最初のお相手はスライム5
一歩、また一歩と進む。
その度に、過去に脳内でなりきった時の感情が、一つ、また一つと蘇ってくる。あんな事や、こんなとんでもない事までされてしまった時もあった。スライムだけでも、その数は多い。
まだ始まってもいないのに、すでに心臓が破裂しそうだ。
それでも、もう待ってはくれない。向こうも気がついたのか、こっちに向かって動いている。距離はあっと言う間に無くなり……。
ついに、指先が触れた。
ピリッとした痺れ。触れてはいけない物に触れた気がした。同時に、なぜか力が抜けるような感覚。
思わず手を引き戻そうとするが、それよりも早く、手がスライムに呑み込まれる。
「えっあっ」
戸惑っている間に、呑み込まれた部分は肩にまで広がり――。
それに気づいた時には、もう遅かった。
「い゛――あ゛あ゛あ゛あ゛ああ!?あがあ゛ああ――あああああああ゛あ!!?!?」
「いやああああああああ!!」
そこには、二人の半狂乱した悲鳴だけがあった。
こんな……こんな事がこの世界にあっていいのですか?
それはティアにとって、あまりにも衝撃的な状況だった。光景、だけではない。むしろその壮絶すぎる叫びが、悲鳴が、助けを求める声が、ティアの全身に突き刺さるようだった。
あたりまえです。こうなるのはわかっていました。それでもわたしは、少しでも長い間一緒にってついてきたんです。でも、こんな……。
ずっと名前を呼ばれています。でも、わたしはジュンさんに言われた事を忘れていません。その覚悟をした上で、残ったんです……から……。
ティアの目から、涙が零れ落ちていた。
ジュンさんは言いました。この為にこの世界に来たんだって。
ジュンさんは言いました。絶対に手を出しちゃいけないって。
……やっぱりひどすぎますっ。
こんな……こんなこの世の物とは思えない程の叫び声……。
わたしが過去に見た争いの最中でも、聞いた事がありません。
わたしが結界の中で、寂しくて、押しつぶされそうで泣いてしまった時も、ここまでひどい声は上げませんでした。
ジュンさんの言いつけを無視してでも、助けたい。でも、絶対、しちゃいけない……。
だってこれがジュンさんの目的なら、必ず意味のある事のはずなんです。こうする事の意味が。
わたしが、結界で何年もの間過ごさなければならなかったように……。
わたしなんかでは、わからなかった事もあります。
気持ちいいというのは、そういう使命感が達成される事……なのでしょうか。
でも、そう言ったジュンさんの顔は、悲しい笑顔ではありませんでした。もっと純粋に望んでいるように聞こえました。
そっ、そんな訳ありません。
でも、まさか……。
これ程痛そうなのに。これ程つらそうなのに。全身を釜茹でにされるより、もっともっとひどいはずなのに……。
これを本当に望んでたなんて……事が……?




