29 魔王支配領域と地脈の瘴気
「おそらくその血管のような瘴気の線は、地脈あるいは龍脈といわれる代物です」
瘴気の流れをたどり魔王城をその中心と確認すると、魔王とわたしはそのまま帰城した。
ことの次第を書庫にこもって読書に没頭していたツヴァイに伝えると、ピンとくるものがあったようですぐに書庫のテーブルに本を何冊も広げた。
「おいツヴァイ、地脈とはなんだ?」
「地脈とは大地の地下深くを流れる世界の生命力の通り道です。それは世界中に伸びており大地に恵みをもたらします。2000年以上前の古の時代には民間伝承の形で世界中で知られていたと古書に載っています」
「その通り道に瘴気があると?」
「…なるほど、それで魔王支配領域が広がっているわけか」
「…どういうこと?」
「魔王支配領域が徐々に広がっているのは知っているだろう。邪神から漏れ出た瘴気が広がっているのは確実だった。だが瘴気は周りを徐々に侵食はするが遅々たるもので森一つ侵食するのに数100年かかる。だというに大陸のもはや半分近くにまで広がるのは不可思議であり他の要因がある可能性は感じていた。長年疑問だったがその地脈とやらが原因だとすればあり得そうだ。これは大きな前進だ」
「大変でしたね。瘴気に侵食されれば人は魔族かあるいは適性がなければ知性のない人型の魔物、例えばグールあたりになってしまう。だからその国の王に国を捨てて去るように忠告してきましたが、侵略だと思い込まれ戦争をふっかけられやむなく…」
『侵略戦争を国に仕掛けるとき、宣戦布告して国を捨てて逃げるように伝えているんだってね?』
『なら虐殺を目的にしてるんじゃなくて、別の目的があるんじゃない?』
「そっか、それが戦争の理由だったのか…」
「お前のあの追求には感嘆した」
わたしのつぶやきに魔王が感慨深そうに言葉を返した。初対面のときのことをお互い思い出していたようだ。
「王もそうだが俺様もその点に気づく者が現れたことを喜んだぞ! これなら話がわかりそうだとな!」
「みな同じでしょう。リンカ様に微かにでも可能性を感じたのは」
「微かなんてひどいな」
わたしが軽口で照れを誤魔化していると、ツヴァイが声のトーンを落として付け足した。
「ただ、ゲーデは頑なに認めないでしょうが」
「…」
「あやつはなぁ…」
四天王の一人、死王ゲーデ。
長年、容姿も能力も不明だった。
彼に出会った者は生きて帰らなかったとされている。遺体には外傷は何も見当たらず、命を吸い取るのではないかと人々を恐怖させた。
でも、魔王との最終決戦のためこの城に来たわたしたち勇者一行の前に姿を見せた。
右目に眼帯をつけて短髪であり、まだ10代そこいらの青少年だった。
彼は棒立ちでわたしたちの攻撃を受けて倒された。
じつにあっけない決着だった。
もちろん今までの流れからして生きていてあれは演技だったのだろう。
わたしは彼のことを強く印象に残っている。
とても冷たく暗い目をしていて本気の殺気を放っていた。
彼にはまだ再会していないけれど、その時がちょっと怖い。
どうして他の四天王は友好的なのにゲーデはあんなにも冷たい目と殺気を向けてきたのだろう。
わたしは彼に会ったのはあの時が初めてだったはずだけれど、知らない間に何かしてしまったのだろうか。
「しかし地脈が瘴気に汚染されているとして、浄化にいかほどの時間がかかるか…」
魔王の言葉に物思いをやめて話し合いに意識を戻す。
「大陸の半分近くがもうやられているからな。その範囲の地脈はすでに瘴気が入り込んでいるだろう」
「いくら聖女のリンカ様が協力的とはいえ、魔力も身も到底人ひとりの手にはあまるのでは…」
「それに地下深くをどう浄化するのだ? 地上から浄化できるのか?」
「………」
みんな無言になり重苦しい雰囲気になった。
世界に瘴気が広がる原因らしきものを突き止めたけれど、これはあまりに規模が大きい。
どう手をつければいいのだろう…
いや、まだ悲観するのは早いか。
とりあえずまずは下調べするべきかもしれない。
瘴気が広がっている魔王支配領域の各地の地脈を実際に行って、地脈の分布状態や汚染具合を確認する。色々な場所を見れば共通点や対応策が浮かぶかもしれない。
「ねぇ、提案なんだけどーーー」
わたしはみんなに下調べの提案をした。
みんな同意してくれたので、調べる地点を地図を用意してピックアップすることにした。
ツヴァイが持ってきた大陸の地図には所々今はない国の名前があった。
魔王支配領域にもみんな国名が表記されている。
ラスタ王国の名が載っていて、この魔王城の地域にもとある帝国の名が載っている。
あれ、ツヴァイさん、これ年代物の貴重品では? いいの?
それぞれが意見をだして、気になる地点にピンを刺していく。貴重なものに穴を開けることに罪悪感が凄い。
みなさん古美術品に興味関心が薄いのだろうか。
ツヴァイなんかぞんざいに扱ったら嫌がりそうなのに。そこのところを聞いてみたら「この地図は模写なので問題ありません」とのこと。
なんでも1000年以上前の地図を自前で持っているそうで、それを模写したコピーらしい。それなら良かったけど自力で模写したらしくその労力と熱意が凄い。そして暇だったのかなとも思ったけど黙っておいた。
「…ラスタ王国の神殿跡も確認しに行きたいね。中途半端にしてきたままだから」
「…そうだな。後でまた、な」
古巣があんなに瘴気に汚染されているのは心苦しいだろう。ジュリア王女の祈りを捧げた神様とも繋がりたい。でもあんなに瘴気が異常に濃かったら落ち着いて神様とのコンタクトを取る方法を探していられない。順番に手をつけていこう。
今度は地脈の確認のため、わたしは魔王と共に再び魔王城を発った。
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