第19話 ダルク隊の暗躍
サテライトベースの護衛任務に就いて早々に敵部隊と交戦し、勝利したSERT。
彼らは安堵していたものの、決して敵が絶対に来ないという確証は当然ない。
先日の戦闘から三日後のこと、サテライトベースの中では緊迫した空気が張り詰めていた。
「ラディエス隊長、今のところはミュートロン軍が接近している気配は無さそうです。とはいえ、まだ油断なりませんね」
アリカは疲れ切った表情でひたすら各地のレーダーに熱源反応が無いか確認を続ける。
この見張り番としての任務に関しては、交代制とはいえ睡魔が襲ってくるほど辛いものであったが、彼女は自分なりに元気さを取り繕っていた。
「アリカ君、ご苦労。もうすぐ交代の時間だから、ゆっくり休むといい」
「ありがとうございます、ロウリー指揮官」
その後、アリカは席を離れて別の監視役の兵士にバトンタッチする。
一方でミュートロン軍は、女性のみで構成された戦闘部隊であるダルク隊が火星のサテライトベースに奇襲を仕掛けていた。隊長のマリエル・フォルテシアは、新型の接近戦特化型MUであるスパルタロスに搭乗し、火星政府軍の戦闘部隊に猛威を振るう。
「どこからでもかかって来なさい! 私にとって不足はありませんわ!」
「何て速いんだ!」
火星軍の戦闘部隊は苦戦を強いられ、少しずつ部隊全滅という悪夢が迫って来ていた。
「タニア、このまま隊長機のストリールに突撃するけど、よろしくて?」
「ええ、こっちも準備は出来ています」
マリエルとタニアは大胆不敵に笑みを浮かべ部下と共に残った敵機を仕留めて行く。
「ビームランスで……、突く!」
マリエルの力強くも素早い一撃が、隊長機を一閃。
その後も残った部下が粘ろうと攻撃を続けるも、焼け石に水であった。
「まだ攻撃を続けるなんて……、無様ですね」
タニアは、ビームライフルを構えて残存戦力のストリールを目掛けてスッと狙いを定め、光線を発射。この攻撃で一機撃墜され、他の部隊はやけになって機銃を乱射する。
「このまま負けてたまるか!」
この時の火星政府軍の兵士達は必死であり、とてもじゃないが冷静ではなかった。
「させないわ……、そんなこと!」
そこからマリエルが電光石火の勢いで蹴りを入れ、ビームランスで一閃。
もう一機も撃墜して見せた。
「ふふっ、気持ちがいいわ。これで全滅ね」
マリエル達は敵部隊を全滅させたのち、火星政府軍のサテライトベースを占拠した。
中にいた残り少ない兵士を力でねじ伏せ、捕虜にする。
そして、火星政府軍の異変はロウリー達にも知れ渡り、ラディエス達はサテライトベース奪還のために出撃することになった。
「いよいよか……。でも、どうして火星のSERTは動かなかったんでしょうね」
ケビンはこの事に関してつくづく懐疑的に思う。
「あの時、火星政府軍のクレイオス隊は別の場所で戦闘を行っていたから、行くに行けない状態だったらしいね。あそこの隊長のマーティー大佐は、本当に悔しかったに違いない」
シュウは拳を握り締め、自身も悔しそうな顔つきで辛い思いを噛み締める。
「シュウ中尉、必ず私たちでこれ以上ミュートロン軍の脅威に晒されないように、サテライトベースを何としても奪回しましょう」
エルダに呼応するかのように、頷くシュウ。
こうして、先行してヒュペリオン隊が出撃し、その後プロメテウス隊とオルフェウス隊も出撃した。
今回の戦闘では、ラディエスは両腕をストライクタイプのキャノン砲、バックパックや脚部はブーストタイプの混合型の装備で挑む。
早速敵機が接近し、ここへとパティがビームライフルを構えて、射撃系統システムを調整した後、シグネス目掛けて光線を一発撃つ。
「これで決めるわ!」
「何ィッ!?」
敵機に直撃した後、機体はそのまま宇宙の塵と化した。
その活躍に負けじとゼナードは、ビームシールドで敵の攻撃を防ぎながら、敵機と接近戦を繰り広げる。
「何て強さだ! でも負けちゃあいられない!」
ゼナードは一度後方に下がって、間合いを取った上でフェイントを行う。
その後、素早くビームソードを突き刺し、敵量産機を撃墜した。
“よし、隊長さん! そっちの方はどうだ?”
「こっちは大丈夫だ。心配するな」
“分かった”
ゼナードはそのまま通信を切った。
一方、ラディエスは隊長機であるバーネイルと戦闘を繰り広げていた。
「素早い動きだが、見切ったぜ」
ラディエスはすぐさま右腕のビームキャノンを構えて、一発撃つ。
その光線を喰らった機体は、ビームシールドが破壊され防御は不可能となった。
「クソォ! シールドがやられるとは! だが負けるものか!」
「もう一発だ!」
敵の光線を素早く回避し、その後キャノン砲から光線を一発放ったラディエス。
彼のその蒼色の瞳は、自信に満ちているように見えた。
「よし……。撃墜したぞ! このまま本隊のいる方へと向かうぞ」
“了解!”
