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最初のお相手はスライム6

 痛い痛い痛゛い痛いあづいだいいだいいいいだあ゛あいだいだあ゛あ゛ああああああ!?!?

「助けでぇ!! ティア! ティアぁあ゛あああああ!!?」

 どれだけ助けを求めても、ティアは震えながらこちらを見るばかりで動こうとはしてくれない。

 なんで! どうして!?

 とても耐えられない。ただ苦痛だけがボクを襲ってきている。気持ちよさなんて欠片もない。訳もわからず助けを求める事しか出来ない。それなのに、それですら意味を成してくれない。

 神様、どうしてですか。

 ボクの望みの世界に、送ってくれたのではないのですか。

 痛みに潰され、形にならない思考の一部で、なんとかこうなった原因を考えようと試みる。まるで走馬灯のように、断続的な記憶が蘇る。神様と話した時の事。ここまでのティアとの会話。

 ボクは、ちゃんと素直に求めてきたはずだ。

 触手が居る世界に行きたいって。

 気持ちよくなるためにこの世界に来たって。

 元の世界に居た時みたいに、隠す事無く。

 なのに……………………。

 ……。

 え? あれ……?

 うそ、待って。

 ボクは本当に、ちゃんと説明してた?

 神様と話してる時は、興奮で勢いに任せてた。ちゃんと“どんな”触手やモンスターが居る世界か説明した?

 ティアに、そういう意味だって一度でも言った? さすがにと思って、言葉を濁してなかった?

 そうだ。

 忘れていた。

 浮かれていていて気付かなかった。

 ボクにとっては、触手やスライムと言えばそういうやつだから!

 ゴブリンと同じように、触手やスライムにも、色んなやつが居る。

 ボクは…ボクはただの一度も“えっちなやつ”だって説明してない! 神様に要望も出してない!

 ちゃんと知ってたのに。ボクにとっての触手やスライムが、他とは区別されてた事を。それとは別に、人を傷つけ、殺してしまうやつらも居たって事を!

「いがああ゛あああ゛ずげでよ゛ぉお゛お゛ああああああ!!」

「ひっ……ぐ……や、ぁ……」

 ボクは、ティアが泣いている事に気付いた。

 そうか……。明らかにおかしいはずなのに、なんで助けてくれないのかって思ってた。

 ティアは最初から、こうなるってわかってたんだ。その上で、ボクに助けるなって言われた。想定していた通りなんだから、おかしいと思うはずが無い。

 だから、だからあそこまでしつこく、ボクの事を止めてくれていたんだ。そりゃそうだよ。あれほどボクに懐いて、好いてくれていたんだもん。

 今もきっと、本当は助けたいのを我慢してくれている。あんなに泣いてまで…。

「ぢが……ぅの……助げ……が――」

「ひっ……ひん……」

 なんとか冷静に伝えようとしても、とてもじゃないけどまともな声が出ない。事前に落ち着いた状態で、どんな事があってもと念を押した以上、こんな言葉じゃティアには届かない。ティアには、これを見越して助けるなと言った。そう伝わっているはずなんだから当然だ。

 ……そんなぁ。

 こんな……こんなひどい目に遭うために、異世界転生した訳じゃない!

 なんだよこれ!? こんな事ってある? ボクが悪いの?

 転生後の死因、「脳内ピンク色によるすれ違い」って……そんなやつどこにも居ないよ!

「あ゛……ぐ……」

「ジュンさん……っ」

 駄目だ。

 痛みが鈍くなってくるのって、本当に駄目なやつだ。力も入らない。

 こんな事なら、恥も常識も捨て去ってしまえば良かった。異世界なのをいい事に、もっと自由に……。

 また転生できたりするかなぁ。……無理だよなぁ。確か徳を積んだ魂がとか言ってた。今のボクに徳とか欠片も無いよー……はは……。

 視界が暗くなっていく。それでも、助けを最後まで求め続けた。

 だってこんなの、諦められる訳が無い。誰か……。誰……か……。

 暗く……暗く…………。

「はあああああああ!!」

 瞬間、視界が白く戻った気がした。聞こえたのは、初めて聞く男の声。

「えっ!?」

 気付くと、身体を呑み込んでいたスライムが綺麗に消えている。それだけは、なんとかわかった。

「す、すごいいかずち……あっ!? あ、あなた誰ですか! 困ります! これじゃあせっかくの、ジュンさんの覚悟が……」

 違う。違うんだよティア。

 でも、誰かが助けてくれ……た?

 こんなところに? 偶然?

