表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『毎朝、駅の公衆トイレで愚痴を吐いてたら、隣の個室に社長がいた件〜顔も知らない四人のデトックス・ダイアログ〜』  作者: beens


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/36

第29話:一ノ瀬の休日と、届かなかった「ノイズ」

土曜日、午後三時。

都心の超高層ビルにある、ミニマリズムを体現したようなコワーキングスペース。

一ノ瀬は、寸分の狂いもなくタイピングを続けていた。彼のデスクには、完璧な温度で淹れられたエスプレッソと、無駄な装飾を一切排除したノートPCがあるだけだ。

「……ふむ」

一ノ瀬は手を止めた。

現在のタスクは完了。予定より十二分早い。以前の彼なら、ここで次のタスクを前倒しして「最適化」を加速させていたはずだ。

だが、彼はふと、周囲を見渡した。

静寂。キーボードを叩く乾いた音だけが響く、完璧に管理された空間。

……物足りない。

あの、耳をつんざくような重機の咆哮。壁越しに聞こえる、若の的外れな叫びや、女王の鋭い叱咤。そして、師匠の深い笑い声。

「……脳が、あの非効率な刺激を『必要情報』と誤認しているのか」

一ノ瀬は自嘲気味に呟き、スマートフォンの画面を開いた。

連絡先の一番上。昨日、佐藤から届いていた「サード・プレイス」という名前の付いたプロジェクト案。

彼は、迷うことなくキーボードを叩き始めた。

同日、午後八時。

自宅で明後日の資料を見直していた佐藤のスマホが、短く震えた。

送り主は、一ノ瀬。


件名:プロジェクト案における致命的な欠陥について


佐藤君。

君の送ってきた『サード・プレイス』計画だが、ロジックが甘い。特に、防音設計に関するコスト計算が現場の『声の反響』を考慮していない。


私が在籍中に収集した、君たちの『洗浄音の周波数データ』を添付する。この周波数は、人間の脳をリラックスさせる1/fゆらぎに近い特性を持っていることが分かった。

これを『環境音』として正式にロジックに組み込め。そうすれば、役員会も認めざるを得ないはずだ。


追伸:

そろそろ、一番個室の汚れも目立ち始めている頃だろう。……無駄のない週末を。


「……一ノ瀬さん」

佐藤は、思わず吹き出した。

あんなに「無駄だ」と切り捨てていた洗浄音を、いつの間にか分析し、味方につけていたなんて。

添付されたファイルを開くと、そこには一ノ瀬らしい緻密なグラフと、一番最後の一行にだけ、小さくこう書かれていた。

『ノイズのない世界は、死んでいるのと同じだ』

「……よし。月曜日、見せてやるよ。俺たちの音楽を」

佐藤はスマホを閉じ、大きく伸びをした。

解体完了まで、あと十四日。

いよいよ、物語は運命の「最終週ファイナル・ウィーク」へと突入する。

更新通知を受け取りたい方は、ぜひブックマークをお願いします!

「続きが気になる」「面白い」と思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