プロローグ
異世界モン書くのは気が進まんが、試しにかいてたやつ
プロローグ
ある一体の魔物がいた。見た目は無色透明で、体は不定形のアメーバ状の生物。体内にぎょろりと存在するふたつの目玉と、喋る際にはぱっくりと裂けるように口が形成され、いっちょ前に言語を解すことができる。
だが、その魔物はとにかく頭が良くなかった。
何をしてもドジばかりで、同族たちからもいつも小馬鹿にされていた。まずこの魔物の種族自体が、生態系の中でそれほど強いわけではない。さらに知能が高いわけでもなく──最弱の部類であったが、その中でもとりわけ低い最悪の頭脳を持っていた。これまで無事に生きてこられたのが、奇跡とも言える有様だった。
魔物は考えた。生きるだけで精一杯のこの弱肉強食の世界では、いつか必ず恐ろしい天敵や他種族の凶悪な魔物に食い殺されかねない。そんな惨たらしい最期を迎えるくらいなら、自ら命を絶った方がマシだ。
しかし、自ら死ぬ勇気など到底湧いてこない。刃物を突き立てるのも、高い崖から身を投げるのも怖かった。
なら、誰か別の者にこの体をあげてしまえばいい。それが、魔物のすかすかな脳みそが必死に編み出した、世にも奇妙な生存戦略だった。
幸いなことに、魔物はたまたま森の奥深くの古代遺跡に打ち捨てられていた、魂魄交替の儀と呼ばれる禁術の術式が記された古びた書物を発見していた。そして、それをギリギリ発動できるだけの魔力を、生まれつき持ち合わせていたのだ。
魔物は長く途方もない年月をかけて、その難解な禁術の会得にひたすら取り掛かった。
♱♱♱
「だぁぁぁっ! しつけぇんだよクソ爬虫類がっ!」
魔物は鬱蒼と生い茂る森の中を、猛烈な勢いで駆けていた。いや、正確に言えば、その無色透明なアメーバ状の体を器用に波打たせ、蛇のように這いつくばって地面を滑るように突き進んでいた。
その背後には、巨大な魔物──大蛇が、木々をなぎ倒しながら迫ってきていた。
アメーバ魔物の完全なる捕食者だ。大蛇は、黄色く濁った瞳で獲物をねめつけ、シューッと不気味な威嚇音を鳴らしながら執拗に追いかけ回してくる。
「ちっ! しつけぇなテメェは!」
魔物は悪態をつき、舌打ちをして、進行方向にある巨大な霊樹にべちゃりと張り付いた。不定形の流体構造を最大限に活かし、樹皮の隙間に体を這わせながら、するすると猛スピードで垂直に這い上がる。
すぐさま大蛇も幹に巻き付きながら後を追ってくるが、魔物は体の一部を鋭く伸ばし、アメーバ状の触手を作り出した。
べたっ、と粘着性を持たせた触手が隣の木から伸びる太い枝をしっかりと捕らえる。
「よっと!」
魔物はそのまま自身の体を大きくしならせ、遠心力を利用してターザンのように空中を飛翔し、隣の木へと飛び移った。
獲物が突然軌道を変えたことに大蛇が気付いて振り向く。しかし、数トンはあろうかという巨体で既に木の中腹まで登りきってしまっているため、直ぐに方向転換して降りることができず、動きが大きく鈍った。
魔物は、大蛇の隙を見逃さなかった。さらに触手を伸ばしてターザン移動を幾度も繰り返し、複雑に絡み合う枝葉の海を縫うように進んで、遂に大蛇を完全に撒くことに成功した。
「ふぅ……。やっと振り切ったか。あんなデカブツに呑み込まれたら、消化液でドロドロのゲロまみれにされちまうところだったぜ」
魔物は、安全な岩陰に身を隠し、深く安息の息を吐き出した。




