11話
「………ん、朝か……」
陽の光を全身に受け、目を覚ます。しかし、体を起こそうにも動けない。
「――――――すぅ」
違和感のある方へと視線を向けると、ナナが優人のお腹を枕替わりにして寝ていた。
昨日のナナの説教、心の叫びは彼の心を洗い流した。その後、叫び泣き疲れたナナはそのまま倒れ込むようにして眠りについてしまった。
つまり、昨夜からこの状態なのである。
しかし、ここで起こすのも悪いと思い、優人はもう一度寝ることにした。
――――――――――――――――――――――――
ここは、どこだろう。
"どっかいけよ!!"
"お前に関わられると迷惑なんだよね"
やめろ、もうやめてくれよ。
"また、そうやって逃げるんだ"
"どうせ、自分に酔ってるだけだろ"
違う、俺はそんなつもりは無いんだ。
"誰もお前なんて求めてねーよ!!!"
もう、もうやめてくれ―――――――――
――――――――――――――――――――――――
「―――――――――と、ユート!」
「…………ナナか、起きてたのか」
そう言って、優人は体を起こす。すると、すかさずナナが優人の背中に張り付く。
「…………どうした?」
「ユート、覚えてないの?
さっきから、ずっとうなされてたんだよ?」
どうやら、あの夢にうなされていたらしい。
(また、あのフラッシュバックした感覚だな。
しかも毎回嫌な思い出ばかり……)
「あー、その、なんだ、昔の嫌な事を夢で思い出していたんだ、多分それでうなされてたんだと思う。心配かけて悪かったな」
そう言うとナナは少し安心したのか、優人からほんの少し距離を置き、
「昔の思い出、かぁ。どんなの?」
と聞いてくる。
がしかし、体調が優れていないまま自身の過去を語るのは少し気が引けた為、優人はやんわりとそれを断る事にする。
「その、言うと疲れるからまた今度、俺がもう少し精神的に強くなってからでいいか?」
ナナは意外そうな顔をして、言葉を発する。
「うん、約束ね、それまで待ってるから。十分強いとは思うんだけどね」
ナナは愛らしい笑顔を向け、さらに続ける。
「ねぇユート、この後どうするの?
てか、いつもは何やってたの?」
「ああ、食料取りに行くか寝るかのどちらかだな」
「何か、原始人みたいな生活だね……」
あはは、と乾いた声が響く。
(この世界にも、原始人という存在はいてるんだな)
「ナナは、どうする?
俺は出来ればここから動きたくないんだが…」
「んー、ナナはとりあえず街に戻ろうかな。ユートの事みんなに知らせてあげたいし。ユートも来ない?」
「断る」
「だから何で即答!?」
そんなやり取りを続けながら出掛ける支度を整え、二人は森の中を歩いて行くとナナが何かを見つけたらしく、優人の服の裾を引っ張って指をさす。
「ねぇユート、あれ」
彼女の指先には――――――エルフの少女が倒れていた。
「ユート、どうしよう………」
ナナが涙を目に溜め、優人の顔をうかがう。
(見たところ死んでる訳じゃないけど、少し外傷が多いな)
少女の体には複数の痣や擦り傷が痛々しく残り、中々見ているのが辛くなる。
「とりあえず、一度洞窟に連れて戻ろうか。
ここだと何に襲われるか分かったもんじゃない」
咄嗟に思い付いた最善を口にする彼は、エルフの少女をお姫様だっこする。
「……うん! わかった!」
「?」
その光景を見ていたナナは、どこか少し嬉しげだった。
――――――――――――――――――――――――
「……………………ここ、は?」
「おお、起きたか」
少女は寝たまま、顔だけを優人に向ける。
「ああ、無理して動かなくていい。
今もう一人のやつが街に買い物に行ってくれてるから」
少女を洞窟に連れて言った後、優人はナナに買い物をお願いしていた。着ていた服ももう使えないほどにボロボロだったので、生活魔法をかけずに買い直す事にしたからである。
ナナはついでに食べ物とかも買ってくると言い、かなりの勢いで飛び出していった。元気なやつだと彼の溜息がまた一つ増えた事など、彼女には関係ないのだろう。
少女はポカンとしていたが、次第に状況を理解してきたのか、上半身を起こして
「………………ありがとう」
ペコリとお辞儀をする。
「あー、そーいうのはお前を発見したやつに言ってやってくれ」
俺は何もしてないから、と優人は照れくさそうに外の景色に目をやる。そして、しばらく沈黙が続いた。
決して悪い沈黙ではないのだが、耐えかねたのか少女が話しかけてくる。
「……………………………あの、」
「ん、何だ?」
「何も…………聞かない、の?」
「別に、お前が話したい時に話せばいいんじゃないか?」
俺だって話したくない事は話す気にはなれないからな、と優人は無愛想に返事する。
だが、その感じが、この空間が、少女にとってこれ以上になく居心地がいいものだった。
「…………………ありがとう」
「お礼なら――」
いや今のは合ってるのか、と優人は照れくさそうに頭を掻く。
少女は優人の不器用さに少し笑みをこぼす。
「…………ふふっ」
「ん、今笑ったのか?
そっちの方がいいぞ、可愛いし」
ぼそっと言われた事に少女は驚き、恥ずかしかったのか顔を赤くし、俯く。
(なんか、まずいこと言ったのかなぁ)
急に俯いて黙りこんでしまった少女を見て、優人は何かやらかした、と誤解してしまう。
微妙な空気のまま沈黙が少し続き、それを破る声が洞窟内に響く。
「ただいまーーーーーー!!!!!」
「声でけぇよ」
ごめんごめん、とナナが優人の隣に腰を下ろし、少女の方に顔を向ける。
少女は不思議そうにナナの顔を見つめると、さっきの優人の発言を思い出し、自分を発見した人だと思ってお礼を言う。
「…………………その、ありがとう」
「どういたしまして!」
ナナは笑顔で返事をし、少女に膨れ上がった袋を渡す。
「………これは?」
「服だよ! さすがにずっとその格好ってわけにもいかないでしょ?」
「いや、買いすぎじゃないか?」
あんな大金渡すからでしょー!?と、二人が言い合っていると少女は立ち上がって洞窟の奥に歩いて行く。
「あー」
それにあわせて、優人は洞窟を出る。
「ほんと、変に優しいんだから」
ナナは出ていく背中を見送り、そう呟くのだった。
読んでくださっている方ありがとうございます!
森にいたエルフの少女、何者なんでしょうねー
次回投稿10/31(月)0:00予定です




