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26 古巣の思い出(魔王サイド)

魔王視点でこの話は進みます。

"ここがラスタ王国の首都ニルスだ。これからお前が暮らし、忠義を尽くす王のおわす地だ。どうだ、感想は?"

"帝国との戦時下だというのに呑気なもんだな。店の営業はやめ家にこもって居ればいいだろ"

"長く続いている戦時下だからね、みんな縮こまって震えるのは飽きてしまったんだ。元気に声を出して呼び込みをして、普段通りの日常を送って気持ちを保っている。そして戦から帰ってきて心が摩耗している僕らを温かく迎えてくれる。こうした民の為に僕ら騎士はある"

"おい、忠義はどこにいった"

"はは、これから御前に帰還のご挨拶に向かうが、黙っていてくれ"





              *





古巣の都は、城壁は崩れ、道に敷き詰められていた石畳はひび割れ、焼きレンガ製の家屋の屋根は屋内に落ち、乾き切った大地には草木一つなく砂埃が風で舞っていた。

商店の呼び込みの活気も、騎士団の靴や馬の蹄鉄の足音、容易に思い出せる懐かしい喧騒は、今は記憶の中でのみ生きている。



「大丈夫?」



物思いから戻るとリンカがこちらの顔を心配そうに伺っていた。どうやら思ったより長く昔を思い出し呆けていたようで、俺の様子が常と違ったため不安にさせたようだ。



「なんでもない。ただ…昔を思い出していた」

「…ここは思い出の場所なんだよね」



倒れた王城の門柱を跨ぎ敷地内を進む。

扉や窓が壊れ雨風にさらされた裏寂れた王城。

アーサーに連れられ王に初めて謁見してから、副隊長として任務の報告の為に時に足を踏み入れた。



「…あなたは城に住んでいたの?」

「あのあたりに団の宿舎があった」

「え? どこ?」

「いまは崩れて瓦礫になっている」



王城を正面に見て左手に騎士団宿舎があり、その裏に訓練場があった。もっとも任務で何処かに出た盗賊退治や、だんだん帝国との国境沿いでの戦に駆り出される頻度が増え、宿舎にはほとんど帰らなかったが。また隊には脳筋馬鹿が多く、宿舎にいたとしても「訓練しよう」「手合わせを」などと絡まれて休日などあってなかったようなものだったが。

もちろん絡んできた奴は二度とその気が起きんように戦闘不能にしたが、記憶力が悪いのか間が開くとまた挑んできてうんざりした。その元気さは戦場で発揮しろ、と。


崩れかけの王城を右から迂回し王族の生活区域に入っていく。



「…ここはどういう所?」

「この先に離宮があってな、そこに王女ジュリアが暮らしていた」



離宮に向かって乾いた砂地を歩きながら、リンカに答えを返す。

王城から離れたところにいくつか離宮があり、かつてその一つの城から一番離れた離宮に王女ジュリアは住んでいた。当時その離宮に数人の使用人とともに住んでいた彼女は、最低限手入れをされているだけの離宮の花の咲く庭を好んでいた。

俺に報告に行かせている間にアーサーは、愛しの恋人に会いに行っていて幾度も腹を立てた。

人に働かせていいご身分だなと文句と蹴りを見舞うべく逢引現場に向かうと、二人は人気のない離宮の庭の四阿(あずまや)で隠れるように肩を寄せていたものだ。





"いつまでもこうしていたいな。きみと過ごす時間が何よりの幸せだ"

"うれしい。…いつまでもアーサー、あなたと一緒にいられたらいいのに…"

"僕もそうだよ。だから実現するため、きみを娶るお許しをもらうためにもがんばらなければ。また戦に行くことになるだろう。…離れ難いな"

"わたしだって… わたしが共に戦えたら良かったのに。そうしたらあなたを危険から守れるのに"

"きみが僕を守るのかい? 騎士の面目丸潰れだから城でしっかり守られててよ"

"わかっているわ。わたしが戦場に行ったって邪魔なだけだって。剣も魔法も使えないもの… だから神様にどうかあなたを守ってくださいとお祈りを捧げて大人しくここで待っているわ"




戦友の惚気ている姿は見るものではないなと思いその場を離れた。

あの頃が一番平和な時代だったのではないかと思うことがある。戦乱の時代だったし日々命のやりとりをしていたのだからそんなはずはないのだが、なぜか俺が思い出す『平和』『平穏』『幸福』な光景はこれだった。



たどり着いた壁が一部崩れた離宮の庭には、もはや四阿は跡形もない。無理もない、1000年も昔の木造の建物が管理するものもなく放棄されて残っているわけもない。



隣のリンカは辺りを見回しているから興味があるのだろうが、あまり話しかけてこないのは俺に気をつかっているからだろう。

正直これほど自分自身、郷愁に駆られて気もそぞろになるとは思わなかった。それを察してそっとしておいてくれているようだ。

前から人の機微を察するのが上手いようだとは思っていたが、改めて思った。むしろ本人が気疲れしはしないだろうかと思うほど、勇者と共にいた時も、魔王城で過ごすようになってからも、他者を観察し状況によって自分を合わせている。特に配下のあれだけ癖のある連中を相手にしているのだから疲れるだろうにたいしたものだ。


もっと肩の力を抜いてくれていいのだが。

そういえば、城に連れてきてからずっと魔王城の敷地内にこもってせっせと浄化に勤しんでいる。結果的に行動を制限してしまっているが文句一つ言わずに。

これは久々の外出になるわけで、それなら気分転換をさせてやるべきかと思案する。



「ここでの居心地はどうだった? 楽しかった?」



唐突な問いかけに面食らう。

楽しかった? 特にそう思ったことはなかった。

だが、当時あったことはよく憶えている。

碌でもない出会い方だったアーサーとは共に戦場で戦った。戦が終われば隊の全員で酒盛りをして騒いだ。忠義心などまったくなかったが、他者と関わるのが鬱陶しく、根無草で流れ者だった自分が腰を据えて暮らした程には嫌ではなかった。



「悪くなかった」



そう思えたということは、つまりはそういうことだったのだろう。


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