14話
「じゃあ、行ってくるねー」
「ああ、いってらっしゃい」
ナナとイリスは支度を整え、朝早いうちから街に出かけていった。
(さて、昨日の魔法書の続きを読むか)
二人を見送った後、優人は昨晩から読み進めていた魔法書を持ってソファに座る。
最初のページに魔法の原則について書かれており、
・魔法は魔法名を言ってMPを込めることで発動できる
・魔法の威力はMPの消費量に比例する
・MPを込めてる間は中断以外の動作が出来なくなる
・どれだけスキルレベルが高くても、魔法名を知らない魔法は使えない
とのことだった。
そして、その魔法書には火、水、氷、土、風、雷、光、闇の8属性全ての魔法について細かく記載されていた。
(この本一冊あれば本気で大魔法使いになれるな)
そして、昨晩で風魔法の所まで読み終えていたので、残りの3つの魔法について読み進めていく。
――――――――数時間が経過した所で
『スキル:火魔法を習得しました。スキルレベルが最大になりました。
スキル:水魔法を習得しました。スキルレベルが最大になりました。
スキル:氷魔法を習得しました。スキルレベルが最大になりました。
―――――――――――――――』
そう、8属性全ての魔法を習得したのだった。
(これは…………………チートと言うよりもはやバグに近い気がするんだが、良いのか?)
簡単にスキルを習得出来てしまう事が少し恐ろしくなったのか、優人は申し訳無さが込み上げてくる。さらに、その魔法書の最後の方に書かれているおまけ部分までしっかり読むと、
『特性:魔導王を習得しました。
スキル:合成魔法を習得しました。スキルレベルが最大になりました。』
と、アナウンス音がいつもと違う単語を響かせる。
(何、特性もこんな感じで習得できるのかよ…
しかもネーミング的に超チートっぽいし)
優人はステータスを開き、新しく手に入った特性に真理眼が使えないか確かめてみる。
すると、真理眼の効果は適用されたようで
――――――――――――――――――――――――
特性名:魔導王
効果:魔法をMPを込める動作なく発動できる(ただし消費MPは1.2倍)。
魔法の威力、速度を1.5倍にする。
スキル:合成魔法を覚える。
――――――――――――――――――――――――
(はいキタ超どチート………
何なの、俺を魔法兵器にでもしたいの?)
優人は深いため息をつき、新しいスキルにも真理眼の効果を適用した。
――――――――――――――――――――――――
スキル名:合成魔法
効果:2つ以上の魔法を掛け合わせて、新しい魔法を生み出す。
合成できる魔法は、スキルレベル以下の同レベル魔法同士に限る。
生み出した魔法に自由に名前をつけ、その名を言わないと発動できない。
威力は掛け合わせた魔法の威力の平均の1.5倍で、掛け合わせた魔法全ての属性を持つ。
――――――――――――――――――――――――
(ああダメだ、色々制約はあるけどこのスキルも超チートだった………………)
チート特性によって手に入れたチートスキルに、さらにため息をつく。
(しかし、名前を覚えないと魔法が使えないってのは面倒だよな、いや実際は楽なんだけど)
魔法書に書かれていた魔法名を照らし合わせると、かなりの共通点があることがわかった。
Lv1:〇〇ボール
Lv2:〇〇ウォール
Lv3:〇〇ランス
Lv4:〇〇ウィップ
Lv5:〇〇シリンダー
Lv6:〇〇ソード
Lv7:〇〇キューブ
という風に、Lv1〜Lv7までは魔法名に規則性があり、〇〇には火、水、氷、土、風、雷、光、闇のいずれかが入る。
Lv8以上はすべて規則性がないので地道に覚えるしかない、が全部合わせても24個なので本気で頑張れば一日で覚えれる量だ。
ふと、リビングの時計を見るとお昼までまだまだ時間があった為、外に出て魔法・合成魔法の訓練をすることに決め、優人は魔法書を持って玄関へと向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――
「ユート、大変!!!
イリスちゃんが、イリスちゃんが攫われたの!!