時を同じくして、オルフェウス隊とヒュペリオン隊は、互いの弱点を補う形で攻撃を行っていた。ジュノーはバーストキャノンを、シュウはロングレンジブラスターで敵部隊を片っ端から殲滅していく。
「ジュノー大尉、敵勢がどんどん湧いて出てくるようじゃ、埒が明きません……。今はプロメテウス隊も向かっているようですが」
“そうか。ひとまずその間まで持ち堪えるぞ”
「分かりました」
アンディはビームライフルを素早く取り回し、敵部隊に向けて光線を乱射。
しかし、それでもミュートロンの軍勢は怯むことは無かった。
「クソォッ、このまま死ぬのかよォ!」
ブルーノは操縦桿をグッと強く握り締めながら、怒りや悔しさが入り乱れた感情を露にする。
“今合流する! ジュノー、待たせたな”
「ラディエス! この敵勢はまだ本隊じゃない! なんとかして占拠された火星のサテライトベースを……」
“分かってるさ”
そこへとラディエスが凄まじいスピードで接近し、ビームライフルでシグネス二機を素早く撃墜する。
だが、敵勢はまだ諦める事無く攻撃を続けた。
そこでシュウが見かねてか、援護射撃を行う。
“ラディエス! ここは僕が!”
ロングレンジブラスターを構え、雷のような蒼白い光線を発射。
この攻撃を喰らったシグネスは撃墜され、指揮官機のバーネイルは背面のビームキャノンやライフルで反撃を試みる。
“ラディエス大尉! ここは私たちが行きます! 先に本隊の方へ向かってください”
「分かった。ひとまずパティとゼナードにも伝えておく」
“了解”
その後ラディエスは、パティとゼナードを合流させたうえで、ダルク隊の方へと攻撃を仕掛けていった。
嫌な予感を察知するラディエス。彼はアクティブウインガーを使用し、援護射撃を行わせることにする」
「このまま一気に突撃するぞ! 早い所撃墜しなくては……」
“ラディエス隊長、只今情報が入りました!”
「どうした? アリカ」
熱のこもった何とも言えぬ緊迫した状況を感じながら、通信を行うラディエス。
彼はコントロールパネルのキーを叩きながら射撃系統の再調整をする。
「よし、これで大丈夫だ。全員攻撃開始!」
“了解! やってやる”
ゼナードとパティは、先行してビームライフルで他の部隊と交戦中と思しきダルク隊の方へと攻撃を仕掛けていく。
二人の攻撃は躱され、ダルク隊の兵士の一人、エマが無人機のドールクスを連れて攻撃を仕掛ける。
「落ちなさい! 旧人類など……、恐れるに足りないわ!」
必死になってエマ達の攻撃を軽やかに回避するパティ。彼女に並々ならぬ不安が立ち込める。
「パティ、焦るなよ。気を付けろ」
“分かってるわ。でも……”
「ここは俺がカバーする! 喰らえェッ!」
ラディエスは照準調整を行い、すぐさま右腕のキャノン砲で光線を撃ち、ドールクスを撃墜。
光線が放たれた後の砲口は、軽い熱を帯びていた。
「何よ! ここまで邪魔するなんて……」
エマは遠隔操作機能を使い、残ったドールクスのシステムプログラムに、射撃回避補正をかける。
「これでどうかしら?」
自信に満ちた表情で攻撃を続けるエマ。彼女の目論見は成功するか?
「敵機が接近し始めた……。ゼナード、お前はライフルで牽制して、パティは接近戦に持ち込め」
“了解!”
ラディエスは指示を出した後、両腕のキャノン砲で一斉掃射を行う。
だが、ドールクスはそれを寸前で躱す。これにはラディエスも焦らざるを得なかった。
今まで通りならあっさりと撃墜できていたはずなのに────
その思いが頭の中で邪魔をする。
「隊長さん! 危ないぜ!」
ゼナードはすぐさまラディエスを庇いつつ、ビームライフルを連射し、ドールクスの左腕部を破壊する。
「助かったぜ、ゼナード」
“隊長さんは先に行った方が良いぜ。オルフェウス隊が既に別方向から本隊のいる方へと攻めていってるって聞いたぜ”
「分かった。至急向かう」
先行して本隊の方へと向かうラディエス。グッと口を引き締めつつ、操縦桿を握り、レーダーを確認する。
“ジュノー、大丈夫か?”
「こっちはなんとか……、持ち堪えてる感じだ」
普段は自信満々のジュノーも、今回は気が滅入っているようであった。
この様子から、ラディエスはこれから待ち受ける戦いが、今までにないものであることを覚悟した。
「よし、こうなれば……、行くしかないな!」
左腕のキャノン砲の照準システムを調整し、迫り来る敵機を迎え撃つ。
「落ちろォッ!」
「そんなッ! キャアアッ!」
敵の駆るシグネスはあっさりと撃墜され、そこへとマリエルとタニアがやって来る。
「ついにあのMk-Ⅲが来るなんて……。でも、私だって怖気付いてなんかいませんわ! かかって来なさい!」
“マリエル少佐、ここは私も行きます”
「分かったわ。くれぐれも足手まといにならないようにね……」
マリエルとタニア達はビームライフルを即座に構えて撃つ。
「来たかッ!」
“ラディエス、ここは俺達も加勢する! 行くぞ、アンディ、カール、ブルーノ!”
