しないでくれ」


 隣で宮崎さんは雨を見上げると小さく吹き出した。

ボクは不機嫌になるが、彼女は器が広い故に笑う。

ボクは自分の器の狭さに呆れて俯いた。


「まぁ……こんなことも、あるよね」


 横目で見れば、彼女は穏やかに笑っている。

するりと黒い髪を指に挟んで雫を落とす濡れた彼女の横顔を、ボクは見つめた。

 そっと自分の髪に指先を入れて、雫を払う。

 こんなことも、起こる。

失敗を笑われているからあまり喜べないが、それでもボクは彼女が笑っていることを嬉しく思った。

ある意味、特別だ。


「……寒いかい?」

「大丈夫。リュシアンのおかげ」

「……そう」


 人間より丈夫なボク達はこの時期の雨に濡れても、寒さは苦ではない。

 それでも宮崎さんが濡れている姿を見ると、心配でならない。

女性が隣でびしょ濡れになっているのだから、当然だ。


「……どうする? 濡れて帰るかい?」

「少しの間、雨宿りしよう。リュシアンはともかく、私は転んで制服を台無しにしそうだから」

「それもそうだね」


 様子を見ることにして、ボク達は雨宿りすることに決めた。

 馴れない環境では彼女も服を汚して怪我をしかねない。正しい判断だろう。

 少し沈黙になる。

地面と木の葉に数多の雨粒が降りそぞく音だけが響く。

 もう一度宮崎さんに目をやれば、目を細めて鬱蒼とした森を見ていた。

なんだか、楽しげに見えて首を傾げる。


「なにを、見ているんだい?」

「雨」

「雨?」

「うん。雨粒がね、ゆっくり降っているように見えるの」

「ああ……吸血鬼の眼で見ているのかい」


 訊いてみれば、宮崎さんは楽しそうに笑って答えた。

ついこの間まで人間だった彼女にとって、吸血鬼の眼で雨をこうして見るのは初めてだったらしい。

 スローモーションのように目に映る雨粒は、美しいだろう。

小さな水晶を止めどなく撒き散らすような光景。

今は夜。暗い森に降りそぞく雨粒は、微かに光を宿して煌めく。その美しさが、増す。

 まるで――――…彼女に似た美しさだ。

宮崎さんはそれを楽しんで観賞していた。


「コート脱いで。ボクの方が濡れていない」

「あ、ありがとう」


 宮崎さんの方が濡れているように見えたから、コートを交換することにして、ボクの黒いコートを宮崎さんの肩にかけた。

彼女が気に止めない程度に、そっとボクの方へと引き寄せる。

 彼女の白いコートは腕にかけて持ち、一緒に木に凭れて眺めた。


「一緒に来てくれて、ありがとう」

「……どういたしまして」


 計画通りではなかったけれど、宮崎さんは喜んでくれた。

 ただ、一緒に来ただけ。

それだけでも、喜んだ横顔が見れただけで、満足してしまうボクがいた。

 この瞬間が、彼女の特別になることを祈るばかりだ。

ほんの、少しでもいい。

 闇夜の森に降りそぞく雫に宿る小さな光のように、ほんの少しで構わないから…――――。


「リュシアン、手、冷たい。寒い?」


 不意に彼女の手がボクの手を掴むから、一瞬動揺した。


「いいえ。君も冷たい手だ」

「じゃあ、お互い様だね」

「ふふ、そうだね」


 温めたいのか、彼女はボクの手を握って放さない。

ボクは、拒まなかった。

 ボクの手が冷たいのは当然だ。吸血鬼だからではない。

 君への熱い想いを、この胸に閉じ込めているからだ。


「雨、止みそうにないね」

「そのようだ」


 雨は、降り続けた。

止まっているように見えるほどゆっくり降るも、激しさを増すばかりに思える。

止みそうにない。

待っていても無駄だろう。

だが。


「――――…もう少し雨宿りしようか」

「うん」


 ボクはもう少し、こうして雨宿りをすることを提案した。

彼女が頷くことは、わかっていた。

 木に凭れて、軽く手を握り合いながら、淡い光を放つ雫が数多降りそぞく光景を、暫く一緒に眺めた。

 それがホワイトデー前日の、ボクの特別、宮崎さんの小さな特別。




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