1、風鈴の音
田山紗千は自殺した筈だったのだが。
何故か高校時代の過去に戻って来たらしい。
タイムリープというのか。
それが何故分かったかといえば28歳で自殺した筈だったが。
高校時代の制服で...公園に座っていたからだ。
落ち着いているのは...俺はそんな性格だったし。
しかも死んで良かったのにと思っていたから、である。
あの地獄を見た最中で死ねば良かったものを。
「...」
俺はゆっくり立ち上がる。
それから夕暮れの公園を見渡していると「あ。先輩」と声がした。
ビクッとしながら横を見る。
そこに瀬本結奈が居た。
優しげな瞳で部活のバッグを持って体操着姿で俺を見ている。
「ああ。瀬本か」
「はい。...何しているんですか?」
「...黄昏てた」
「はい?」
瀬本結奈は訳も分からずな感じで俺を見る。
俺は苦笑しながら「家に帰る途中か」と瀬本に聞く。
すると瀬本は「はい。部活終わりです」とニコッとした。
俺は「そうか」と話してから沈黙する。
「?...先輩。朝より元気なくないですか?」
「...気のせいだ」
「気のせいっていうか...そうですか?」
「ああ」
それから俺は空を最後に見上げてから「...家に帰るのが億劫だな」と言う。
正直家に帰ったところで...。
そう思っていると「じゃあ私の家に来ます?」と瀬本が言った。
俺は「は?」となりながら瀬本を見る。
「何だか分かりませんが今の先輩を放って置くのは危険な気がします」
「...いや。良いぞ。放って置いても」
「嫌です。...という事で時間的にも遅いですし早く行きましょう」
「...」
俺は瀬本を困惑しながら見る。
それから俺は瀬本に引きずられ瀬本の実家に来た。
古民家。
10年後と変わらずの世界だった。
俺は瀬本を見る。
「ささ。早く」
「...いや。瀬本。そもそも俺は...」
「何ですか?先輩の顔が死にそうなのに放って置けませんよ?」
「よく分かったな」
「私が傍によく居るからですよ?」
「...」
懐かしいな。
コイツを1年前に不良集団から救って...そして仲良くなった。
だけど10年経ち俺はあの女を選んだ。
そして自滅した。
情けない話だ。
「先輩」
「何だ」
「何だか恋愛で悩んでそうな顔ですね」
「...恋愛...か」
「ですです」
「...いや。そんな事は無い。そもそも俺は恋愛したくないし」
「んー。そうなんですか?」
瀬本は唇に人差し指を添えて考える。
俺はその姿を見つつ「...どうした」と聞く。
すると瀬本は「私は構いませんよ?」と言った。
は?
「何なら私とお付き合いします?恋愛したくないのは困りますし」
「意味が分からん。...なんでお前と」
「...アハハ。まあそれは冗談ですけどね」
何だか瀬本の言っている事が訳が分からん。
思いながら瀬本を見ていると瀬本は「じゃあ家の鍵開けますね」と言った。
それから家の中に入る俺達。
☆
10年前だろうが変わらない景色だな。
考えながら古民家の中を見渡す。
実は瀬本の家は民宿を営んでいる。
その為、家がデカい。
「先輩」
「...なんだ。瀬本」
「くつろぎ過ぎです」
「良いじゃないか。畳なんて久々だぞ」
俺は畳の上で寝転がり外を見る。
やっぱり落ち着くなこの家の中は。
懐かしい香りがする。
瀬本は呆れながら俺の横に腰かける。
「先輩。...恋愛したくないってさっき言いましたよね」
「そうだな。それがどうした」
「私と恋愛も出来ませんか?」
「なんでお前と付き合わなくちゃいけない。お前は...人気者だろ。部活でも相当有能だし」
「...ですね」
「俺みたいな能天気なクソ馬鹿と付き合うなら有能なのと付き合えよ」
「...」
瀬本は黙る。
風鈴が縁側で鳴る中で俺は瞼を閉じた。
それから開けると横に瀬本が寝ころんでいた。
俺はそんな瀬本を見ながら「...」となる。
本当に童顔で可愛い顔だよなコイツ。
まあこれが人気なのだけど。
「...」
「先輩。そんなにじっと見つめられると...」
「あ、すまん」
「何しているんですか?乙女に対して」
「すまんって」
それから俺は寝たまま伸びをする。
そして反対方向を向いていると「先輩」と声がした。
俺は「ああ」と返事をする。
「...私、先輩の事が心配です」
「そりゃどういう意味で」
「先輩...朝より元気が無いからです」
その言葉に「人ってのはコロコロ変わるもんだ。元気が無い日もあるさ」と苦笑しながら背後を見る。
すると瀬本は「私だったらあの浮気女と違った世界を見せますよ」と言った。
ガバッとその場で見開き俺は起き上がる。
「...先輩。私は全て知っています。10年後に貴方が自殺する事も」
「お前...まさか」
「タイムリープしました。私も。先輩のお墓の前で手首を切って自殺してから」
「...」
俺は汗を流す。
それから瀬本を見る。
瀬本は「...復讐とは言いませんがあの女は私もイヤです」と言いながら俺を見る。
「私は10年後も今も先輩を助けたいです」
その言葉に俺達の間は風鈴の音しか聞こえなくなった。