「? よくわからないけど、この子を早く治癒魔法が使える人のところまで連れて行かないと」

「ち、違うんです! あの」

「落ち着いて。とにかく行こう。このままじゃ死んでしまうよ。君も抱えさせてもらっていい?」

「う……あのっ」

「ティ……ア……いい、んだ」

「え?」

 ボクは、なんとかそれだけ口にした。

「えっ? えっえっ?」

「……行くよ?」

「ま、待ってください! わかりません……わかりませんけど、治癒ならわたしが出来ますから!」

「! ……君が? なら、早く助けてあげて」

「は、はい!」

 身体の感覚が戻っていく。

 でも、この世界に転生してきた時とは違う感じだ。当たり前か。

 あれ、ボク……いつの間に目を閉じてたんだろう。少し気も失ってたのかな……。

「ジュンさん! ……よかったぁ」

 目の前には、泣き顔のティア。

 なんて事だ。誰だティアを泣かせたのは。

 それから……おそらくさっきの声の主だろう男が、少し離れたところに立っている。

 すごい。金髪だよ金髪。いや、自分の居た世界……どころか国では珍しかっただけで、これくらいは普通か。青年って程にも見えないけど、おじさんではない。微妙な歳に見える。

 とにかく、ボクは……。

「助かっ……た?」

「ジュンさんっ!」

「あぷ」

 今朝ぶりに、ティアに強く抱きしめられる。身体が痛いけど、さっきまでに比べれば全然大した事はない。治癒魔法ってすごいんだな。

「うん、大丈夫そうだね」

「あ……えと」

 ティアが、ボクと男を交互に見る。少し困惑してるみたいだ。確かに訳がわからないよな。

 ちょっときついけど……ボクが話すしかないか。

「助けていただいて、ありがとうございました」

「あっ、ありがとうございましたっ」

「うん、本当に無事でよかった。……本当にね」

 なんだろう。いやに言葉が重い気がする。確かに命がかかってたけど……それだけか?

 ……考えてもわかるわけないか。

「よかったら、近くの村まで送ろう。多分、君達が来た村だと思うんだけど」

 それはありがたい。

 さすがに、落ち着く時間が必要だ。あんな風に旅立っておいて、ちょっと申し訳ないけど……。背に腹は変えられない。

 見ず知らずの命の恩人に、甘えてしまおうと思った時だった。ティアが先に答え始める。

「お願いします! まだちょっと、よくわかってないんですけど……とにかく助かりました!」

「うん。どういたしまして」

 うん、ボクも後でもう一度お礼を――

「ジュンさんを助けてくれて、ありがとうございます! かっこよかったです!」

 遮ったのは、男を褒めるティアの台詞。

 ……は?

「いいです」

 口からとっさに、そんな言葉が出ていた。

「へ?」

「ん?」

「送っていただかなくて結構です。ボクらだけで大丈夫なので」

「えっと……」

「ジュ、ジュンさんっ。何言ってるんですか!」

 自分でもよくわからない。でもなんだか。なんか……。ティアがこいつをかっこいいって言った時、ムカッとした。

 でも、こいつは無理やりにでもボクらを送るだろう。そういうタイプの人間だと見た。だからこれは、せめてもの反抗だ。

 そう、思っていた。しかし、しばらくボクを見つめていた男はこう言った。

「……わかった」

「……え?」

 え? 本当にわかったの? それもこんなあっさり?

 今度は自分が困惑していると、男はにこりと笑った。

「本当に大丈夫そうだからね」

 な、なんだこいつ……見透かされてるみたいで怖い!

 確かに本当に平気だけど、さっき死にかけたかわいい女の子やぞ!? それでいいのか金髪!

「代わりと言ってはなんだけど、道中のゴブリン達は、全て対処しておくから。それでも帰りは気をつけて……もう危険な事はやっちゃだめだよ?」

 男は最後に、ボクだけじゃなく、なぜかティアの方も向いて、優しい口調でそう言った。いやまあ、二人に言った……のかな。

 その言葉を最後に、男は本当にボクらを置いて去って行った。

 ボクとティアは、二人でしばらくボーっとしてしまった。何者なんだあいつは……。

「あいつ……今後も何かと障害になる気がする」

「ええ!? し、失礼ですよジュンさん! 助けていただいたのに!」

「……」

 いやそれはそうなんだけど。

 うん、落ちついたら、今の男の怪しさが際立ってきた。そもそもここに現れただけでだいぶおかしい。

 それに……。

 今後、ちゃんと“そういう事”になれた時にも、邪魔をされるかもしれない。それは困る!

「あいつは宿敵である可能性が……」

「なんでですか!?」

 ああ、とにかくもう。

 今はもう少し、休もう……。

「ジュンさん?」

 なぜだかわからないけど、とにかく身体が気だるげだった。それに身を任せ、ボクはそっと意識を手放した。

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