76 王子の調べ物
お待たせしました。
図書館は王都の教会から数100メートル離れた緑地公園内にあった。周りの喧騒を気にせず読書に集中できるようにという配慮かららしい。
建物は巨大な箱型の白い石造りの建物で、入り口から入ると吹き抜けのエントランスホールから階段を登り全4階の各階に上がれる造りだ。蔵書は10万冊を超えるほど膨大で、古書や世界中から収集した絵本から専門書まで揃えているそうだ。
職員を捕まえると王子の行き先が分かり、4階の歴史や新聞関連の階へ向かった。
ちなみにペットの入館お断りだったためロウはお外の馬場で馬たちに混じって紐で繋がれて待っている。馬たちは魔物だとわかるのかひどく怯えてみんな自分に与えられたスペース内で一番ロウから遠くの壁に身を寄せてブルブル震えている。申し訳ないのでなるべく早く済ませてロウを迎えに行こう。
「テオドール殿下は先ほどお帰りになられました」
「またか!」
「早すぎるのではないかな? 調べ物をしていたのだよね?」
「はい。30分ほど殿下はそちらのテーブルをお使いになり熱心に読んでおられました」
そのテーブルには積み上げられた本の山が二つできていた。ひと山10冊くらいはある。また紐で綴じられた新聞記事のファイルが広げられたままになっている。
「あれ、全部かい?」
「はい」
「あの量を30分で読んだというのか…? 人間か…? 新種の魔物ではないか?」
「新種の魔物… 目がたくさんあって同時に何冊も読めるとか?」
「ページを捲るために腕もいくつか必要だろうな」
また、この世界の時間の数え方は現代日本と同じで
一日24時間、一時間は60分、一分は60秒だ。時計は最近発明されたらしく高価で富裕層や国の重要施設に導入されてはいるものの、まだ広く普及していない。この図書館は導入しているようで、吹き抜けの一階の中央に大きな柱時計が鎮座している。
一般や地方では昔ながらの砂時計を使った計測がまだまだ使われていて、おおよそわかればいいくらいの感覚の人が多いらしい。時間にきっちりしている現代日本から来たわたしには驚きのゆるさだ。
ちなみに魔王城にも柱時計が導入されていて一階エントランスにある。しかし長年時計に馴染なく暮らしてきた長生きしている魔王とその一派の魔族たち。せっかく時計があるのにあまり見ずに昔ながらのゆるい時間感覚で生活しているようだ。城のエントランスには柱時計の近くにその昔に設置された巨大砂時計があるのだけれど、一度ひっくり返せば砂が落ちきれば24時間たったことになる。
また陽の傾きでざっくり把握しているという1000年生きてる男もいる。宝の持ち腐れである。だからとりあえず昼食の時間だけでも時計で正確に共有しようと、昼の鐘は時計の働きを活用しているとのこと。
「この後予定があって時間がなくなってしまったからと、わたくしどもに片付けを頼まれたのでまだそのままなのです」
「次の予定は何と?」
「はい、病院の視察だと伺っております」
「今度は病院か! ええいっ ぐずぐずしていたらまた取り逃してしまう! 早く行こう!」
「そうだね、そろそろ接触したい…と、へい…リュシオン殿どうしました?」
急いで追跡したいガエルが走り出そうとしているけれど、魔王が王子が使っていたテーブルの上に視線を落としている。
「お前たちは引き続き王子を追え。俺とリンカはここで王子の後片付けをしてから行く」
「え? わたしと?」
「む、雑用をしていくとは気まぐれな。では俺様たちは先を急ぐぞ! 行くぞヴ…なんたら伯爵!」
「グリューフェルトは脳筋には覚えづらかったかな? では後ほど。じゃあね〜リンカちゃん」
「あ、じゃ、じゃあまた後で」
「相手をしなくていい」
魔王がわたしを手招きしたので寄って行くと、指先で広げたままの新聞をとんとんと叩いた。
新聞記事はおととい発行のもので、大きなみだしに『エルグラン王、勇者であり次期王位継承者ウィリアム・エルグラン死亡を発表。また聖女様は行方不明』とあった。ついにエルグラン王がウィルの死亡を発表したようだ。悪手とも知らずによく調べず予想通り先走ったわけで、これでウィルも何か動きを見せるはずだ。テオドール王子はウィルと友人だから心配しているだろう。ウィルは彼に連絡をとっていないのだろうか。
さらにその下に隠すように何年も前の記事のファイルがあった。それには魔王支配領域の広がりが早くなっているというもの、国王の具合が思わしくなくメトセラール公爵が宰相につき政務を代行することになったものなど幾つもあった。その中にはもっと古いものもあり、15年前大人数を荷車に乗せた一団が森に消えたもの、28年前に静かだった森に魔物がどこからともなく現れ村が壊滅したもの、40年前の街道での行方不明事件の騎士団派遣の記事もあった。
40年前のそれはわたしたちが浄化した鉱山でのあの残酷な実験場の犠牲者たちの行方不明事件のことだろう。彼もあの件に不信感を持っていた?
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