“了解!”
ダルク隊に対抗する形で、オルフェウス隊の四人がすぐさま銃火器を構えて急接近し、そこから素早く光線を撃っていく。
ジュノーの表情はいつになく緊迫しているようであった。
「この野郎! バーストキャノン!」
ジュノーはバーストキャノンで光線を連射し、敵機を撃ち落としていく。
しかしそこへと、ドールクスを失いながらも帰還したエマが合流。
既に彼女は疲弊しきっていた。だが、それどころでないことは、火を見るよりも明らか。
ここで機銃を構えてジュノーに不意打ちを試みる。
「死になさい!」
「何ィッ!? ううッ!」
エマの奇襲を喰らって、バックパックに被弾するジュノー。
バチバチと背面から火花を散らした状態の機体が、悲鳴を上げている。
「まだいける! バーストナックル展開!」
ジュノーは拳の部分にバリアーを展開し、バーストナックルでエマの駆るシグネスに殴りかかる。
「キャアアッ! なんて強さ……」
「今だ、アンディ!」
“了解、ジュノー大尉”
アンディは鋭い目つきをしてビームライフルで援護射撃を行い、エマに追い打ちをかけて行く。
「そんな……、一旦身を退くしかないようね。マリエル大尉、撤収許可願います」
“分かったわ。至急艦に戻りなさい”
「はい」
こうしてエマは、満身創痍の状態で戦線離脱した。
一方、プロメテウス隊はマリエルの駆るスパルタロス相手に苦戦していた。
接近戦や遠距離攻撃共に強く、迂闊に近付こうものならビームランスで一閃、遠距離から攻撃してもハチの巣にされる恐れがあるため、ただただ防御に徹するのみであった。
“ラディエス隊長、この隊の指揮官機はどうやら指揮官機のようです……。一筋縄ではいかないでしょう……。私たちが乗るアルファスティンガーが出撃すれば、何とか形勢は逆転できる可能性もありますが……”
「分かった、スタンバイに時間はかかると思うが、頼む」
“はい……”
アリカは不安な面持ちをしつつ、艦のコントロールシステムを他の非戦闘要員と共に操作し、出撃準備を行う。
それと時を同じくして、ラディエス達は勇猛果敢に歯を食いしばりながら、機銃を撃ち続けていた。
「クソォッ、なんとか俺達だけで持ってくれればいいんだが……」
“隊長さん! パティが被弾したみたいだ! 俺が庇っている間に攻撃を頼むぜ”
「分かった、ゼナード。パティを頼んだぞ」
通信を切り、戦闘に専念するラディエス。
ビームライフルを撃つが、ついにエネルギー切れを起こしてしまう。
「ん? ついに弾切れか……。どうしたらいいんだ!」
しかし、その時だった。彼らの元に一筋の光が差し込んだのは────
“こちら火星政府軍SERTのクレイオス隊! 聞こえるか?”
「あ、貴方はもしかして……」
ラディエスは予想外の事態に驚くも、通信モニター越しのマーティーの顔を見て安堵する。
“ここは俺達に任せておいてくれ。一旦身を退くんだ”
「いや、俺達もまだいけます!」
少し強がって、戦う意思を見せるラディエス。
“そうか。随分と逞しいな。気に入った! 名前は?”
「ラディエス・ライオネルです。階級は大尉です」
“俺は、マーティー・クエイン。ひとまず前線の方は俺達が行く”
「分かりました。頼みます」
ラディエスは接近戦を行って何とかダルク隊の傘下の部隊を撃墜していく。
「このままでは確実に殲滅させられるわ! 全員身を退くわよ」
“了解、マリエル少佐”
勝ち目は無いと察したマリエル。ダルク隊は、とうとう火星のサテライトベースから身を退き、セカンド・アースへと踵を返していった。
九死に一生を得たラディエス達は、火星政府軍側のサテライトベースでクレイオス隊と親睦を深める。
「ラディエス、君があのプロメテウス隊の隊長とは……。話は聞いているぞ。凄いじゃないか。アラスカ基地の復旧に自ら参加しようとするなんて」
「ありがとうございます……」
ラディエスは満更でもないような表情で、話を聞いていた。
「だが、油断するなよ。ここは知っての通り戦場だ。迂闊な行動を取れば……」
途端に冷静な表情になるラディエス。
「死ぬということですね」
「そうだ。分かっているじゃないか。今後も上手くやれよ」
「はい」
火星管轄下のサテライトベースは奪還できたが、ラディエスは今後も続く果てしない戦いに向け、覚悟を決めたのだった。




