エピローグ
カルケドン白灰峡谷の東の空から、じわりと青白い朝靄が立ち込め、夜明けの光が白い絶壁を照らし始めていた。
「おおお! ウララ、凄いのう! まるで地面に落ちていく伝書隼のようじゃったぞ!」
微妙なたとえをしながらトニアは、ガンコから飛び降りて駆け寄り、琥珀色の丸い瞳を輝かせてウララの手を握った。
「これで、わなみたちの任務も無事に続けられるな! 完全勝利じゃ!」
「ええ。機密の漏洩は1ミリも発生していません。当方の『特命委任執行書』も、完全に回収されました。本作戦の要件は全てクリアされました」
ウララは満足げに───といっても表情は1ミリも動いていないが、雰囲気で───銀の小筒を胸元のホルダーへと静かに収めた。
しかし、その安堵の瞬間、最後尾からアインを降りて歩み寄ってきたマニラが、瞬きを排したペールブルーの瞳をスッとトニアに向け、論文調の無機質な抑揚で宣告した。
「目標の完全排除、ならびに機密オブジェクトの回収プロセスを完了。これより、本フェーズにおける最終残余タスクを執行します。対象トニア。第一節における機密コード『クッコロ騎士団』口外に対するペナルティ(最大定格出力における物理的頭部ナデナデ、ならびに肉定的拘束を伴う膝枕の刑)の執行プロセスを、直ちに開始します」
「了解しました。当方も共同執行者として、ナデナデの定格出力を最大値へと固定します」
ウララが、無表情のままマニラの隣へと静かにスライドした。
「ひ、ひえええ! 待て! 勘弁してくれ! ――おわっ、離せ! 離すのじゃ、我儕は豪傑じゃぞー!」
トニアは下着姿のまま肩をすくめて暴れたが、ウララとマニラはそれを完全に無表情のまま、二人がかりで冷酷にホールド(肉体的拘束)した。
マニラが素早くトニアの頭部を自分の太腿の上へとラッチ(膝枕)し、ウララもその反対側から、白革手袋をはめた手で、トニアのアッシュブロンズの癖っ毛ショートボブを、頭頂部から毛先にかけて、一定の心拍リズム(一分間に七十二拍)で、執拗な速度でガシガシと、そして愛おしそうに───といっても表情は1ミリも動いていないが、雰囲気で───撫め回し始めた。
「う、うぅ……。我儕を……バカにするな、じゃ……」
トニアは顔を真っ赤にして地団駄を踏みながら、フガフガと怒りの声を上げてじたばたと暴れていたが、二人の無表情な偏愛の波に抗えるはずもなく、やがてその琥珀色の瞳を熱っぽく潤ませ、気持ちよさそうに目を細めて大人しくなっていった。
朝靄が白く光り始める美しいカルケドン白灰峡谷。
黒い生体ワックスで黒光りする三頭の巨大な馬蜘蛛たちが、その紅い複眼をピコピコと温かく明滅させながら、岩棚の上で繰り広げられる、冷徹で歪んだ偏愛の光景を静かに見守っていた。




