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40 タチの悪い男

神殿跡からは砕けた昌石が見つかった。

破片の形状からおそらく祭具だったであろう球体だったことがうかがえる。

ここの地脈を調べると他と同じく濃い瘴気に侵食されていた。

わかったことはその程度だったけれど、過去の幻視をなぜかできたことで新たな情報が手に入った。これは大きなことだった。



「奴らの目的は最終的には世界を瘴気にまみれさせて滅ぼすことだろうな。創造神である邪神の願いを叶えることが邪神信仰者どもの宿願だ」

「あの光景って…」

「魔物化して結界を張っている精霊昌ごと神殿を壊す。そして虐殺により恨みや恐怖などの負の感情により瘴気が生み出される。この地は見る間に穢れて瘴気に汚染されるだろう。加えて魔物化した者を放置して更なる虐殺でもすれば、より瘴気は強くなり範囲を広げる。そして瘴気がさらに世界を汚染していく。まったく、効率よくやってくれるものだ」



思い出すのは幻視で見た過去の邪神信仰者たち。

粛々と決められた作業手順のように、一連の行動をおこなっていた。



「…幻視で見たローブの人たち、創造神様のためにって心から喜んでいた。どうしてあんなに簡単に人を殺すのかな。自分で魔物になったり、信仰ってそんなに大事? 神様が心が壊れていても白を黒と言ったら黒になるの? …わたしにはわからないよ」

「俺だって奴らの思考はわからん。だが奴らにとっては、黒なんだろう」



わたしが無宗教だからだろうか。

邪神信仰者の心理がわからずモヤモヤする。

その人たちと会話すれば少しは理解できるだろうか。それとも物別れになるだろうか。

せめて他者を巻き込んで死に追いやる手法を止めてもらいたい。



「しかし邪神信仰者どもが暗躍していたとは腹立たしい。なぜこちらは気づけなかったのか…」

「魔王支配領域は広いから全部カバーするには人手が足りないとか?」

「人手不足は個人の質で補っているつもりだったが、さすがに数が少ないか」



大陸の半分近くを数十人で管理するのは無理があるから仕方ないだろう。



「あ、でもあなた魔王城の中のことは感知できるでしょう? その方法で支配領域全部を感知できないの?」

「広すぎて無理だ。全て感知していては情報量がありすぎて身が持たん」

「そっか」



その後二ヶ所わたしたちは地脈の調査をした。

いずれも神殿や祭壇の跡地で、同じように破壊の痕跡があって砕けた昌石があった。



「どちらも魔王支配領域と人の世の境界付近。…これはかなりの地点が奴らの手によって瘴気を放つようになっているかも知れん」



わたしたちはそれ以上の調査は明日以降にすることにして、その日は魔王城に早めに引き上げた。



「どうだったのですか? 新たな発見はありましたか?」



帰るや否やツヴァイが張り付いてきて根掘り葉掘り聞いてくる。ほんとうに興味があるようですごくぐいぐい来て引いてしまう。



「おい、リンカを困らせるな。説明は俺からするし、後でこいつがつけた調査記録も渡す。少し落ち着け」



魔王はわたしの呼び方を偽名のリンカに戻した。



"本名は二人の秘密にして、普段は以前の呼び方にする"



このことは城に戻る前に魔王から提案してきた。

本名である真名は命と同等の大切なものだからおいそれと人前で呼ぶのは危険。

それは配下の四天王だろうと同じこと。四天王にも魔王は真名を明かしていないそうだ。その逆に四天王は配下になる際に真名を魔王に明かす条件にしたために、魔王は彼らの命を握っている。下克上を防ぎ、また忠誠の証としたのだ。

なお、四天王はみんな真名を名乗る際に「かまわないが真名を教えても無駄になる。魔王陛下に仕えたい気持ちは真名程度では軽い」などという類の事をきっぱり言ったらしい。四天王みんな覚悟に痺れる。


それにしても四天王にも明かしてない真名をよくわたしに教えてくれたものだ。そう口にすると



「俺たちは運命共同体、互いに信用信頼できなければ邪神にも瘴気にも立ち向かえない。お前からの信頼を得るには安いもの。しかし言っておくが俺の真名を知る者はこの世にもうお前ただ一人だ。他にはアーサーしか知らなかった。お前は世界で唯一、俺の命を俺の意思により握っているということは胸に刻んでおけ」



と返された。

重い、とてつもなく重い信頼を寄せてくれたようだ。あまりに重大な物を握らされている事に今さら気づき腰がひけてしまう。

変な圧をかけないでほしい。



「なに逃げ腰になっている? 手放してなどしてやらんから覚悟を決めろよ、聖女様?」



これはタチの悪い相手に真名を教えてしまったのかもしれない。

背筋を駆け抜けた衝撃に、恐怖かそれとも別の感情か判断できないままわたしは硬直した。


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