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続き/漆恋/恋人if●3「翼に包まれて」


「本当にいいの?」

「うん、平気」


 五月一日の夜。

黒巣は音恋の手を引いて、夜の学園に向かった。

話があると立ち入り禁止のはずの学園に連れていかれて音恋は首を傾げる。

 学園の門には、風紀委員が並んで見張りをしていた。

風紀委員長である笹川竹丸は、門を開けるように指示をする。


「俺達は味方だ。何かあったら呼んでくれ」

「……あ、はい。どうもありがとうございます」


 すんなり中に通されることに疑問を抱いている音恋に、笹川は伝えた。

味方だ、呼べば駆け付ける。

 共犯だと言われただけだと思い、音恋は首を縦に振った。


「風紀委員がよく、協力してくれたね。どうしてわざわざ学園で?」


 夜の学園に共犯を作ってまで入りする話が想像つかない音恋は、問う。

しかし黒巣はちゃんと答えてはくれず、校舎に入り屋上へと移動した。


「夜の校舎も初めてでちょっとドキドキするけれど……屋上は素敵だね」


 音恋は顔を上げて暗い屋上から見える星空を眺める。

そんな音恋の微笑んだ表情を黒巣は見つめた。

視線に気付いて、音恋はきょとんとする。


「座って」


 ベンチでなく屋上のど真ん中に座るように黒巣が頼めば、音恋は躊躇なくその場に座り込む。


「触ってい?」

「どうぞ」


 緊張した様子で右手を差し出した黒巣を気遣い、音恋は黒巣の両手を握った。

黒巣は少し安堵を覚えて、深呼吸して気を沈める。


「これから……秘密を明かす。ずっと、宮崎に隠してた秘密だ」

「……秘密」

「ずっと隠してて、ごめん。知ったら……俺のこと、嫌いになるかも……でも、誰かにバラされて知らされるより、俺から打ち明けたい」

「…………話して」


 音恋は静かに黒巣を見つめて、これから黒巣が打ち明ける秘密を待った。

これを打ち明けることで、音恋が嫌うかもしれない。

それに少し怖じけずいている黒巣の手を握って励ました。


「……俺と、生徒会には秘密がある。一部の先生にも同じ秘密があって、俺の祖父である理事長もそう。風紀委員はそれを守ってるんだ」


 前置きをして、黒巣は音恋の両手を握り返すともう一度深呼吸をする。

 ふぅ、と息を吐いた黒巣は目を閉じたまま、正体を見せた。

 妖気で作り出されるもう一つの姿。

夜空さえも呑み込むような黒い黒い二つの翼が、黒巣の背中から伸びる。

 バサリと一度広がると黒い羽根がヒラヒラと舞い落ちたが、床に残ることなく幻のように消えた。

しかし漆黒の翼だけは消えない。


「俺の祖父は鴉天狗。俺はその孫。生徒会は皆が人間のハーフや、クォーターなんだ。鴉天狗じゃなくて、他の種族で…――――モンスター。これが俺の秘密で、学園の秘密」


 黒巣は目を開けなかった。

音恋が一体どんな顔をしているのか、確認するのが怖い。

姿を晒した自分を怯えて見ていないだろうか。

今すぐ手を離したがっているのではないか。

自分を嫌っているのではないか。

 怖くて仕方なかった。息を飲めば、喉がチクチクと痛んだ。

 しかし音恋の手は、まだ黒巣の手を握ってくれていた。

だから黒巣は勇気を振り絞り、目を開く。


「何故だろう。なんだか前から知ってたみたいに、驚かないや」


 音恋はいつものように、微笑みかけた。

怯えずに優しい瞳で、真っ直ぐに見てくれている。

安堵を覚えた黒巣は泣きそうになり、グッと堪えた。


「ちょっとは……驚けよ」

「私は年中冷静沈着だから」

「……宮崎、強すぎ」

「ファンのリンチも受けて立ちます。大丈夫だよ」


 涙で潤んだ目を見せたくなくて、黒巣は俯く。

冗談を言って笑わせようとする音恋の優しさに余計涙が落ちそうになった黒巣は、代わり笑った。


「黒巣くん」


 鈴のようにか細くて、優しげな声で音恋は黒巣を呼んだ。

黒巣の手を離して、そっと頭を撫でた。


「私は君が好き。大きな鴉の翼があっても、私が好きな君でしょう? 私を好きだと言ってくれた黒巣くんが、偽りということではないでしょう?」

「! 偽りじゃないっ、翼は隠してたけど……俺だ。ありのままの俺だよ、ずっと宮崎のことが好きな俺」

「うん。なら、嫌いになんかならない。私の好きは、変わりません」


 偽りの自分を作り出して、生活していたわけではない。

音恋の知る黒巣に変わりはない。

だから、音恋の気持ちは変わらない。

 優しく、そしてきっぱりと言ってくれる音恋。

好きだと、嫌いにはならないと、好きは変わらないと、言ってくれた。

秘密を明かしても変わらずに想ってくれることに、黒巣は嬉しくて嬉しくてやはり泣きそうになる。

 音恋を力一杯抱き締めたかった。

それよりも、したいことがある。

泣きそうな顔で笑い返した黒巣は、顔を近付けた。

 髪が触れるほどの距離で止まり見つめた。音恋の承諾が出るまで。

見つめ返した音恋は、そっと目を閉じた。

それを承諾と受け取り、黒巣も目を閉じてまた距離を縮める。

唇と唇が重なった。

 黒巣は誰にも見られないように、翼で包み込む。もしかしたら心配性の先輩方が覗いているかもしれないと思ったからだ。

 唇を離して、顔を離すと、二人は瞼を上げて目を合わせる。そして二人して照れた笑みを溢す。

 星空の下の屋上で、黒い翼に包まれて二人はもう一度唇を重ねた。



交際を始めてから半年、初めてキスをした夜だった。




●おまけ。●



その後、心配で盗み聞きしていた生徒会メンバーと風紀委員と挨拶。

桜子と音恋は関係者に。

数日後。


「あの……黒巣くん、相談があるのだけれど……」

「なに? また呼び出し?」

「ううん、そうじゃないのだけれど……あまり君を煩わせたくないからいい」

「なんだよ、言いかけるくらいなんだから宮崎の手に終えないんだろ? 話せよ」

「うん、じゃあ…………連絡先交換してから、赤神先輩の口説くようなメールや電話が止まないの」

「それは早く言えよ!!」



恋ちゃんに惹かれた赤神先輩が隠れてアタック。

勿論漆くんが阻止にかかり、恋ちゃんからもしっかりフラれました(笑)

記憶がはっきりなくともデジャヴで恋ちゃんはモンスターの存在をあっさり受け入れました。


ヴィンス先生は時々庭園に訪れる恋ちゃんが目に留まりましたが、恋人がいることは知っているので話し掛けませんでした。


桃塚先輩は後輩の恋人ちゃんとして妹のように可愛がります。


恋人の存在を知る両親はアメデオからのお見合いの話は断り、恋人がいるならばとアメデオは諦め遭遇はなし。


恋ちゃんが滞在中は、危険なことも起こらず平穏な学園。

そんなifな話でした!



一周年記念、お粗末様でした!(*´∇`*)

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