16話
この回ではそんなにストーリーは
進まないです。
なので、軽い気持ちで読んでいただけたら
いいなと思いますm(_ _)m
「―――で、やっぱこうなるよなぁ」
セイン(本名ユベル)の家から抜け出した優人は、目の前に出来上がっていた人だかりを見て面倒くさそうにため息をつく。
「当たり前だからね!?
あんな大きい屋敷1つ粉々にしておいて、どうしたらこうならないと思えるのよ!?」
「いや、まあその場の流れといいますか、人が来る前に逃げれるかな〜って」
「そんなこと出来るのユートだけだから!!
ナナ達もいること完全に忘れてたでしょ!?」
「ほら、イリスは俺が担げはいいし、ナナなら何とかなるかなって」
「ならないから!!」
と、言い出したらキリの無いことを優人とナナは言い合う。
集まった人だかりから「何だ何だ?ケンカか?」というヤジが聞こえてくるが、二人の耳にはどうやら入っていないらしい。
「……2人、夫婦みたい」
「「!?」」
後ろで二人の言い合いを見ていたイリスは、見たままの感想を述べたのだが、それが意外にも二人に大打撃を与えた。
「え、いや、ふ、夫婦なんて、イリスちゃん、そう言うのじゃなくてね?」
顔を真っ赤にし、あたふたしながら言葉を紡ぐナナ。
「そうだぞイリス?
もし夫婦だったら言い合いなんて起きない、一方的に勝ってしまうからな」
「何その理由ひどい!!?」
「あ、そっか」
「納得なの!?
ねえイリスちゃん、そんな理由でいいの!?」
イリスを交えてナナイジりを二人が始めていると突然、人だかりの方から渋い声が聞こえてくる。
「おい何だ、帰ってきたと思えばこの人だかり。なんかあったのか? 事件か?」
人をかき分け、優人達の前に現れたのは、40代ぐらいの男だった。
「あ、ギルドマスター、帰ってきたんですね」
「ん? そこの嬢ちゃんはナナちゃんじゃねーか、元気にやってたか?」
「はい!ナナはいつも元気です!」
そうかそうか、と男はニカッと笑う。
「で、何があった?
ここはセインの野郎の家だろ、何でも粉々なんだ?」
「それは俺が説明します」
「お前は、うちのギルドの奴か?
見たこともない顔だから、新人なのか」
「ええ、3ヶ月ほど前に加入しました」
「あー、なら知らんな。俺がここを離れたの半年前だし」
そうかそうか、もう半年たったのか、と男は神妙な面持ちで頷く。
「一つ先に聞くが、これをやったのはお前か?」
「はい、俺一人ですね」
優人は隠す必要も無いと感じ、正直に答える。すると男は驚いた顔で言葉を発する。
「お前ひとりでか?
……ありえねえ。お前、ランクは?」
「Cです」
「はっ、たった3ヶ月でCって冗談だろ?
ギルドの連中は一体何を………
まあいい、立ち話もなんだ、ギルドに来い」
そう言い、男は強引に三人を連れて行った。
―――――――――――――――――――――――
「とりあえずまあ、そこに座ってくれ」
男に案内されたのは、ギルドの最上階にある特別来客室だった。
優人達は男の腰掛けたソファの対面にあるソファに、指示通り座っていく。
「――――――で、何でイルミがいるんだ」
優人達の座っているソファの近くで、イルミがちょこんと立っていた。
「いえ、状況を説明するなら、職員の私もいた方がスムーズに行くかと思いまして」
「そうか、ならまずはイルミの話からしてくれ」
「分かりました」
そう言い、イルミは誘拐の件についての話をし始めた。
「――――――という訳で、ユートさん達にも緊急クエストを受けてもらいました」
イルミから一通りの説明を受けた男は、ふむ、と頷く。
「つまり、知り合いが誘拐されたこいつらにも緊急クエストを受けさせるために、この男をCランクにしたって事でいいんだな?」
「はい、ユートさんは以前1人でオーガの集団を討伐し、オーガキングすら討伐されたので、Cランクでも十分やっていけると思いました。だからその場で更新をしたのです」
「まあ、聞く限りだとかなりの実力者らしいな。
オーガキングを倒せるのにCランクじゃ、逆に申し訳ないところ、か」
男は何とも言えない様子で、優人の方へ向く。
「ユートって言ったか?
