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変化する魔女

リクエストにあったエド君視点で。

 最近リアがやや大人しくなっている気がする。


 無邪気で純真無垢でマイペースな破天荒、その癖繊細で掴み所を把握するのに時間がかかる少女。それがエドヴィンの妻に対するイメージだ。


 決して大人しい少女ではない。

 気儘に森を出歩いたり丘で昼寝したり、かと思えば徹夜で調合したり本を読みふけったり、やる事なす事あまり一貫していない――というよりは自分の為にアクティブに動く少女だった。


 だが、最近は、ちょっと大人しい。

 勿論森に出掛ける事はあるがお昼寝はしないし、調合も無理はしなくなった。読書はまあするものの、読むものが何やら町で流行りらしい小説を熱心に読んだりと、やや落ち着いた。


 年齢的には相応になってきたし淑女としてはよい傾向なものの、どうしたのか心配になってくるのは普段の言動が言動だからだろう。


「リア、最近何か変じゃないか」

「変?」


 何が? とでも言いたげに小首を傾げると、以前よりも伸びた色素の薄い髪がさらりと肩から零れた。

 昔は寝癖もそのままにしていたのだが、エドヴィンの指導あってか整っている為に、ほんのりと柔らかに波打つ髪は均一だ。……まあ今日はエドヴィンが整えた為に当然なのだが。


 変、というのも失礼だったと思い直したエドヴィンは、どう返したものかと答えあぐねる。

 この変化をどう例えればいいのか。

 行動が落ち着き身嗜みにも気を付けるようになった。


「……何というか、女の子らしくなったというか」


 言って直ぐに失言に気付く。

 これでは普段が女性らしからぬ言動をしていると言っているよあなものだと。しかし、これがたとえてしっくりくるのだ。


 幼くあどけない無垢な少女が、大人の片鱗を見せるようになったというか。急に女性らしい振る舞いをされて自分が戸惑っている、のかもしれない。


 エドヴィンの失言に、リアは気分を害した様子はない。

 寧ろ「よく気付いてくれたね!」と満面の笑みが物語っている。


「ふふ、実は町の皆からもっと落ち着きを持ちなさいとアドバイスを貰ったの」

「アドバイス?」

「そうそう。あんまりぴょこぴょこ動き回っていたら旦那さんが心配するからって。一人であまり出歩いたりしないとか、身嗜みには気を付けるとか、調合も無理しないとか、兎に角エド君に心配かけないようにしてるの」


 ……町の人間にもリアの破天荒さは伝わっているらしく、余計とまでは言わないがどうやらお節介を焼いてくれているらしい。


 気持ちは分からなくないのだ、のほほんまったりふわふわしているのがリアだから、心配にもなるだろう。……恐ろしき魔女として恐れられているより世間知らずのゆるふわ魔女様として捉えられているのは、喜ぶべきか嘆くべきか。


 ひとまず本人は気に障っていないようなので、少しだけ安堵した。


「……それに」

「それに?」

「……エド君、も、女の子らしい方が良いかなあって」


 やや恥じらうように見上げてきたリアのはにかみに、一瞬絶句したのはエドヴィンだからこそだろう。


 基本的に、リアは情緒が薄い……というよりはやや発達が足りていなかったのだ。幼少期の迫害はオリヴィアと過ごした数年間では相殺にならなかったらしく、同じ年頃の少女より決定的に羞恥などが足りなかったのだ。


 それがまあ、こうだ。

 結婚して愛され満たされ幸福を知ったリアは、乾いた土が水を吸い込むように色々な事を学習していった。

 本来はもっと前に知っておくべきだった夫婦の概念もそうだが、年頃の娘らしい情緒を漸く得たとでも言おうか。


 つまり何が言いたいのかと言えば、はにかむリアは可愛いで間違いないであろう。


「……どんなリアも、可愛いと思うぞ」

「うん、エド君ならそう言ってくれると思ってたの。……ただ、ちょっと落ち着いた方が、魔女としても侮られないかなっていう打算もあったんだよ」

「……まあ、リアは良くも悪くも魔女らしくないからな」

「むむ。……これでも、魔女として振る舞う時は魔女っぽくしてるんだからね!」


 むぅ、と唇を尖らせて不服も露なところは可愛らしくて、ついつい撫でて甘やかすと紅玉はとろりと溶けて幸せそうに揺れる。

 確かに、この分では魔女らしいというよりは愛くるしい少女だろう。


 魔女らしいリアなど想像出来ないものの、そもそも魔女といっても知っている人間が個性的なので、エドヴィンとしては画一された魔女らしさなどないと思っているのだ。


 ただ、アトリエで一人黙々と釜をかき混ぜている姿は、童話に出てくる魔女のようだがな、とひっそりと苦笑。他人に見せない時の方が所謂魔女らしさが出ているのは、なんともリアらしい。


「……まあ、無理して大人しくする必要はないからな。俺は、どんなリアでも好きだし」


 結婚するまでのリアも、ちょっと艶っぽくなったリアも、どちらも愛おしい。

 艶っぽくしたのは間違いなく自分であろうから優越感もある。けど、どんなリアでもエドヴィンはやはり好きだし可愛がる自信があった。


「私もエド君すき。優しいエド君も、照れ屋さんなエド君も、意地悪なエド君も」

「意地悪な事があったか?」

「……夜は意地悪な時あるもん」


 すり、とエドヴィンの二の腕に頬を寄せてちょっと拗ねたように唇を尖らせているリアが何を言いたいのか、直ぐに察したエドヴィンが指の腹で頬を撫でる。

 びく、と微弱に体を震わせたリアの反応は過敏とも言えるものの、自分がそういう風に仕向けているので悪くないものがある。たっぷり可愛がったお陰だろう。


 ちょっぴり頬を染めたリアは、本人が思っているよりもずっと女性らしい。

 ……何も意識しなくても、大人びては来ているんだよな、とエドヴィンはひっそり笑って、愛しの妻の手を握った。


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