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特別編:銀の刺繍と古い綿
佐藤誠の土曜日は、いつもより少しだけ丁寧な洗濯から始まった。
ベランダに干されたのは、一週間を戦い抜いた安物のワイシャツ……そして、その横で春の風に揺れる、真っ白なシルクのハンカチーフ。
社長から贈られた「M.S」の刺繍が、日光を反射してキラリと光る。
「……身の丈に合わないよなぁ」
苦笑しながらも、佐藤はその手触りの良さに、少しだけ誇らしさを感じていた。あの個室で「師匠」からもらった言葉を反芻する。
『自分を愛せない者に、他者を導くことはできん』
佐藤は初めて、自分のために少し高い豆でコーヒーを淹れた。
同じ頃、徳川社長は書斎で、佐藤から返ってきた古い綿のハンカチを眺めていた。
洗濯の香りがするその布地は、社長という孤独な椅子に座る彼にとって、どんな勲章よりも「人間」を感じさせるものだった。
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