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王都の汚物ハルバードと最悪の呪術師アウロラ

「まおうじょうには、たくさんのしかけがあった。たとえば、まものをたおさなければ、でられないへやとか、ふじょうのまほうをつかえないと、どくにかかるゆかとか……」


 ゼロスは、実際に魔王城で経験してきたことを語る。フェニキア王は、真っ白な髭を梳きながら話を聞いていた。静まり返る謁見の間。王の質問は、キャロルへと向かう。


「浮上の魔法を使える魔法使い……お前はカーラーンの村出身か?」

「――!」


 キャロルが頷いた。

 彼女は仮面で目が見えないから、フェニキア王ではなく、妃の方を向いている。

 ゼロスとキャロルが出会ったカーラーンという村は、魔法使いのみが暮らしていた。特殊な加護のある村として、王都では周知のことである。

 ……とまぁ、いろいろと説明がしたいのか、身振り手振りをするキャロルであったが、全く伝わらない。妃は彼女の動きを見て、「ふふ」と馬鹿にしたように笑った。


「なんだ、いまのわらいは!」

 

 ゼロスが一歩前に動くと、鋼鉄の鎧を着た騎士たちが一斉に槍を彼の方へと向ける。槍の音が聴こえたのか、キャロルは動きを止めて両手をそろっと挙げた。何となくだが、自分のせいでこんな状況になっていると気づいたのであろう。


「血の気の多い田舎者め。頭が高いわ」

「くっ……!」


 ゼロスは妃の言葉に唇をかみしめて手を挙げた。馬鹿にされたキャロルが折れたのだ。これ以上、彼女に泥を塗ることはしたくない。そんな想いを知ってか知らずか、フェニキア王は、騎士たちに定位置に戻るように指示して、質問を続ける。


「ゼロスとやら、この者とは如何にして出会ったのだ」


 フェニキア王は、まだ両手を挙げているキャロルを指さした。


「はなせばながくなる。だが、カーラーンのむらに、しゅうげきがあったとき、おうとからのえんぐんが、こなかったのをしっている」

「ふむ」


 ゼロスの厭味にフェニキア王は、一言で応える。王の質問はいよいよ、ミスリルの仮面について触れられた。ゼロスはふてくされながら、ありのままを話す。


 魔王城に居た四体の魔物を倒した部屋の奥に、怪しげに輝く宝箱があったこと。それを開けた瞬間に二人とも異なる呪いに掛かったことを。それを聞いて、フェニキア王が「ふむ……」と大きく唸った。


「……そのような呪術的要素を付加できるものを、知っておる」

「ほんとうか!」

「――!」


 ゼロスは、その場で大きな声を出した。キャロルは突然の大声にふらっとしてしまう。それを支えるゼロスの小さな手。このような呪いを掛けられるアイテムを創ることが可能な者とはいったい誰なのか。


「魔王ハルバードを生んだ、最悪の女呪術師、アウロラだ」

「アウロラ?」

「――?」


 聞き覚えのない名前に、ゼロスとキャロルは、首を傾げる。


「これは内密にしておいて欲しい……お前たち、下がれ」


 フェニキア王がそう言うと、騎士たちは槍をトンと付いて、その場から立ち退く。妃は、目をスッと閉じて、何も聞いていないような仕草をした。

 ここから先は、どうやら魔王ハルバードについて話されるらしい。


「約八十年前。三人の王の子どもが生まれた。その次男がハルバード。奴は誰よりも己が力を求め、兄を殺した。そして自分こそが王になると、自らの軍を造り王都に奇襲をかけたのだ。幸いそれは失敗に終わる。その後、ハルバードを謀反を企てた部外者(よそもの)として、その死体を晒した。全て終わった……はずだった……」


 フェニキア王が、身につけている翡翠の指輪を眺めながら、両手をぐっと握りしめる。その目は、恨めしそうに、謁見の間の大きな扉の方に向いた。まるで招かれざる客を見ているかのようである。


