2、ほしいも
瀬本は笑いながらゆっくり立ち上がる。
俺はその姿を見ながら汗を滲ませた。
6月の癖にやたら暑い気配だ。
俺を追って自殺したってどういう事だ。
「瀬本。お前の今までの言葉からして...お前は俺を好きって感じに思えるんだが」
「そうですよ」
「は?」
「...私は先輩が好きですよ」
その言葉に俺はじわっと手汗をかいた。
それから俺は「...じゃあ前世から俺が好きなのか」と問いかける。
すると瀬本は頷いた。
そして俺を真っすぐに見つめる。
「私は間違いなく先輩が好きです。その為に自殺した筈でした」
「...」
「私は失った。先輩というかけがえのない存在をです。その事で自殺したら今に至りました」
「...」
俺は縁側の先にある空を見る。
それから汗を拭う。
そしてまた畳に倒れた。
すると瀬本も倒れてきた。
「先輩。私は先輩が好きで自殺しました。...だけどこうして蘇った。せっかくなので付き合いませんか」
「...すまないが俺はもうこりごりだ。恋愛はな」
「ですか」
「だな。...本当にすまないが」
「ですよね」
それから瀬本は起き上がる。
そして「お茶取ってきます」と返事をした。
そうしてから起き上がって台所に向かって行った。
俺はその背を見送りながら空をまた見た。
☆
「先輩。今日は楽しかったですね」
「...」
薄暗くなった世界で俺はお茶とお茶菓子を馳走になり。
そのまま表に出ていた。
早く帰らないとな。
家という存在に。
そう思ってから「...じゃあな。瀬本」と言う。
「はい。あ。先輩」
「なんだ」
「頭に何か付いてますよ。しゃがんで下さい」
「...?...ああ。すま...!?!」
気が付くと俺は瀬本に背伸びしてキスされていた。
俺は瀬本を突き飛ばす。
それから「何をしている!?」と言う。
瀬本は「すいません。我慢出来ませんでした」と謝る。
「キスしたくて仕方が無かった」
「...!」
「こうしてやっと手を伸ばしたら取れそうなんです」
「...」
俺は瀬本を見る。
瀬本はニコッと笑みを浮かべてから「回り道ですけど。あの女に関わるぐらいなら私が今すぐにでも貴方を貰いますよ」と笑顔を浮かべた。
「こうして私は好きって表現します。10年後とは違う。...私は貴方に好きって言います」
「...!」
「私は貴方が好きです」
その言葉に俺は無言になって踵を返した。
それから歩き出そうとした時。
「また明日会えますよね」と声がした。
門の先で。
「...ああ」
それから俺は歩き出す。
赤くなってしまう。
まさかあんな美少女が、瀬本が。
俺なんかを好いているなんて事が...あるのか。
☆
家に帰ってもぼんやりさっきの事を考えていた。
その為、俺は動いてから運動したりして...考えない様にしていた。
そんな事で寝てしまい。
翌日になった様だ。
俺はゆっくり起き上がり見開く。
「おはようございます。先輩」
「せも、瀬本!!?」
「はい。貴方の瀬本です」
何をしているんだコイツは!
思いながら俺は絶句する。
すると瀬本は「もーにんぐこーるです」と笑顔になった。
俺は汗をかく。
「よく家に入れたな」
「はい。「彼の彼女です」って言ったら家に入れてくれました」
「クソ...母さんめ」
「先輩。私は先輩が好きなので。...陥落させますよ」
そう言いながら何かを取り出す。
それはタッパーに入ったほしいもだった。
「これ民宿のほしいもです」と瀬本は言う。
「ほしいも...?」
「はい。これ昨日、私が作ったんですよ」
「あ、ああ。そうなのか」
「そうです。食べて下さい」
「...」
それから俺は瀬本からほしいもを受け取る。
そして食べてみる。
美味しいんだが。
正直そんな事より気になったのは何故コイツがこの場所に。
「なあ。お前俺を陥落させるって言ったな」
「言いました」
「...具体的には?」
「言いません。言ったら手の内を明かすみたいな感じですから」
そして瀬本は俺の横に腰かけてほしいもを食べる。
紅さつまという品種らしい。
美味しい。
「先輩。それでですね。レッスン1ですが」
「は?」
それからタッパーに入っているほしいものキューブ?をフォークで刺してから俺に「はい。あーん」と言ってから口を開ける様に要求した。
この野郎。
そう思いながら「良いって。1人で食え...」と言ったが。
「開けないと濃厚なキスをしますよ」
「ぐう」
そして俺の口にほしいもを入れた。
それから何を思ったか瀬本はそのフォークで自らの口にほしいもを入れた。
オイ。
「オイ。何を」
「間接キスです」
「そんな事は分かっているが...お前恥ずかしくないのかよ」
「?...今更恥ずかしいですか?昨日キスもしたのに」
「ぐう」
それから(1人で恥じらっているのがバカみたいだ)と思いながらほしいもを食べ終えた。
そして俺は手を合わせた。
すると瀬本が「じゃあ次は朝食です。ほしいもは量が少なかったので」と言う。
「お着換えしましょう」
「1人で出来るからな...」
「ですか?」
「当たり前だ!」
そして瀬本を追い出してから俺は着替える。
なんか女性にこうも迫られるのは。
アイツ以外には無かったしな。
耐性が難しい部分だ。