次はお前から話を聞くが、質問形式でいいか?」
「ええ、いいですよ」
「ならまず、誘拐されたその子がいたのはセインの屋敷で間違いないか?」
「はい、間違いないですね」
「次、犯人はやっぱりセインだったのか?」
「それは少し答えにくいですね。
正確にはセインに成りすました魔族でした」
「なっ、魔族が!?」
「それに、セインと共にいた男二人も魔族でした」
「セインといたとなると、マインとオッドか。
それは本当なのか?」
「さっき職員からセインの屋敷の庭に何体もの魔族が倒れていたとの報告がありました」
イルミがすかさずフォローを入れてくれる。
「そうか………結構大事じゃねーか。
イルミ、緊急会議を開くからギルドにいる職員全員を会議室に連れていってくれ」
「分かりました」とイルミが退室する。
「さてユート、色々と疑ってすまんな。
ちなみに、セインに成りすましていた魔族の名前は何という?」
「確か、ユベルだったかと」
「聞いたことは無いな、新しいヤツなのか?
まあいい、とりあえずはお前達にはこれ以上聞くこともないだろう、時間を取らせてすまなかったな、もう帰ってもらってもいいぞ」
「分かりました、何か聞きたいことがあればまた」
「ああ、その時はよろしく頼むわ。
……そういえばユート、お前は新人だったな。自己紹介しておく、俺はガラン、ここのギルドのギルドマスターをやっている。たまに居なくなるが基本はここの部屋でくつろいでるから、何かあったらまずここに訪ねてきてくれ」
優人はガランと握手を交わし、ギルドを後にした。
―――――――――――――――――――――――
「いやー、緊張したねー」
「威圧感すごかった、ですね」
とりあえず一度イリスの家に戻る事にした三人は、道中でガランの事を口々に語り出した。
「まあ、あの年まで生きてギルドマスターなんてやってたら、嫌でもあーなるんだろ」
「えー、ユートは怖くなかったの?」
「そりゃあ驚きはしたけど、怖いとは感じなかった」
「イリスちゃんどうしよ、ここに怪物がいるよ……」
「さすがユートさん、強いですね」
「まさかのユートの味方!?
ねぇイリスちゃんー、ナナに冷たくないー?」
「気のせいです」と、イリスは無表情で答える。
「そういえば、ユートのあの魔法なに!?
初めて見た魔法ばっかりなんだけど!?」
「私も、初めて見ました」
「ん、あれは合成魔法って言うやつだ。イリスの家の魔法書に書いてあったから覚えた」
嘘は言ってない、読んでたら勝手に覚えたのだから。
「嘘、そんな短時間で覚えたの!?
ユート、どれだけ規格外なのよ………」
「おお、ナナは規格外なんて言葉を知ってたのか」
「ちょっと!?
いくら何でもそこまでバカじゃないから!?」
「でもユートさん、本当にすごいです」
そんなに褒められると照れるな、と優人は恥ずかしがって頭を掻く。
しばらく会話しながら歩くと、家にたどり着いた。
「はぁー、やっと着いたぁ!!
今日一日色々ありすぎて疲れた〜」
家に入るとナナはすぐにソファに倒れ込む。
「水持ってきますね」とイリスが昨日と同じように台所に向かう。
「ナナ、イリスの冒険者登録は出来たのか?」
「うん、バッチリだよ!!」
「それは良かった」と、椅子に座りながら優人はそう呟く。すぐに「お水です」とイリスが戻ってきたので、コップを受け取る。
「ねぇユート」と、ナナが口を開く。
「さっきの魔法といい、オーガキングの事といい、本当にユートは何者なの?」
「私も、気になります」
「そうだな、お前らになら話していいかもな」
そう言って、優人は自分の事について事細かに話し始めるのだった。
―――――――――――――――――――――――
「異世界から来た、ねぇ」
優人から話を聞いたナナは、あまりよく分かってなさそうだった。
「一つ、いいですか?」
「どした?」
終始真剣に話を聞いていたイリスが、優人に尋ねる。
「どうして、神様はユートさんにそんな事を頼んだんでしょう」
「さあ?たまたまじゃないか?
『神の気まぐれ』なんて、言葉があるぐらいだし」
「そんなもんなんですかね」と、あまりイリスは納得してなさそうだった。
「とりあえず、今は王国に行った方がよさそうだね!!
あそこなら色んな事が分かるし!!」
「そうだな」
優人とナナは目を合わせて頷き合う。
「あの……」
そんな二人を見て、イリスが落ち着かない様子で尋ねる。
「私も、ついて行っていいですか?」
「かなり危険な旅になるぞ?」
優人はイリスが付いて来そうな気がしていたので、そう聞き返す。
「私、もっと強くなりたい。
強くなって、お爺さんの見ていたものを見てみたい。
だから、ついて行きたい」
最近似たようなことを聞いたなぁと、優人は何か懐かしさを感じる。
「なら、一つ条件がある」
「なに?」
「ついてくるなら俺たちに敬語を使わないこと、絶対にだ」
「わかった」
イリスは即答する。
「そうか、ならよろしくな」
「……うんっ」
今までになく明るく笑うイリスを見て、優人はまた一つ信じてみたいものが増えたのだった。
次回から王国に向けて出発しますよ!
さらにラストでは優人が……!?
次回投稿11/1(火)23:00予定です
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