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61 手がかりのための幻視

今回も残酷な表現があります。ご注意下さい。

過去の幻視。

それはつい最近、突然見るようになった。

今いる場所から場面が変わり、さっきまでの風景や人物も見えなくなり、わたしが知るよしもない、経験していないはずの光景が繰り広げられる。

前回でありはじめては魔王支配領域内にあるとある神殿跡で。

あの時は映画を観ているような客観的視点で見た。

今回は魔物化実験の被験者のバートという人物の視点で過去の幻視をしているようだ。



みんな、どこにいるんだ…?



バートは冒険者でパーティごと襲われて捕らえられたようだ。それぞれ引き離されて実験をされたようで、意識が朦朧として頭の働きが鈍くなっていてもパーティメンバーの心配をしている。



かならず、みつけて、みんなでここからにげるんだ…





「リンカ?」



肩を叩かれて名前を呼ばれると視界に魔王の美麗な顔があった。さっきまでのふわふわとした意識レベルの幻視から現実に戻ったようだ。まるで夢から覚めたような心地だ。



「どうしたのリンカちゃん? 動きを止めてあらぬ一点を見つめたままで、話しかけても反応がなくて驚いてしまったよ」

「リンカ、もしや」

「…うん、過去の幻視だと思う」

「また、か」



魔王が眉をひそめて腕を組んだ。



「何を見た?」

「少しだけだけど、バートっていうオーガにされた人の視点の内容だった」

「先ほどの紙切れに載っていた名だな」

「へぇ、あの状態がそうだったんだね。幻視しようとして見たのかい?」

「ううん、わたしの意志ではできないしやり方がわからないから。聖女の力で底の瘴気を見ようとしたら急に…」

「また、か」



魔王は少し黙って考えをまとめたようでわたしの目を真っ直ぐ見てきた。



「幻視する条件はわからんがこの先に進めば進むほと見るかもしれん。進むのはーー」

「続行で」

「いい返事だ。また幻視していると思われたら声をかける。幻視していることがお前の身体や精神に害になる可能性もあるからな。念の為にだ」

「わかった。それからさっきの火の球なんだけど…」

「あれか?」



魔王が後ろを振り返ったのでそちらに目を向けると底まで伸びている大穴の中心部にふよふよとバランスボール大の赤い火の球が浮いていた。

どうやら人が意識を過去に飛ばしてる間に撃ち込む直前だったようだ。

そしてあなたの魔法の威力でそのサイズの火の球とか、底の魔物どころかさらに大地を抉って穴を拡大させてしまいそう。やり過ぎでしょやめてくださいわたしたちも焼かれるわ。



「う、撃ち込むのやめてくれる? このままの状態で下まで行ったらもっと色々幻視してわかる事があるかもしれないから」

「仕方ない。では道すがらお前の幻視で多少なりともわかることを期待しよう」

「うん、なにかここの重要な情報が手に入るといいんだけど、あんまり期待しないでね」

「そこは"竜に乗ったつもりでいろ"というところだろうに」

「それってことわざ?」

「"頼りになるものに任せて安心する"という意味だ」

「向こうでいう"大船に乗ったつもり"ってことかな。竜とかさすが異世界。でも竜に安心感を得られないんだけど。竜に乗って飛んだら怖いよ」

「まあ慣れた竜使いでない限りは落ちるだろうな」



なんて軽口をたたきながらわたしたちはまた螺旋状の下り道を下へと歩き出した。






視界が真っ白になり声が聞こえた。



"目が見えない…聞こえない…ここはどこだ…"



"脚が8本ある?? それにわたしくしの皮膚はどうしてどこもかしこも触ると硬いの?"



五感を失った男性。アラクネになったらしき令嬢。

声をかけられて幻視から抜け出しまた歩を進めた。



"げほっ 吐きそうなのに吐けないっ"


"………"



体が拒否反応を起こして苦しむ者、廃人になってしまった者。

彼らは食事ができず衰弱して儚くなった。

幻視から覚めたら気持ちが悪かった。




"ゴブリンでは弱すぎる"


"オークは理性と知性を失い、食と色にしか興味を示さないか。使えんな"



今度は邪神信仰者側の視点だった。

使えないと判断された魔物は螺旋状の通路から下へと突き落とされた。ほとんどの魔物はその落下の衝撃で亡くなったようだ。

幻視から覚めて吐き気がした。

魔王がわたしの背中をさすってくれた。そして少し戻してしまったけれどおかげで少し楽になった。


顔色が白くなっているようで、みんなが心配そうにしているけれど「大丈夫」と言い張った。

もちろん痩せ我慢で辛いのだけれど底の情報が出てきたのでもう少し知りたい。


底はだいぶ近い。

100メートルくらい先には螺旋状の通路が崩落している。その先は穴に飛び込むしかないだろう。

そう思い崩落した箇所を見ていたらまた幻視をした。



"ラミアとハーピーはなかなか優秀な結果だ。理性もあるようだし利用できそうだ"



時には成功と評価する魔物も生み出したようだ。

でも成功例としての評価をつけられた魔物もしばらく検証実験をした後には下へ落とした。

なんでもかんでも魔物化した者たちは下へと落とされ集められた。強い魔物は落とされただけでは死なず、生きていたようだ。

そしてそれもまた実験の一つだった。



『まずまずの数の魔物が下に集まったな。どうせならこの地下鉱山の地形を利用しない手はない。ここは最深部は通路が途中で崩落しているから、上から下りたら飛びでもしない限り下から上がっては来られない。魔物を閉じ込めるのに実に適した形状ではないか』

『ええ、実に都合がようございますね。"蠱毒(こどく)"には』



【蠱毒】

百虫を同じ容器で飼育し、互いに共食いさせ、勝ち残ったものが特異な能力をもつという最凶の呪術。




「まさか、それをこの底で行ったっていうの?」

「リンカ、どうした」



『この実験が成功し、最凶の魔物が生み出せたとなれば、()()様もお慶びになられるだろう。強く濃い瘴気を生み出せるようになればーーー』



「リンカ!」

「!」



幻視から目が覚めた。

背中に冷や汗をかいている。



「気が付いたか。あまりに顔色が悪い。何を見た?」



魔王が眉をひそめて問いかけてきた。



「あ…」

「あ?」

「悪魔の所業…」

「何?」



わたしは渇いて張り付いた喉を唾を飲み込み潤した。



「底には最凶の魔物がいるかもしれない」


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