69 転移先の目星
おまたせしてごめんなさい。
仕事が忙しく執筆が遅れました。
「オーランド王国の王城に転移先が…?」
邪神信仰者たちが大事にしていた箱の中に描かれた魔法陣。その魔法陣に描かれた転移の術のつながっている先が、オーランド王城内にある。
どうしてそんなところに…
「だが位置が王城とまではわかったがその形態はわからん」
形態といわれてもよくわからない。
「形態ってどういうこと?」
魔法陣の繋がる先の話をしている中に話しの腰を折る形になって申し訳ないのだけれど質問した。
すると魔王は「そうか、説明不足だったな」とツヴァイに説明を促してくれた。
彼も嫌な顔をせずに引き受けてくれる。
「ではそもそも、魔法を使っての転移と魔法陣での転移はどう違うのかを説明します」
「よろしくお願いします」
「はい。魔法による転移は一度訪れた場所に一瞬にして移動または対象を送ることができます。それに対し魔法陣を使った転移は本人が訪れた事のない場所でも移動または対象を送ることができます。しかし転移先の指定が必要です」
「指定…」
「実際に見た方がわかりやすいですね。少々お待ちください」
ツヴァイは大きな紙を二枚用意した。そして指先に魔力を集め、紙に指で魔法陣をスラスラと描いていく。
彼は二枚描き右手と左手にそれぞれ持った。同じ魔法陣が描かれている。
「このように同じ魔法陣を魔力で描きます。この際に魔法陣内の場所指定の箇所に共通の文字や記号や数字を書き込むことでこの二つの魔法陣は繋がりました。これが転移先の指定方法です。どちらからも繋がった先の魔法陣のある場所に転移できます。では使用してみましょう」
一枚をツヴァイの目の前のテーブルの上に置き、もう一枚をわたしの目の前のテーブルの上に置いた。
「リンカ様、そちらの魔法陣の上に何か置いてください」
「あ、はい」
何かって何にしようと思いながら、目についたテーブルに飾られている花瓶に入ったオレンジ色の百合の造花を手に取った。これも使用人のみんなが殺風景な魔王城に彩りをと作ったものだろう。それを壊さないようにそっと魔法陣の上に置いた。すると魔法陣が光を放ち一瞬の間に消えた。そしてツヴァイの目の前の魔法陣に目を向けると、オレンジ色の百合が乗っていた。
「このように片方の魔法陣に何かしらの物が乗せられると、もう片方に送られます。対象は生物も無機物も転移可能で魔力は必要ありません。あらかじめ作成済みの魔法陣ならばリンカ様も発動できますよ」
「へぇ、すごく便利だね」
「はい。魔法陣は紙、布、石、金属にも描けます。ですからオーランドの王城には様々な形態で存在し得ます。床板、絨毯、箱の中、ハンカチ、装飾品、服、挙げたらキリがありません」
これはいくらでも隠して持ち込めそうだ。
たとえ王城内をしらみつぶしに探したとしても見つかるかあやしいだろう。
「それよりは邪神信仰と関わりがありそうな怪しい人物を探るのが良いだろうな」
「人探しか…」
王城内に出入りできる人物で邪神信仰の関係者か。
「ネズミが潜り込むなら、商人、使用人、文官、騎士、候補に迷うな」
「王城に入るだけなら王子と面会の他国人もいる」
「オーランド王国の他国人大歓迎方針が対象者を増やしてくれて厄介だねー」
「邪神信仰をしている者が貴族や王族にいるのかもしれません」
「持ち込んだのは昔の人物で、現在は死んでいるということも考えられるな」
各々が中枢の邪神信仰者に考えを巡らすも情報がないために魔法陣の持ち主が割り出せない。
しかしここでヴラドがふと思い出した。
「ああ、そういえばね。酒場で旧道について噂話を聞いたんだ」
「噂話?」
「うん、40年前に旧道は通った人々の行方不明事件が多発して騎士団が調査に派遣されたんだって」
旧道の行方不明事件?
それってもしかしてあの鉱山の魔物化された被害者たちの事件だろうか。国は把握して動いていたんだ。
「それは結局、盗賊団が金目のもの目当てに襲っていたと判明して討伐して事件は解決したらしいよ。でも民衆は被害者たちの遺品も行方もわからずじまいだったから、神隠し事件として今でもまことしやかに噂されているらしいよ」
あの鉱山に行った面子が顔色を変えた。
「それはあの鉱山の事件のことだよね? 盗賊団だって? 解決した? 神隠し? なにそれ」
「騎士団を派遣して、鉱山の件を盗賊団の起こした事件にすり替えられたわけか。ーーー何者かによって」
国を騒がせた事件を情報操作して真実を捻じ曲げる。力を、権力を持っていなければそんな真似はできないはず。
わたしたちは顔を見合わせた。
目が合った魔王にわたしは意見を求めた。
「オーランド王国の中枢に邪神信仰者がいる可能性は?」
「高い確率でいるだろうな」
お読みいただきありがとうございます!
おもしろかったと思っていただけたらぜひブックマークや評価をお願いします。
執筆のモチベーションが上がります!