50 ゲーデの生まれ
昨日投稿しましたが、今日もしました。
唐突な頼み事に困惑するわたしにヴラドはすまなそうな顔をした。
「ごめんよ。一方的なお願いだってことはわかっているのだけれど、僕らもゲーデに過去を乗り越えてほしくてね」
「過去?」
「陛下、彼女に話していいです?」
「…そうだな。すでにリンカはゲーデの態度に振り回されている。知る権利がある。聞くか? 気分のいいものではないが」
人嫌いになった理由の過去か。
正直気にはなるけれど本人に了承を得ずに聞いていいのだろうかとは思いつつ、わたしはうなずいた。
ゲーデの人嫌いのリハビリにわたしがなるというのなら、協力したいと思う。彼はいい人そうだからできれば仲良くしたかったから。
「ゲーデとは、そもそもあいつの父親でかつて四天王だった男の名だ」
「父親? 今のゲーデは名前を引き継いだ二代目ってこと?」
「そうなるね」
親子揃って魔王に仕えていたのか。
「あいつの父親ゲーデは、今は亡き国で国の直轄の暗殺部隊にいた男だった。あいつのいた国が瘴気に飲まれかけ、俺たちはその国の王にその地を捨てるように使者を送り伝えたが突っぱねられた。そして国民丸ごと魔物化するより追い出したいと考える俺たちと、俺たちの説得を欠片も信じず魔王の侵略に屈するものかと息巻くその国は相いれず、戦争状態になった。そして俺の暗殺のために送り込まれた部隊の中に、ゲーデがいた。他の連中はあっさり倒れたがあいつはしぶとく強かった。使えると思い仲間に引き込もうとこちらの事情を話したところ、衝撃は受けていたが納得し配下になり、四天王の一人になった。それが600年前のこと」
敵対関係から仲間になったのか。
ツヴァイは元勇者一行の魔導士でゲーデ父は元敵国の暗殺者。四天王は色々な背景のメンバーで構成されているのだな。
でも、そのゲーデ父は今の四天王にはいない。どこにいるのだろう。
「魔族化したゲーデは右目が魔眼になった。魔族に体が変質すると体の一部が特殊な力を持つものが稀にいる。あいつは暗殺者だったからか、目を合わせたものを即死させる能力の魔眼だった」
ゲームの魔物で即死のスキルをもっている厄介なのがいたなぁ。それを四天王がもってるとかチートじゃないか。暗殺者なのにさらに即死スキル持ってるなんて反則でしょう。
「四天王になってからは魔眼を利用した魔王支配領域での魔物狩りを主に担っていた。戦争を早く終わらせるため要人暗殺を時にしていたが、そうはなかった。また魔物の始末ばかりでは飽きると時にふらっとどこかに出かけて気分転換をしていたようだ。淡々と仕事をこなし、何かに頓着しない、朴訥とした静かな男だった。また気が利いて気配りをさりげなくでき他者の感情に聡いやつだった。そこがまたクセのある四天王の中で安心でき配下の者たちによる信頼は厚かった」
「それ僕を含め他の四天王の立場がないのだけれど?」
「お前たちはもっと客観的に己を見つめろ」
「それに陛下からゲーデへの信頼は厚くないのかな〜?」
「馬鹿が、そんなわけがあるか」
拗ねたようなヴラドに鼻で笑う魔王。
息子と同じく朴訥だったらしいゲーデ父は魔王一派でよく信頼されていたようだ。
「だがそんな男がある日、四天王を辞めたいと突然言い出した」
「城に激震が走ったね〜」
「ど、どうして?」
真面目に働いていてみんなにも信頼されていたのに急にどうしたのだろう?
「人間の女と添い遂げたいから人間の国で生きていくと言い出した」
「え!?」
「びっくりだよね〜 まさかあのゲーデが!ってみんな想定外すぎて大騒ぎだよ。魔族と人が添い遂げるって前例がなかったし、寿命が違うし、一緒にいて相手の人間に何にも影響ないのかとか分からないことばっかりだったし」
「そ、それでどうしたの?」
「送り出した。あいつの決意がかたく、引きそうになかった。ただ四天王は辞めるのではなく、停止扱いにした。いつか戻れるように」
「そうして人間の女性と夫婦になり、いつしか二人の間には愛の結晶が誕生しました。それが君の知ってる、現在のゲーデだよ。あいつは魔族の父親と人間の母親を持って生まれたんだ」
ゲーデは人類初かもしれない魔族と人間の間に生まれた子なのか。長く生きた彼の父親は、長い時間を経て愛する人を見つけた。四天王の立場を捨ててでも一緒に人間と生きる決断をしたゲーデの父親とその母親が眩しく感じる。
「彼ら一家は人里離れた地で静かに慎ましくも幸せそうに暮らしていたようだよ。時々うちの子が様子を見に行っていたのだけれど『あの無表情が常だったゲーデ様がお子さんと笑顔で剣術ごっこしていて、それを控えめな印象の若奥さんが座って微笑んで眺めているんです。絵に描いたような幸せ家族ですよ!』と感激して泣きながら報告してきてもらい泣きしちゃったよ」
当時を思い出してほろりときたらしく胸ポケットからハンカチを取り出すとヴラドは目元に当てた。その顔はうれしそうに微笑みを浮かべている。
「けれどもそんな幸せはある日突然終わりを告げたんだ。ゲーデが死んだ」
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