表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
席をください  作者: Hem
PR
6/6

子どもころ(家の中①)

きみ子は四人家族だ。

父(公務員)、母(専業主婦・時々パート)、きみ子より四つ上の兄。

きみ子は両親が35歳の頃の子どもで、当時(昭和)では母親の年齢としては

遅い子どもだったように思う。


両親とも中卒。

父は、仕事が無い日は朝からお酒を飲むほどの、酒豪だった。

酒を呑んで暴れるとか暴言を吐くとかはなかった。

髪は既に薄く、小柄で、優しかったように思う。


母は、父に順々で、陽気で天然のようなボケボケしているところがある一方、

神経質で嫉妬深く、自分では何も決めることができない上に他責体質の人であった。

子どもに嘘をつき、子どもに自分の心配をさせようとした、

泣く姿を演技して子どもを不安にさせることもあった。


兄は、私によく暴力をふるった。

殴る、蹴る、そして、カラーボールを私に思いっきりぶつけたり、

怖くてたまらなかった。

家に兄がいるのが怖くてたまらなかった。


父と母はよく口論していた。

小さなものから、数日続くようなものもあった。

原因はなんだったのだろう。

きみ子は、父と母の口論が始まると、いてもたってもいられない不安と恐怖の

波の中にいるような気分になった。

口論を見たくない、聞きたくないのに、

見なければ、聞かなければという気持ちで心の中がパンパンだった。

ドアに耳をつけ、口論を聞き続け、口論の終わることをひたすら祈った。

そして、画用紙に「お父さんとお母さんが早く仲直りしますように」と書いて、

子ども部屋の窓から、空にいる神様に見えるように画用紙を空に向けた。


父と母が仲直りしてくれることに必死だった。

苦しかった。怖かった。悲しかった。もう、嫌だった。


母は、父の母(義母)と父の妹(義妹)が嫌いだったようだ。

義母からは、いじめを受けた(らしい)。

義母からは紙につつんだごきぶりを見せられた。秋ナスは嫁に食わすなと言われた。

ほかに何か言ってたかな。

義妹は父と二人っきりで同じ部屋に入りドアをしめて出てこないことがあった。など。


事実か否か、また脚色しているのか否かも、聞いただけの私にはわからない。

母は幼い私に、悔しさでひどく歪ませた顔で私にその話をするのだった。

私にとってはなんの問題もない祖母、叔母だったのに。


私は、母の悔しく歪ませたその顔が大嫌いだった。

辛かった母の話を聞かされても、可哀そうとか、そんなことあったの?

という驚きの感情よりも、母のその顔が大嫌いだった。

母は大げさに演技をするからだ。

私は母を少しずつ、信じていなかった。


小学生の頃、一度、父に思いっきり蹴られ、殴られたことがある。

きみ子は居間に寝っ転がっていた。その時に母親が何かきみ子に話しかけたのだ。

何を話しかけたのかは覚えていない。

きみ子は、「なにー?」とか「えー?」とか返事をしたはずだった。

いつもと変わらない風景だった。

きみ子は、そのまま母との会話が始まるのかと思っていた。


その時だった。

「お前なんだその態度は!」と、突如現れた父親に、寝っ転がっていたところを

思いっきり蹴られたのだ。

そして、髪の毛をつかみ半分立ちにさせられ、暴言をはかれ、ひっぱたかれ、

畳に投げつけられた。

「お前、調子にのってんじゃないぞ!」と、

確かそんなことを言われた気がする。


きみ子は本当に、訳がわからなかった。

暴力は数分程度あっただろう。

痛みと恐怖に涙が出た。

でも、「ごめんなさい」とは言わなかったと思う。

ごめんなさいと言えないほど、なぜ暴力をふるわれたのかわからなかったのだ。


突如父の暴力が終わったあと、きみ子は黙って立ち上がり、

自分の部屋に戻った。

そのあと、どうしたのかな。

布団に入って泣いたのかな。震えていたのかな。


きみ子と同じように、何がおきたかわからなかったはずの母親は、

きみ子の様子を見に来るわけでも、声をかけてくれるわけでもなかった。


きみ子が居間からいなくなったあと、両親がどんな会話をしたのかわからない。

覚えているのは、きみ子は独りだったこと。


今、大人になった私がタイムマシーンにのって戻れるなら、

きみ子を抱きしめてあげよう。


あなたは何も悪くないよ。と、抱きしめてあげよう。


私はこの日のことを死ぬまで忘れないだろう。

死んでも許さないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