「なんとなく、さっしがつくぜ。アウロラっていうおんなが、からんでくるんだろ?」


 ゼロスの言葉に、「そうだ」と答え、フェニキア王が話を続けた。


「最悪の女呪術師アウロラ。奴はハルバードの死体を研究のために使いたいと直接王に申し出てきた」

「なんのために、したいなんか、つかうんだ?」

「……不老不死の実験のためだ」

「ふろうふし?」

「――?」


 フェニキア王が話した内容はこうだ。

 呪術師アウロラは、(まじな)いのなかでも、特に幻術に長けていた。彼女が人生を懸けて研究していた分野は“不老不死”。彼女の才能を認めていた王は快くハルバードの死体を渡す。

 王都の汚物であるハルバードが、王都の研究によって歴史的快挙を挙げられたなら、それでよし。もし失敗しても、事実を隠せるのならばそれでよし。


 そう思っていたからだ。


「ふろうふしのじっけんは、うまくいったのか」

「アウロラは、成功と失敗を同時にした」

「せいこうと、しっぱい?」

「――?」


 一度死んだハルバードは、蘇り、人間ではなくなる代わりに、永遠の命を手に入れてしまったのだ。その姿は、額にユニコーンのような一角と、コウモリのような大きな羽がある。皮膚は青くなり、瞳の色は血のように紅かったという。

 これが魔王ハルバードが誕生した由来である。


「まて。アウロラはどうなったんだ」

「……何をしても死ななくなってしまった。奴は自分から専用の地下牢に籠っている」

「いまもいきているのか!?」

「あれを“生きている”と言って良いのか分からんがな」


「――?」


 キャロルが、王の声のした方を向いて、不思議そうに首を傾げる。

 彼女も質問したいことがあるようだが、仮面が邪魔をしてうまく伝わらない。こうなればジェスチャーだ。キャロルが人差し指と中指をうまく使い、「階段を降る人」を表現する。

 そして、お辞儀をした。その動きから、おそらく、


(アウロラに会いたい)


 というようなメッセージが浮かぶフェニキア王とゼロスであった。妃は眠ったように目を閉じている。キャロルの動きを見た王は、考えた素振りをしながら髭を梳いていた。


「もし奴の(まじな)いならば、ミスリルの仮面やお前の身体に掛かった呪いも、解けるかもしれぬ。よかろう。アウロラに合わせてやる。この事を内密にするのであれば、お前の友人の命も確証しよう」

「ひとじちにしてたってのか、セフィロスを!」

「従ってもらうぞ、ゼロス。これが王都のやり方だ」

「……くそっ!」


 ゼロスはセフィロスの心配をした。今頃どこで何をしているのか。気がかりで仕方なかった。そんな彼の顔を、キャロルが手探りで触る。


「なんだ、キャロ……!」

「――!」


 びろーんと伸ばされたゼロスの柔らかいほっぺた。緊張感が一気になくなる。彼の情けない声に目を閉じていた妃は、片目を開き、目の前の光景を見て、「はっはっはっは!」と腹を抱えて笑いだしてしまった。


「ルビー。はしたないぞ」

「申し訳ございません。でも貴方。俄かに信じられますか? こんな中途半端でへんてこな呪いを、あのような女が……」

「ルビー。お前はこの国について何を知っておる?」

「……先ほどの言葉、無かったことにしてくださいまし」


 妃ルビーから、再び笑顔が消えた。その表情は青ざめている。おそらくだが、知ってしまうと何かされるのであろう。処刑か、忘れるための拷問か。それとも……考え出すとキリが無い。


「それでは、アウロラ専用の地下牢へと案内しよう」


 フェニキア王がゆっくり王座から立ち上がった。妃は、目を閉じながら何かに怯えている様子である。王が翡翠の指輪を、シャンデリアに掲げた。それに合わせて、今までに見えなかった扉が一つ現れる。

 そこには、幾つもの(まじな)いと思われる文字が書かれていた。


「かくしべやか!?」

「――!?」


 キャロルが、ゼロスの言葉を反復したように驚いたような動きを見せる。


「あまり声を出すな。今から諸悪の根源に会いに行くのだ。欲しければ武器もくれてやる」

「アウロラは、こうげきしてくるのか?」

「……何もせんよ。面白いほどにな」

「――?」


 フェニキア王が椅子から離れて、扉の封印を解く呪文を唱えた。開かれた扉から深い階段を降りる三人。見つけた影は、それはそれは小さな、赤ん坊の姿をしていた……。

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