22 夢の中の邂逅
"キミがやる気になってくれて良かったよ"
どこからか声が聞こえたけれど辺りは暗闇で声の主の姿は見えない。
"ああ、姿を見せた方がいいかな? ボクだよ"
正面に人が現れた。
"道化師、なんてボクを呼ぶ者もいるね"
かつて魔王城で一度だけ会った仮面をつけた謎の人物。相変わらず仮面をしていて煌びやかな格好をしている。
"覚えててくれてうれしいよ。ボクはキミをいつでも応援しているよ。そうそう、応援のひとつとしてこれを渡しておくよ。これはーーーーーー"
「起きろリンカ」
目を覚ますと魔王が目の前にいた。
また、寝室に入ってきたのか。
寝起きの顔を見られたくなくて、掛け布団を目まで引っ張り隠れた。
目やにとか口からよだれが出てないかが気になって袖で拭く。
わたしだって寝起きを異性に見られたら恥ずかしいのを分かってもらいたい。
なんなの、聖教会では部屋に男を入れるな的なことを言っていたくせに自分が破っているじゃないと内心で文句を言った。
「妙な気配がしたから見にきた。何かあったか?」
緊急事態だからきてくれたのか。
そういえば昨日も部屋で浄化の力使ったから何かあったのかと緊急だと思ってきてくれたのだった。
それは文句を言えない。どちらかというと心配してくれてうれしい。照れくさいから言わないけど。
カーテンの合わせ目からうっすら光が漏れている。どうやら朝のようだ。魔王はベッドの脇に立って難しい顔をしていた。
「…お前、奴の気配が微かにするな」
「やつ?」
「道化師だ」
「あ」
そうだ夢に出てきた。
それで最後になにか言っていた。確かーーー
「奴め、何をしに来た…」
「あのね、これに毎日魔力を注げって」
「なんだ?」
わたしは手に握っていたトルコ石のような流線形の見慣れた形の青い物体を見せた。大きさはウズラの卵くらい。そう、青い卵に見える。
「これがわたしの力になるって」
"これはいつの日かキミの力になるから大事に育ててね"
道化師は仮面の向こうで楽しげに笑っていた。
謎の物体を手に取りいろいろな方向から眺めると小ぶりなクッションの上にガエルは置いた。
「見たことのないものだな。俺様の知る限り魔獣の卵ではない」
「何の卵でしょう」
「わからない…」
「そもそもこれは卵なのか?」
「わからない。卵? 石? でも石にしては軽いかな」
ガエルが爪で弾いてみたり、振ってみたり、陽にかざしてすかしてみようとしている。
振って大丈夫なんだろうかとはらはらする。
「表は硬い。振ったが音はしない。重心が動いた様子もない。陽に翳しても透けないため中に物が詰まっているのか空洞なのかもわからん」
魔王城に住んで3日目、2度目の道化師との邂逅はわたしたちに戸惑いをもたらした。
謎の卵(?)を魔王に見てもらったけど何なのかわからなかった。
魔獣の卵だったらガエルが知っているかもしれないと、こうして朝食の席で見てもらっている。しかし正体はわからなかった。
そもそも道化師と呼んでいると言う仮面の人物は何者なんだろう?
「仮面の人…男の人かな? 何者なの?」
「正体はおろかいつから存在しているかもわからん。神出鬼没で魔力感知では捉えられず、おそらく実体もない。こちらの邪魔もしなければ手助けもしない傍観者といった存在だった。それが初めて、お前に対して行動をしてきている。…何が目的かわからん。敵か、味方かもだ。奴に対して警戒はしておけ」
魔王もわからない相手か。
でも最初に会った時、わたしとウィルをロンバルディ王国に転移させたあの時ーーー
「あの時に"世界を見ておいで"っていったんだよ。あれって"この世界を魔王討伐っていう敷かれたレールから外れて見ておいで"って意味だったのかなって今にしてみれば思うんだよね。そう考えると、魔王の味方の気がするんだけど…」
「味方ね。あんな顔すら見せん胡散臭い奴は信用できん」
ごもっともで。わたしも「ボク味方だよ」って言ってこられたら怪しすぎて信じないな。
「さて、道化師は置いておいて卵はどうしますか?」
「いまのところ危険はなさそうだが…」
「…とりあえずわたしが持っとくよ」
「しかし…」
「"いつかわたしの力になる"って言ってた。…とりあえず様子見してもいいと思う」
「…わかった。違和感があればすぐに言え」
卵(仮)はわたしの部屋に置いて毎日魔力を注ぐことにしよう。結局なんなのかよくわからないけど育てるってくらいだし生き物なんだろうから、暖かいように日当たりがいい窓際がいいだろうか。
「どれくらい魔力を注げばいいのかな?」
「奴は言っていなかったのか?」
「うん、何にも」
「飼育方法は飼うにあたり必須だというに! なんと無責任な!」
魔獣愛好者のガエルが憤慨しているが、ペット的な扱いでいいのかなコレ。
「正体すらわかりませんから困りますね。文献があればよいのですが」
「文献…城に参考になる本ないかな?」
「あったとしても瘴気で黒ずみ読めんぞ」
「じゃあ浄化してみようか。参考になるものがあるかもしれないし」
「いいですね! 城の書庫を丸ごと浄化していただきましょう。貴重で有益な書が見つかるやもしれません」
ツヴァイの目が輝いたように見えた。
「お前は研究に役立つ書が見つかるのが目当てだろう」
「知識欲がツヴァイは強いからなぁ」
「リンカ様、さぁ書庫へ参りましょう」
彼はスタスタと食堂の出口に向かい扉を開けてわたしを急かす。初めて見るレベルの高いテンションなので乗り気なのが伝わってくる。
反対にテンションが低く、眠そうにトロンとした目をしてあくびをしているのは昼夜逆転体質な吸血鬼ヴラド。朝になったのでおねむの時間のようだ。
「ふあぁぁ、僕はこれから眠るよ。おやすみ。聖女様、僕、一人寝がさみしいから一緒に…」
「「「さっさと寝ろ」」」
魔王と四天王2人がバッサリ切って捨てた。
テンション上がって部屋から出て行こうとしていたツヴァイまで加わっている。
息があってて慣れてるんだなと思い、3人に心の中で感謝と共に労いの言葉を送った。
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