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39 過去の幻視

「ここで何かしら掴めるといいのだがな。では感知をしてみてくれ。さきほどのことがあるから体調に異変を感じたら中断しろよ」

「うん、それじゃあはじめるね」



人為的に破壊されたらしき神殿跡で瘴気の感知をはじめる。まずは表層、地上部分を見てみると瘴気がとても濃いことがわかった。残骸が散らばっている辺り一面から瘴気が立ち昇り、しかもどことなく禍々しさを感じる。そんな感覚はあまり感じたことがなかったのにどうしたのだろう?



「えっ」



するとぼんやりと人の輪郭が見えてきて驚く。

体は透けて向こうの景色が見え、まるで幽霊のよう。

その人影は頭からすっぽりとフードのついた灰色のローブを着込んでいて、顔は見えない。

体のシルエットからして男性だろうということしかわからない。



「誰なの?」



問いかけても相手は何の反応も返さない。どうやらわたしが一方的に観察している形のようだ。

ローブの人影は前へと足を進め移動をしている。彼の向かう先に視線を向けるとそこには立派な石造りの神殿が建っていた。所々苔むして蔦が伸びて放置されて長い様子は見て取れるものの手入れをすれば問題なく使用できそう。それに周囲には木々が生い茂り、下草が生え、自然が豊かだ。

これはもしかして過去の光景を見ているのだろうか?

確信に近い思いを抱きながら、ローブの人影は足を止めて声を上げる。



「目的の場所はここで違いないのか?」



声はしわがれていて、ある程度の年齢を想像させる。



「はい。ここで間違いありません」



どうやら連れがいたようで、背後を振り返れば連れも灰色のローブを着込み、こちらの声は幾分か若さを感じる男性のものだ。

そしてその若いローブの手には縄が握られていて、その縄はずらりと並んだ10人程の手首を縛っている。手首を縛られた人々の服はくたびれていて、瞳はうつろ。この様子だと奴隷のようなものかもしれない。今の時代に奴隷はいないようだけど、昔はいたらしい。ろくな扱いをされていないのは丸わかりで思わず顔をしかめてしまう。

 


「ほら、さっさと神殿前に移動しろ!」



奴隷らしき人々が鞭打たれながら神殿前に並ばされた。嫌な予感がする。



「これで我らの任務を遂行できる」



しわがれたローブの人影は懐から黒い球体を取り出した。あれは、見覚えがある。メデューサの少女があれを持っていた。そしてそれをーーー


灰色のしわがれたローブの男はそれを自らの体に埋め込んだ。そして苦しみ出しながら叫んだ。



「創造神ゲオルギウス様!! 貴方様の世界を滅ぼす望みを叶える一助となれることこそ至福でございます!!」



ローブの男は唸り声を上げ、体がその内から出た黒い靄に包まれていく。

黒い靄はその全身を覆い膨らんでいく。

現れたのは見上げるほど大きな体格の黒いワイバーン。

彼は、瘴気石を体内に取り込んで魔物になった。



「成功だ! さすがは司祭様!! 失敗した場合の替えのわたしの出番は必要なさそうだ」



若いローブの男は喜びの声をあげてワイバーンとなった元人間の男を祝福した。

そのワイバーンは雄叫びのような鳴き声をあげ、背中の翼をバサバサと動かし体を宙に浮かせた。

そして口には火の球を作り出した。

そしてそれを神殿と奴隷たち目がけてーーー



「やめて!!」

「まどか!」



はっとすると、透けた人影は消え、辺りは瓦礫が散乱した瘴気にまみれた茶色の乾いた大地。

過去の光景から現在の光景に戻ったようだ。



「大丈夫か? 俺がわかるか?」



あの過去の光景はわたしだけに見えていたようだ。

聞けば目を開き瞬きはするし、辺りを見回してはいても魔王の問いかけに反応を返さず、意識がどこかに飛んでいるようで異様な状態だったらしい。



「無事ならいいが、生身の身体なら肝が冷えただろうよ」



そのわたしの様子はなるほどかなりおかしくて心配をかけたようだ。



「それでどうしたんだ? 何者かに妙なことでもされたのなら俺が始末してやるから遠慮なく言え」



険しい顔で問いかけてくる。

いや、ずっと魔王と一緒にいたのに誰が何かできないでしょうに。あさっての方向の勘違いを正すためになにがあったのかをすぐ説明した。



「にわかには信じがたい体験だが、お前が言うのだから間違いない。それは過去の幻視なのだろう。そして神殿を壊した犯行は、邪神信仰者か」

「間違いないと思う。あの火の球で奴隷たちごと神殿を壊したのだと思う」



さっきの光景を思い出すと奴隷たちの悲惨な最期を想像して辛くなってくる。するとわたしの頭にぽんと手が置かれて優しく撫でられた。見上げると撫でた手の主の魔王はすっと離れる。



「破壊された瓦礫の中に壊れた昌石がないか探してくる。お前はそこで休んでいろ」



そう言いこの場を離れて瓦礫の方に向かって歩き出した。

優しい気遣いに心と頬が温かくなった。


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