67 執事長ブルース
今週は仕事が忙しくて執筆が進まなく更新が遅れてしまいました。ごめんなさい。おまたせしました!
「平常心平常心」
いつまでも身悶えているわけにもいかず、寝台から下りてまずは顔を洗って着替えて、と考えながらテーブルの上の物に目がとまった。
あれは昨日オーランドの港町で買ってもらった冒険者用の服だ。さっそく洗ってくれたようで手に取るとふわりと花の香りがした。生地が昨日お店で触れた時よりふわふわになっているから柔軟剤を使ってその香りかもしれない。
「これを着ろってこと?」
いつもわたしが着た服は脱衣所にある洗濯籠に入れておくと洗濯してテーブルの上に朝置いてくれている。今日はこれがテーブルの上にあるということはこれを着ろという指定だろうか。
まずは洗面器に用意してくれていた水で顔を洗った。服は特に文句はないので素直に着替えた。
冒険者の服を着ろということなら今日もオーランド王国に行くということでいいのかな。
「あ、そうだ忘れるところだった」
部屋を出る直前に窓際に向かい、淡いピンク色のスツールの上のクッション、その中央に鎮座している青い卵型の物に手をかざした。それは道化師から渡された謎の卵(仮)だ。
あれから窓の近くに置いて、言われた通り毎日魔力を注いでいる。今のところ何も変化は見られない。
とりあえず手のひらで撫でて「元気に育つんだよ」と声をかけるのが毎朝の日課だ。
そうして今度こそ部屋を出た。
しっかり眠ったためか体調はすこぶるいい。
体が軽いし頭もすっきりしていて朝から食欲もある。食欲は昨日の夕食を食べていないからとてもある。「今日の朝食はなんだろう」と考えながら食堂の扉の取っ手に手を伸ばすと勝手に扉が内側に開いた。どうして開いたのだろうとキョロキョロしながら食堂内に足を踏み入れるとすぐに魔王と視線が合った。
扉に気を取られていたらバッチリ目が合った上に、向こうは落ち着き払った態度である。まったく、こっちの気も知らないで…
「リンカ、紹介しよう。執事長のブルースだ」
「えっ」
魔王の視線の先を追えば扉を音もなく閉める一人の執事服の男性がいた。中肉中背な体型で背筋をしゃんと伸ばした綺麗な立ち姿だ。
しかしその顔面全体を覆う白い仮面により人相はわからない。目、鼻、口は立体的になっているけれど穴も空いていない。
髪はモスグリーンで白髪はぱっと見わからないし、首は襟に隠れているし、手は白い手袋をしているので年齢は推測できない。
彼は腰を直角に曲げてわたしに礼をとった。
「初めてお目にかかります。この魔王城で執事長をしておりますブルースと申します。以後お見知りおきください。また私の名は呼び捨てでお願い致します」
「ご、ご丁寧にありがとうございます。よろしくお願いします。リンカといいます。わたしのこともリンカと名前で呼んでください」
「かしこまりました。リンカ様」
「ブルースは使用人の最高位で城内を取り仕切っている。その上役であり最終的な決定権はツヴァイ、ブルースは現場のまとめ役だ。衣食住の要望はブルースに言うといい。仕事の早い男だからなんでも応えてくれるぞ」
「最善は尽くしますが限度はございますのでご了承ください」
「もちろんです」
ブルースは渋い声で、声質で考えると60代はいっていそうな印象だ。
「うむ、城内に魔獣部屋が欲しいと言ったら特大の魔獣専用寝台を用意してくれたぞ!」
「三日で壊れましたがね。無駄な仕事をブルースにやらせないで下さい」
声の元を辿ると食堂内の長テーブルの席にガエルとツヴァイがついていた。
なんだかとても久しぶりに会った気がする。
「ガエル、ツヴァイ! …おはよう」
「おはよう聖女殿!」
「おはようございます、リンカ様。体調はいかがですか?」
ツヴァイとは昨日帰って会ったきり、すぐに部屋で休んだから気にかけてくれたようだ。
「ぐっすり寝たから大丈夫です」
「それはようございました」
「よし、ならば肉を食え! 元気になるには肉を食うに限る!」
「まったく貴方はまた根拠のないことを…」
「あいにくリンカ様の朝食には肉類はソーセージしかございません。ご要望であれば今からご用意します」
「いえ結構です」
「いらんだろう」
図らずも魔王と同じタイミングで突っ込んでしまった。
ガエルの無茶振りにも出来るだけ応えようとするあたり、新たに顔を合わせたブルースは職務に真面目なようだ。
「リンカ。ブルースにお前を引き合わせたのは、お前もここ魔王城に慣れつつあるから要望があれば直接伝えられるようにするためが一つ」
「一つ? 他にもあるの?」
「ああ、それは本人からな」
ブルースが再び腰を直角に曲げてわたしに礼をとった。
「リンカ様。中庭を浄化して下さりありがとうございます。今朝、植えた種から芽が出ました。おかげさまでこの城に暮らす者全て、久方ぶりに生命の育つ喜びをこの不毛の大地で感じております。そんなことで大袈裟に騒いでいるとお思いかと存じますが、私たちには奇跡の体験なのです。滅びに向かうばかりのこの世界で死んだも同然だった地が再生された。先の見えないこの世界に一筋の光明を見、感激しているのです。ただただ、そのお礼を使用人一同を代表してお伝えしたかったのです。ありがとうございます」
「はい…。野菜が育ったらみんなで食べましょうね」
「よろしいのでっ?」
「もちろんです。あなたたちがお世話をしてくれているのだから、初収穫を一緒に味わいましょう!」
「…はい!」
仮面をしていてもはっきりとその下の顔が笑顔なのが分かる声色の返事だった。
ちょっと小耳に使用人たちが植える野菜について盛り上がっていたとは聞いていたけれど、想像以上に喜ばせていたようで力を使って良かったと思う時間だった。
お読みいただきありがとうございます!
おもしろかったと思っていただけたらぜひブックマークや評価をお願いします。
執筆のモチベーションが上がります!




