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28 瘴気の血管

魔王は近いところにいた敵を数体剣撃で倒し、剣を左手に持ち替えると右手を前に突き出した。



「粉微塵となれ」



腕を横に薙ぐと風の刃が無数に重なり合いながら前方に走った。

その刃は首無し騎士デュラハンを何の抵抗もできないままその鎧数十体を一気に切り刻み地にばら撒いた。鎧からは瘴気の残滓が立ち昇り徐々に崩れて消滅する。

大規模風属性魔法の「ウインドウェイブ」。

大規模魔法とはその名の通り広範囲に影響を及ぼす高威力の魔法だ。上級魔導士以上の魔法を極めた者でなければ扱えないというそれは、大量の魔力量と魔法の知識と扱う力量が必要。未熟な者が発動させようものならコントロールが効かず周囲の環境はおろか、自身の体さえ巻き込んでしまう危険性がある。

上級魔導士が2〜3発で全魔力を空にするというそれを魔王はわたしを中心とした全方向に5発は放っている。だというのにまったく平然としていて格の違いをまざまざと見せつけてくれる。



「今度は騎馬のデュラハンか。馬の魔物なら炎はどうだ?」



倒したそばから湧いていたデュラハンの中に騎馬も混ざりだした。

大規模魔法の「ファイアーストーム」を今度はわたしの周りを避けて全方位に放った。視界には炎が暴風となり吹き荒れている光景が映り、騎馬に乗った影が霞んでいく。

炎が消えるとデュラハンは全て消滅していて焼け焦げた黒く変色した地面ばかりが見えた。

そして間をおかず、デュラハンも騎馬デュラハンも湧いてくる。



「もう100体は倒したはずだがまだ湧いてくるか。これは妙だ」



圧倒されて眺めてしまっていたけれど、これは確かに現れる魔物の数が異常だ。いくらなんでも多すぎる。



「魔王城の謁見の間は瘴気は濃いが、あそこには邪神からの凶悪な畏怖があったため魔物は存在できていなかった。ここは魔王城から距離があるから魔物が発生するのは自然なことだ。だがこの異常な瘴気の濃さと魔物が無限に出てくるのは未だかつて見たことがない」



魔王も経験したことがない非常事態。なにがどうなっているのだろう。



「リンカ、この辺り一帯を浄化してみてくれ。あの森のように。その後の状態が見たい」

「うん! ……ホーリーレイン!」



わたしはあの森こと、女神ウララの森にかけた魔法を放った。

あの時は祭壇のあった土地からこんこんと湧き出る瘴気を浄化するべく、土地に向けて浄化魔法を使った。デュラハンが延々と湧き出てくるのは地面からだ。ならあの時と同じく土地に行き渡らせたら解決出来るかもしれない。

光の雨が収まると、辺りの土地は浄化され瘴気はなくなっていてデュラハンは出なくなった。

これでもう大丈夫かな?

周辺を感知してみるとやはり魔法を使った範囲はきちんと浄化されている。ほっとした。でもそれは束の間だけだった。

浄化した一帯が、紙に水が浸透していくようにじわじわとまた瘴気に汚染されていくのが感じとれた。



「瘴気が…」

「浄化したばかりだというのに元に戻っていく?」



そんな速さで瘴気がまた広がってしまうなんてどうして? 今まではこんなことにならなかった。



「もう一度やってみる!」



わたしはもう一度ホーリーレインを使った。

今度はさっきより魔力を込めたつもりだ。

地面に視線を向けるとさっきよりより広範囲が浄化されている。よく目をこらして感知能力の感度を上げより細かく観察する。なにか手がかりがあるはず。

目の奥が痛み、軽く頭痛がして顔をしかめた。



「どうした、痛むのか? やめろリンカ」



魔王に肩を掴まれ静止されるも続けた。

この謎を解かないと浄化はきっといつか行き詰まる気がする。だから今、原因のカケラだけでも掴みたかった。

表面を細かくみたけれどなにも変わったところは見つからない。

ならばと原因を地下に定めて深く深く、潜った。

全ての意識を感知に向ける。

深く深く、その一帯の地下へ地下へと潜っていく。そうしていくつも地層を抜けて、深い深いその場所で黒い影ーー瘴気が感知に引っかかった。

逃してなるものかと引っかかった地点を起点にして感知範囲を広げた。

瘴気は線状に繋がって、血管のように枝分かれしているのがわかった。流れもあるようだ。本当に血管のようでそれなら心臓部はあるのだろうかと辿っていく。



「ねえ、わたしを抱えて飛んで連れてってくれる?」

「ああ、もちろんだ。どこへ向かえばいい?」



わたしは魔王に抱えられながら、上空から瘴気の線を辿った。血管のように伸びるそれをたどり、より太い線にたどり着き、さらにそれを太い方へと辿っていく。

どれだけの距離を移動したのかわからない。山をいくつも越え、長い時間空中を移動した。そしてその枝の心臓部らしき場所を見つけた。一つの地点を中心にして線が放射状に広がっている。



「あれが、瘴気の線の中心だよ…」

「あの場所は…」



血管のように枝分かれした線の中心、その心臓部には魔王城が建っていた。


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