急いで助けにいこ!!」
お昼を少し過ぎ、合成魔法まで一通りの訓練を終えて休憩していたところに、ナナと一人の女性が家のそばまで駆け込んできた。そして、少し目を離した瞬間に攫われてしまった、とナナが半泣きになりながら状況を説明してきたのだ。
「ユートさん、お久しぶりですね」
「………イルミさん、お久しぶりです」
ナナが連れてきた女性―――受付嬢のイルミが、優人と挨拶を交わす。
「ユートさん、話はナナちゃんから聞いた通りです。
今回は街の中で行われた誘拐なので、ギルドからの依頼として、彼女の捜索が緊急クエストに加えられました。聞けばナナちゃんとユートさんの知り合いだそうですので、お二人にもクエストを受けて頂きたいんですが……」
「何か………問題でも?」
「ええ、緊急クエストはCランク以上じゃないと受けれないことになっているんです。
だから、今ここでユートさんのランクを更新させて頂きに私が来た、という訳なんです」
「そんな事が出来るのか?」
「ええ、その方法は教えて貰って来ています。ユートさん、プレートを出して貰えますか?」
優人は言われたままに収納からプレートを取り出し、イルミに手渡す。
「では、早速更新を始めますね」
そう言うと、イルミは腰に巻いたポーチからいくつか小瓶を取り出し、優人のプレートに中身をかけていく。
そして最後の一滴までかけ終えられると、プレートが強く光りだし、一瞬で元に戻る。
「………はい、更新終わりました。
ってえええ!?ユートさんこれは何ですか!?」
イルミが驚き顔のまま優人のプレートの表面を指差す。そこには
――――――――――――――――――――――――
ミカゲ ユウト :Cランク
モンスター討伐数:13582
クエストクリア数:2
――――――――――――――――――――――――
と、異常な数のモンスター討伐数が書かれていた。
「悪いが、今それを説明している時間はないだろ?」
「え、ええ、取り乱してしまってすいません。
これでお二人ともクエストを受けられますので、急いで捜索に向かってください。手続きはこちらで行っておきますから」
「すまん、助かる。
ナナ、とりあえず街周辺に異常はないか探してみるぞ」
「うん! 急ごう!」
優人とナナは、イルミをその場に残し急いで街まで向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――
(………………ここはどこだろう)
目を覚ますと、目の前にはイリスが見たこともない部屋が広がっていた。
「おや、目が覚めたようだね」
右横の方から、聞いたことのある爽やかな声が聞こえてくる。
「あ、この前の」
そう、その声の主は少し前に森の奥深くで出会った3人組の男の人の一人だった。
「そうか、僕の事ちゃんと覚えててくれたんだね。
僕としては最高に幸せな気分だよ」
忘れるはずもない。あの三人の中で唯一、異常なまでに危険な雰囲気を感じたのだから。
そこでイリスは、自分の身体が動かせない事に気が付き、自分の体を見る。
「え……………」
そこには椅子に裸で座らされ、鉄の鎖でぐるぐる巻きにされていた自分の体が目についた。
「……………何が、目的?」
イリスは冷静に、男に質問する。
「僕はねー、美しいものが大好きなんだよ」
それに対して男はそう答え、さらに続ける。
「そしてね―――――そんな美しいものが、絶望に顔を歪ませ、恐怖する所を見るのがもっと好きなんだよ」
これが、この男の本当の顔。
爽やかな雰囲気を纏う男から発せられる狂人的な言葉に、イリスは寒気を覚える。
「あの森で出会った時に君に一目惚れしちゃってさ。あれから君の周りを色々と調べさせてもらったよ。
そしたらビックリ、何と3ヶ月前に街から姿を消したあの男と一緒にいるんだもん、もうこれは神が僕にくれたビックチャンスだと思ったよ。
ナナちゃんには悪い事するかもしれないけど、まあそれぐらいは許してもらおう」
男はそう言うと、何も無い空間から漆黒の鎌を取り出した。
「………何を、するつもり?」
「別に、君に何かをするつもりは無いよ。
ただ、君と一緒にいたあの男、確かユート君だったかな、彼をここに連れてきてあげるよ。
まあ、首だけだけどね?」
口元を歪ませる目の前の男は異常すぎる、そうイリスは直感した。
自分を救ってくれた彼も雰囲気からしてかなりの手練である事をイリスは感じ取っていたが、この男からはそれ以上に強大な狂気を感じ取ってしまった。
(このままではもしかすると自分のせいでユートさんが殺される。
それは、絶対に嫌だ!!
もう、これ以上自分の前で誰も死んで欲しくない!!)
そんな事を思ったが、現状何も出来ない自分に、イリスは不甲斐なさと絶望感に押し潰されそうになる。それを見ていた男は不敵に笑い、
「そうかそうか、あの男が殺されるのがよっぽど嫌なのか。余計に殺し甲斐があるってものだよ」
とイリスに向かってそう言った。
何も出来ない自分が悔しい、そう思いどんどん負の感情に押し潰されていくイリスに―――奇跡は舞い降りた。
「さて、じゃあそろそろあの男の―――っ!?」
男が歩き出した先にある扉が、大破した。
あまりに唐突な出来事に、二人共唖然としてしまう。
「はぁ、割と頑丈だなこの扉」
「ちょっとなに人の家の物壊してんの!?」
衝撃で舞い上がった砂煙から現れたのは、イリスが行動を共にしていた二人―――優人とナナだった。
自身に付着する砂や小石を払い落とすと、優人は男に向かって言葉を発する。
「――――――久しぶりだな、セイン」
まさかのセイン登場ですよー!
次話では意外なことが明らかに………?
次回投稿11/1(火)0:00予定です!




